第8話 キース④
ヒーロー・キース視点です。
短め
「キースさんお久しぶりです。申し訳ございません。魔法の授業を3週間も先送りにしてしまって。」
「全然そんな!忙しいのは目に見えてましたし。」
俺とヴェネフィッタさんが、食堂でトーカス語の文書の謎を解き明かした後から、王宮は騒がしくなった。
ここ5年、この国では魔法使いの誘拐事件が相次いでいたらしい。俺が王宮警備隊に入隊した初日に聞かされたくらいだから、問題視はされていたはず。だけど今まで足取りがさっぱり掴めていなかった。
魔法使いは、この国より以西の国にしか存在しておらず、東にある大国、クリストフォールなどでは魔法使いは喉から手が出るほど欲しい状況。だから他国の人間の仕業か、この国の人間がやっているとしても少なくとも誘拐された魔法使いは他国に売られているだろう、と推測されていた。
だが、他国に人間を連れ出した形跡が全く見つからないのだ。
それゆえにお手上げ状態だったらしいのだが…
そりゃ、外交部のお偉いさんの荷物に紛れて連れ去られていたら分かんないよな…。
外交の一環として行く高官の荷物をこちらの国が調べる訳がない。行く先の国は入国の際に調べるかもしれないが、その国が商売相手なのだからその際に引き渡されてさよならだ。
外交部は、会計監査どころではなく、王家直轄の特務部隊の取り調べを受けているらしい。魔法で無理やり話させられてるとかなんとか。
それに伴い、ヴェネフィッタさんは忙しそうにしていた。会計監査の手からは離れたのかと思いきや、そうではないらしい。よく分からないけど。
「あの…最近寝れていますか。本当に魔法の授業してもらって大丈夫なんでしょうか。」
「大丈夫ですよ。気分転換にもなりますし。本当に引き継ぎが大変で頭がおかしくなってしまいそうなので。」
引き継ぎ?
「異動でもされるのですか。」
「え?はい。キースさんもでしょう。」
「あ、ご存知なんですね。そうです、俺も早速異動になりまして。」
このたび外務局の大半が会計の不正に関わっていた上に、もっと重大な魔法使い拉致に上層部が関わっていたことで、外務局のメンバーが刷新されることになった。
とはいえ、外務局に勤められるほど外国語が堪能な人間はそこまで多くないわけで。元々入る予定だった俺はいの一番に外務局入りが決定してしまった。
「上司が第一王女殿下らしいんですけど、お会いしたことなくて…。」
王太子殿下と第二王子殿下には警備隊初日に挨拶させてもらったけど、第一王女殿下はお仕事でお会いできず、第二王女殿下はまだ学生ということでお会いできてない。
怖い人じゃないといいのだけど。
「面白い冗談を言いますね。」
「冗談?」
くすくすと笑うヴェネフィッタさん。しかし笑っている理由が分からない俺の戸惑いを見て、ヴェネフィッタさんは真顔になり、ポツリと呟く。
「もしかして…」
「うぉぉぉ誰がこんなところで逢引きしてるのかと思ったら!」
大きな声が聞こえて、王宮警備隊の隊長、ローズ=アリドネア隊長が現れた。どうやら見回りらしい。
「ローズ!久しいですね。元気でしたか?」
「殿下こそ、元気ですか?お仕事大変だと聞いてますよ。」
ん???
「今の会計監査の引き継ぎと、これからの外務局の引き継ぎどちらもしているので、ちょっとバタついてはいますが、元気ですよ。」
「それにしても殿下、今回の魔法使い誘拐事件に関しては大活躍だったとか。」
「それに関してはこのキース=ヒューステッドさんが大きな力を発揮してくださいました。ですので、王宮警備隊のおかげでもあります。」
「そうだそうだ。よくやったな!キース」
「ありがとうございます。…あの。」
俺は小さく手を上げる。
「王女殿下、なのですか?」
ヴェネフィッタさんは珍しく口を開けて笑った。
「はいっ!そうですよ。ヴェネフィッタ=トライガル。この国の第一王女です。」




