第3話 キース①
ヒーロー・キース視点です。
「仕事慣れてきた?」
王宮の巡回から警護室に戻ってきたところを王宮警備隊の副隊長、カーブス=アリドネアに声をかけられ、俺、キース=ヒューステッドは元気よく返事をした。
「まだ3日目なのでよく分かりませんが楽しいです!」
机に向かって勉強しているだけの学校より数倍楽しい。王宮内をぐるぐる回っているだけでいいし、困っている人を助けると気分がいい。これでお給金がもらえるなんて信じられない。
「楽しいって…ちゃんと仕事に集中してね。不審者見抜くんだよ。この国は誘拐事件もすごく多いんだから。」
「もちろんです。」
一昨日見かけたあの人が、また庭で寝てしまっても安全でいられるように…。この王宮の治安を守らなければならない。
昨日、彼女がいるはずの税務局会計部監査課に挨拶に行ったけど、彼女は丁度家に帰っているタイミングだった。会えなかったのは残念だったけど、無事に家に帰れたようで安心する。
「君、魔法の素養はあるけど、ほとんど魔法は使えないんだよね。」
「はい。クリストフォールに魔法はないので、習ったことがありません。感覚で使えるような簡単な魔法なら使えるのですが。」
魔法がない隣国、クリストフォールの寄宿学校に8歳から10年通っていたから、魔法にほとんど触れずに生きてきてしまった。
「どこかで魔法習わないとね。いくらそのうち外務局に行くとしても、王宮警備には必須スキルだし、貴族の令息が魔法使えないのはまずいからね。」
「本当に私って外務局に行かされるんですか…?」
「行かされるんですか?って、あそこはエリート中のエリートだよ。皆行きたがるんだよ。」
本来、俺はこの国に帰ってくるにあたり、外務局所属になるはずだった。通っていた寄宿学校にはクリストフォールの要人の子供たちがわんさか通っていて、彼らと親しい俺は、外交に使えると思われたらしい。
ただ外務局で問題が発生し、今新人を受け入れられる状況じゃないということで、俺は王宮警備隊に配属された。陛下のお考えらしく『王宮警備隊だと人の顔も覚えられるし、覚えてもらえるからな。』とのこと。
机に向かっているより動き回ることの方が好きな俺は陛下に感謝しかない。できればこのまま功績を立てて王宮警備隊に居座りたいところ。
やはり副隊長の仰る通り、魔法は必須になってくるな。
「魔法学ぶにはどうしたらいいですかね。教室とかあるんですか。」
「親に頼んだらいいんじゃない。ヒューストン侯爵家なら優秀な魔法使いを付けてくれるでしょ。」
「碌にしゃべったことない親に頼めないっす。」
「あ~それもそうか。でも、基本魔法学ぶのって学校か家庭教師だからねぇ。うちも特別に教育してないし。新しい魔法ができたときくらいか。」
う~んと首を四方八方に動かしながら悩んでくれる副隊長に、俺は意を決して頼む。
「副隊長…魔法、教えてください。」
「やだよ。面倒。」
笑顔で即答かよ。
「まぁ隊長にも相談しておくよ。隊長面倒見がいいから直々に教えてくれるかもしれないし。」
「それは…まずいです。」
「なんで?隊長だからって気を遣う必要ないよ。あの人世話好きだし、フランクないい人だから。」
「それは分かってますけど…。」
数回挨拶しただけだが、分かる。あの人は気のいいひとだ。頼んだら快く引き受けてくれる気がする。
でも、だめだ。
「隊長は女性じゃないですか…。」
「はぁ?君、女性は能力が低いとでも思ってる?」
「違います!断じて違います!そうじゃなくて、俺!10年女性と関わってきてないんです!」
「は?」
「俺が通っていた寄宿学校は女人禁制だったから、この10年、女の人とほぼ喋ったことがないんです!隊長に優しく魔法なんか教えてもらったりなんかしたらぜっっっったいに惚れちゃいます!」
「うわぁ。」
ドン引きしている副隊長。舐めないでほしい。女性と触れ合わず生きてきた男を。
「この間、人命救助の一環として女性の手を握ったんですか、柔らかいし、すべすべだし、小さいしでどうしたらいいか分からなかったんですよ!しかも三日お風呂に入ってないっていうのにすっごくいい匂いがして…。」
どれだけ心臓がバクバク鼓動したことか。艶やかな黒髪にサファイアのような青い瞳。切れ長の目元と細い体からパッと見の印象は『綺麗』だったけど、喋るとほわほわしていて、そのギャップが魅力的な人だった。このままだと容易に好きになってしまうと、ろくに顔を見ないようにした。
「惚れたの?」
「まだ大丈夫です!深呼吸でなんとか気持ちを落ち着かせましたので。」
「見た目的に女慣れしてそうだから、これから女の騎士とも組ませていこうと思っていたんだけど。」
「警備隊の中で男女のいざこざを起こさせたくなかったら、私が女性に慣れるまではやめておいてください。」
「キメ顔で言うことじゃないことじゃないでしょ。恥じろ。そして早く女に慣れろ。今度娼館に連れて行ってもらえ。」
「まだ早いです。下半身が爆発してしまいますよ!」
「させてろ。」




