3 親友
「人が夢の世界で見た夢を喰らう──それが夢喰いの仕事である! ここ現の人間は、なにも知らないがな!」
扉の前で足を止め、チャーリーを振り返る。
「さて。そんな私はどこからやってきたでしょう?」
知る由もない。
「きみのうちかい?」
「ハッハ、正解はだな──」
こちらの答えになど聞く耳を持たず、ウキウキと正解を口にする。
「私は夢と現のあいだの世界、『狭間』の世界からやってきた! 狭間の世界の住民である!! ──どうかな? ビックリしてくれたかな?」
離れたところからボタンの目をキラキラさせて、こちらに身を乗り出している。よくわからないけれどそれにうなずく。「驚いたよ」
「それはよかった!」腰をそらして、「次、狭間の世界!」
部屋をうろつきはじめる。
「狭間──夢と現のあいだの世界。そこでは、唯一とされる神『夢見神』が現の人間に夢を見せ、その夢を夢喰いが喰らう。そして『管理者』と呼ばれる者たちが、夢と現の境界線を管理する。その二つが、ゴッチャになるのを防ぐために。──ハッハ、どうだ? スバラシイ仕組みだろう。それと、管理者どもは人間だし、それ以外にも人間はいる。こんなのばかりじゃないワケだ!」
天井を見上げてガッハッハと笑う。
「さて。前置きはこれくらいにして、本題に──」
「きみのこと聞いてないよ」
なにもわからないまま進んでいくので、とりあえずさえぎっていう。すると、
「鋭い! 私はだな……」
動きを止め、なにやら考えあぐねたようすで腕を組み、視線をあちこちさまよわせている。
「っそうだ!」なにかを思いついたのか、パッとカオを上げる。「私は夢喰いの中でも〝特別〟であり『格別』な夢喰いでね!」
組んだ腕を解き、人差し指を立てる。
「なにせそう、人間どもの夢をかなえることが、私の使命! 宿命なのだ! ほかとは違うッ」
使命。
「遠い昔の約束なのだ! それを果たすまで、私は夢をかなえ続ける!」
約束──
口を結んだ彼のカオを見て、ふとたずねる。
「何体もいるのかい?」
「六匹である!」
それからまた、彼のカオがニンマリとする。
「ハッハ、これでどうだ? 聞きたいことは……いやッ、細かいことはいいのだ! そんなことより……」
なにかいいかける彼に、最後に一つ、どうしても気になるナゾを放る。
「ぼくら、いつか会ったことあったかい?」
その言葉に、ドミーの動きがピタリと止まった。
「──というと?」
まるで、彼の周辺の時間まで一緒に止まってしまったのかと錯覚するくらい、固まったそのカオにたずねる。
「なにかの夢で、きみの声をよく聞くよ。きみの仕業かい?」
この問いに、瞳孔と思しき十字とバツが、みるみるうちに小さくなって、
「ッあああぁぁぁああ!?」極限まできたところで叫び声を上げる。「まさか、覚えていてくれたとは!?」
かと思えば、唐突に静まり返る。
「いや、しかしそれは、私の仕業ではないな。とすれば、それはキミの、私の記憶の残片だろう」
なかなか気になるいい回しをする。変わり身の速さにおびえながらも、
「ぼくの……?」
「そうじつは……はじめいうつもりはなかったのだが、私とキミが会うのは、これがはじめてじゃない」
神妙なカオで、驚くべきことをいい出した。
「なんてったって、これで五回目だ。これまでの四回、私がしくじってしまってね、そのたびにキミは私との記憶を消されているから、覚えていなくて当然だ」
なんだって? ぼくの記憶……
「誰に消されるんだい?」
「それはいえないが……あっ、私ではないぞ!」
それから彼はギュッと目をつむると、一呼吸置いて、いままでの調子に戻る。
「しかし、なんということ!! 私のこと、覚えていてくれたとは……」
そういったきり、どこか上の空で空中を見つめる彼にたずねる。
「それでぼくの名前を知ってたワケかい?」
「ハッ。そうリサーチだ!」
こちらに戻ってきてもらう。
それと同時に疑問も尽きたので、おそらく彼のいおうとしていた、それについて口を開く。
「それじゃあきみは、なにしにやってきたんだい?」
「話そうじゃないか! 私がきょう、キミに会いに来た目的を!」
ニッコリ笑って、チャーリーに向き直る。
「なんてことない、キミを迎えに来ただけさ!」
こうこうと月光を浴びて、その姿が淡く光る。
「私と二人、こんな世界から抜け出そう! 狭間の世界でともに暮らそう!」
こちらを見据えた彼の目が、キラキラとかがやいている。
──迷う余地はない。望まない理由もない。
ところが、
「もうひとつ!」うなずきかけたチャーリーに、彼は一段と大きな声を上げる。「私とくれば、キミのホントウの夢もかなうだろう!」
「……ぼくのほんとうの夢?」
「そうだ!」
笑ガオでうなずく。
「キミならわかるだろう? わからなくても、そのうち思い出すさ! キミならね!」
と、チャーリーを信じて見つめたまるいボタンの目を、ふいに閉じる。
「だから、そのために──親友として相棒として、人々の夢をかなえよう!」
そういって、ようやく目の前に白手袋の手が差し出される。
なんの脈絡もなく、つけたされた〝親友として相棒として〟……。出会って数分のセリフじゃない。けれど。
差し出された、その手を見つめる。
まぁ、いいか。
「ありがとう」そうして彼の手をとった。「ドミー」
彼を見上げる。
「……ドミー?」
よっぽどうれしかったのか、感激したのかわからないけれど、彼の中の感情が、ワナワナワナッと全身の揺れになって表れている。
「大丈夫かい?」
「ハッ」鋭く息をのみ、故障したような彼はシンと静まる。そして、
「──大丈夫である!」ウソくさい彼はいう。
「な、なにせ、キミと私はこうなる運命で結ばれているのだから! 驚くことはないっ」
小さくいってから、フフフフーンッ! 決して上手ではない鼻歌を。
「ハッハッハ、さっそく外へ──といきたいところだが、出発はきょうではなくてだな!」




