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ビニース・ザ・ウィール -反逆少女と宝石令嬢-  作者: 悠葵のんの
第一章《星を追いかけて》
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第13話『三日月の冷笑』

     ☆


 手を付ける機会も気力も失ったお弁当箱を片手に教室に戻ると、軽蔑の視線と三日月の冷たい笑みが一斉に私のほうを向いた。


「……ねぇ帰ってきたよ!」


「がちで先輩にお茶ぶっかけたん? やばくね? 倫理観どうなってる?」


「出る杭は打たれるって言うけど、さすがに化けの皮剥がれるの早すぎだよ」


「目立つ人がやらかすのか、やらかすから目立つのかねぇ」


「てかあいつ結局どんな魔法使えるの? 木を桜に変えるだけ? それって実はしょぼくね?」


 まだお昼休みということもあって教室内の生徒はまばらだが、私がベルナデット先輩に無礼を働いたことは、もうとっくに知れ渡っているようだった。


 当然か。校舎に戻ったときに遭遇した隠れ見物人は、相当な数だった。

 この分だと高等部全体どころか中等部にも話は広まっているだろう。


 それでも先輩のアピールのおかげで、あの出来事はあくまでも個人間の問題という認識になっているのは、不幸中の幸いか。


「へへ、なんか下手こいたみたいっすね、マリモさん」


 自分の席に着くと、隣で彩り豊かなお弁当をつついていたクロヴィスが、にやりと悪い笑みを浮かべてきた。


「……なんて言えばいいか。また幻滅させたでしょう」


「いいですよ、もう。むしろお互いにかっこ悪いとこ見せ合えて、気が楽ですぜ」


「慰めになるわ。ありがとう、クロヴィス。でもこれ以上は……今は私と話さないほうがいい。あなたまで悪く言われる必要はないもの」


「あんなの、ただの様式ですよ。それに俺、品行方正でやってるわけでもないし、これもケジメです。あそこでアンタに声かけたそうにしてるヤツに、まだ何もできてなかったんで」


 言いながら、クロヴィスは前方の席を見る。視線の先に居るのはルカだ。

 彼女は前の休み時間から引き続き、生徒からの相談を受けていた。

 話の合間、相談者の女生徒が蔑むように私を睨みつける。


 だが、すぐにルカがそれを宥めて……浮かない表情で私を一瞥しては、本題に戻るという名目で何事もなかったように相談話を再開する。


「悪く思わないでやってください。あいつ、良くも悪くも誰にでも優しいから、ここで自分の好きにしたら誰も幸せにならないって分かってんすよ」


「ええ。ルカの気持ちはちゃんと伝わっているわ。副委員長の立場も理解しているつもりよ」


 前世の記憶を持つ転生者の派閥、青春履行委員会。

 前世の記憶を持たないヘリオスレッタ生まれの派閥、未来玲瓏協会。


 両組織はアプステラ高等部で設立され、すぐに中等部を巻き込み、今では物理的に校舎の遠い初等部と大学部にまで多かれ少なかれ影響を及ぼしているという。


 そしてその対立は、一般的な学生のイメージからかけ離れるような過激な一面もあり……。


『ああッ、最初にこの世界を開拓したのは転生者だよ! けどもうそうじゃない……! 今じゃあ前世に囚われ、訳知り顔で己が悲劇を語り、未来より過去の清算を優先する連中に成り下がってる! そんなのに学院の……世界の舵取りを任せていたら、このヘリオスレッタはいつまでも前に進めないだろ! だから僕らが未来を創っていかなくちゃならないんだろ!』


 ――私を誘拐して、そんな風に訴えた彼の言葉を、思い出す。


 あの一件を踏まえて考えれば、ベルナデット先輩への粗相は、火気厳禁の火薬庫でライターを使ったようなものだ。


 先輩は協会所属で、一方私は転生者かつキリエやルカと仲が良いことから、ほぼほぼ委員会側だと思われていて。


 そんな状況で副委員長であるルカが私を庇えば、私は余計に委員会の身内だと思われて、協会側は喧嘩を売られたと思うだろうし、委員会の穏健派は騒ぎを起こした私を疎んじる。


 ゆえに事態の悪化を防ぐためにも、ルカは私と無関係を装うしかないのだ。

 ……彼女にまで負担を掛けてしまうなんて。


「…………っ」


 ――私にまだ、できることはあるのだろうか。

 そんな愚考が浮かんでは、拳を握って否定する。


 現状、私は全生徒に監視されていると言っても過言ではない。

 そんなときに無計画に動けば、さらなるドツボにはまるだけだ。


 だから待て。余計なことはせず、ただひたすらに。

 ベルナデット先輩の使いが来るという放課後を……。


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