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ビニース・ザ・ウィール -反逆少女と宝石令嬢-  作者: 悠葵のんの
第二章《to dress, un-dress and, re-dress》
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第20話『使用人生活・一日目』

     ☆


 翌日――六月三十日。火曜日。

 時計が五時二十分を指し示し、朝の雲雀が鳴き出した頃。

 昨夜と同じノックの音が聞こえた。


 どうぞ、と返事をすると扉が開き、麗人が姿を見せる。

 室内に響くのは規則正しい足音と、腰に提げた鍵束の発する金属音。

 早朝のどこか弛緩した空気を引き締める、厳かな存在感。

 私は敬意を持って、挨拶をした。


「おはようございます。ラフィーネさん」


「おはようございます、マリモ」


 昨日と違い名前を呼び捨てにされたのは、もうお客様扱いされてないことを意味していた。

 改めて、身も心も引き締まる思いだ。


「寝坊の心配はないようですね。普段からこの時間に起きているのですか?」


「眠りが浅いほうなんです。体調に問題はありませんので、もしお手伝いできることがあるようでしたら、もっと早い時間からでもお勤めできます」


「そうですか、覚えておきましょう。……これを。昨夜採寸した通りに整えてあります」


 ラフィーネさんは左腕に抱えていた物をベッドの上に並べた。

 それは綺麗に畳まれたお屋敷での制服――メイド服だった。

 しかも見たところ二種類ある。


「白いエプロンのほうは給仕やベッドメイク用に。グレーのほうは汚れても構わない掃除用に使います。それから午前のスケジュールを書き出しました。頭に入れておいてください」


「は、はい。ありがとうございます」


 さっと内ポケットから取り出されたメモ用紙を私は受け取り、早速目を通す。


 何々……五時半から六時まで館内清掃の手伝い。

 その後に朝食と着替えを済ませ、七時からダイニングルームでの給仕に参加。

 それが終わり次第、登校の準備を整えて七時五十分には馬車でお屋敷を出発。

 学院に到着後はお昼休みまで自由時間。

 昼食はベルナデット先輩とご一緒して。

 放課後にまた馬車を使って、お屋敷に帰ってくる……と。


「帰宅後と明日以降のシフトはまだ調整中ですので、決定次第お知らせします」


「かしこまりました」


「それでは速やかに着替えを。既に日は高く――初陣はもうすぐそこですよ」


「……はい」


 静かに、けれど己を鼓舞するように返事をする。

 外で待っていると言って、一足先に部屋を出るラフィーネさんを見届け、制服に手を伸ばす。


「…………?」


 ふと、ポケットの縁に小さく刺繍された文字が目に入った。

 J――私のイニシャルだろうか?

 いや、昨夜の採寸後に入れたにしては、糸が古いような気がする。

 となるとこれは、前の持ち主のモノか――と、いけないいけない。

 思索に耽る状況じゃないぞ、今は。


 と、私は素早く黒のワンピースとグレーのエプロンを身に纏い。

 束ねた髪に被せるようにして、白いヘッドドレスを飾って……よし。

 メイド服という使用人にとっての甲冑に衣装チェンジした私は、最後に室内を一望できる位置でお辞儀をしてから、客室を出た。


 お客様としてこの部屋に戻ることは、きっともうないだろうから。


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