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ビニース・ザ・ウィール -反逆少女と宝石令嬢-  作者: 悠葵のんの
第二章《to dress, un-dress and, re-dress》
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第21話『早朝の清掃』

     ☆


 ラフィーネさんを追いかけて大広間の階段を下りる、その途中のこと。

 眼下にふと、クッションをソファーに落としている女性の姿が目に入った。


 ……あれは何をやっているのだろうか。

 私と同じデザインの制服。使用人であることに間違いはない。

 けれど、清掃作業にしてはアグレッシブすぎるような気もするし。

 かといって、物にあたっているにしては慣れた機械的動作にも見える。


 結局、答えも予測も浮かばないまま階段を下りきると、ラフィーネさんがその女性使用人に声をかけた。


「ジスティ。おはようございます」


 落としたクッションを拾いながら、ジスティと呼ばれた背の高い女性はこちらを振り返る。


「やーやー、ラフィーさん」


 目が合う。声をかけたラフィーネさんではなく、その後ろの私と。

 それからどこか得意げな、値踏みするような笑みが浮かべられた。


「そちらが噂の新人さん?」


「マリモといいます。よろしくお願いします」


「いいね、真面目そうな子だ。あたしはジスティ。よろしくねー。んでこの娘、ウチ預かり?」


「今朝はそのように」


「朝食は? ベルナデット様とご一緒するの?」


「いえ、給仕をしてもらう予定ですが、食事は階下で共にしてもらいます」


「オーライ。あとは任せて新聞のアイロン掛けでもしてきなさいな」


「ええ、そうさせてもらいます」


 おぉ……なんてスムーズなやり取り。

 ただ仕事に慣れているだけじゃない、まるで古くからの戦友のような、互いの呼吸を理解し合っている感じが見て取れた。


 お二人とも年上とはいえ、私と五歳離れているかどうかといった年齢のはずだ。

 それでこのベテラン感。短い事務的な会話というだけなのに、圧倒される……。


「ではマリモ、この場は彼女の指示に従うように。私は別の作業がありますので、ここで失礼します。朝食の席でまた」


「は、はい……」


 足早に、階段横の扉を開けて去り行くラフィーネさん。

 その背を見送っていると、鼻先でパチパチと二回指を鳴らされた。

 それだけで、私の意識はジスティさんに釘付けになる。


「仕事、してくよ見習いちゃん。まずはそっちのクッションを落としてみよう。ほら、こんな感じ」


 クッションの一つを手に取ったジスティさん。

 それを先ほど見たように落とし、持ち上げては軽く手で均す。

 すると、偏りヘタっていた中の羽毛が、元の柔らかさと綺麗な形を取り戻した。


「このほうが早く楽に形を整えられるんだ。ついでにちょっとしたストレス解消にもなる」


 さあやってみな、と目線で示されて、私も別のソファーからクッションを持つ。

 すごく良いシルクの手触り……と無言で驚きつつ、お手本通りにやってみる。


「ん、いい感じ。そしたらそれは綺麗に並べてと。よし、早速一個仕事憶えられたな? あとはこれと同じことを応接間と書斎でもやるんだけど、今日はもう終わってるから、明日以降頼むよ。カーテンと窓を開けて、絨毯やソファーの掃除をして、それでクッションをってのが全体の工程でね。来てくれ、掃除用具があるところに案内するから」


「あ、はいっ……」


 返事をする前にはもう歩き始めていたジスティさんに、慌てて付いていく。


 行き先は階段下。なんと目立たないところにある壁が隠し扉のようになっていて、収納スペースに繋がっていた。

 階段下の物置というには広い部屋だ。箒やモップ、バケツに梯子に枝切りバサミ、それらを運ぶワゴンまで一通り揃っている。


「掃除で使う大抵の物はここにある。覚えとけよ? んじゃこのバケツに水入れて。雑巾二枚、水拭き用と乾拭き用。磨き粉にブラシも持ってくか。さ、正面玄関に行くぞー」


 掃除用具を持って大広間に戻り、そこから玄関へと向かう。

 清掃の時間だからだろうか。

 両開きの扉は開け放たれていて、朝の澄んだ空気に、頬を撫でられる。


「マリモにはここの掃除をしてもらう。昨日は雨が降ったからな。ドアノブやドアノッカー、金具なんかを綺麗に磨いて、あとは下のほうに跳ねてる泥も拭ってくれ。床のほうはブラシを使ってさ。やれるか?」


「死力を尽くします」


「いいね。その雑巾とどっちが先に擦り切れるか競争だ。門の前にさ、メイドが一人いるの、見えるか?」


 指で示された方向を振り返る。

 確かに、噴水を挟んだ正門の辺り、掃き掃除をしている方が居る。


「彼女はトワル。今朝はあの辺りを掃除することになっててな、つまりあの子がこっちに戻ってくるときが掃除の時間の終わりだ。それが制限時間ってことで、じゃあ始めてくれ」


 ぱんッ――と号砲代わりに手を叩くジスティさん。


「はい……!」


 それに気合いを入れた返事をして、私は掃除を開始した。


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