表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビニース・ザ・ウィール -反逆少女と宝石令嬢-  作者: 悠葵のんの
第一章《星を追いかけて》
20/64

第19話『――まだ、星は見えている』

     ☆


 時刻は午後九時過ぎ。

 私は窓辺のソファーに座り、ぼうっと雨の音を聴いていた。


 目の前にあるテーブルの上には、空のお弁当箱。

 採寸を終えて、再び空っぽの時間を過ごして。

 それからようやく食欲が出てきて、食べることができた。


 ……結局、時間も場所も大きく予定を外すことになったな、と苦笑する。


 教室か。階段の踊り場か。中庭か。最悪お手洗いでひとり寂しく――なんて考えてもいたけれど、的中したのはひとりの部分だけで。

 その事実が、なんだか少しだけおかしかった。


 ままならない現実。もどかしい空想。

 微かな嬉しさもあれば、どうしようもない不甲斐なさもある。 


 せめて自らの意思で選択できたのは、夕食をここで済ませることぐらいか。

 というのも実は、客室に案内される直前、先輩からディナーのお誘いを頂くという一幕があったのだ。


 華麗かつ荘厳であるお屋敷の、魅惑の一夜。

 豪勢なディナーを前に、きちんとマナーを守れているか緊張しながら、先輩と談笑しながら食事をさせてもらうという夢のような機会は、手を伸ばせば届く位置にあった――けれど。


 なぜそれを、心苦しくも辞退させてもらったのか。

 理由としては、手付かずのお弁当を無駄にするのが勿体なかったのもあるが……正直、ひとりで考える時間が欲しかったというのが、比重としては大きい。


 今日は本当に、色々なことがあったから。

 静かに思索に耽る時間が……必要だった。


「…………」


 ダブルベッドの横に置かれた暖色のライトが、ガラス窓に張り付く雨粒を照らしている。

 カーテンが閉じられていないのは、わざわざ私が開けたから。


 昔からの癖、とでもいうべきか。

 月明かりを浴びる夜から、網膜を焼く夜明けの陽射しへと。

 終わりも始まりも曖昧になる日々の中で、それだけが、私の寄る辺だった。


 しかし当然、今夜の月は雲に隠れてしまっている。

 見えるとすれば、窓に反射している自分の姿だけ。

 色のない粒がぱらぱらと、透明の向こう側にいる私に降り注いでいる。


 服も、髪も、頬も、濡れることはないけれど。

 段々と輪郭が失われて、暗闇に溶けるみたい。


 進むべき道は不確かで。貫くべき流儀は言葉にできなくて。

 何も成し得ていない口だけの無形が、寂寞の中で下唇を噛んだ。


 赤が垂れる。地面に落ちて小さな海を作る。

 むせかえるようなペトリコール。宿業の轍。

 亜麻色の罪科は私の背後で何よりも優しく微笑み、首元に両腕を絡ませる。


 墜ちゆく先は虚無――からっぽのそら、だけど。


「まだ、私には見えている……」


 向かい風に煽られる暗い海の上でも、信じたいモノ。諦めたくないナニカ。

 それは正しさとは違って。

 きっと見返りでもなくて。

 まだ形にするには遠いけれど、だとしても見えているんだ。


 いつか隣り合った星のような、青く尊い、灯台の光が――――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ