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第5話

「ね。私と組んでほしい」


 思いもしなかった声と言葉に、アルベルトはしばらく反応できなかった。

 ただただ、〝最強〟の呼び声高いカルラの顔を凝視するだけ。

 その感想はといえば、やはりというか、可愛いというほかにない。


 燃えるような赤髪とは打って変わって、その顔つきは和やか。

 眉も目も垂れ気味で、ともすれば、やる気がないようにも見える。とび色の瞳も、剣豪というにはほど遠いほどに力がない。

 極め付きは、その表情のなさ。だからこそ、彼女が整った顔つきをしているのだと真に知ることができる。


「……聞いてる?」

 ジトっとした目つきになっているような気はするが、カルラの表情自体は変わらない。

 アルベルトがどう答えたものかと目をきょろきょろとさせていると、カルラは何かを感じ取ったのか、視線を外した。

 自分よりも倍ほどの大きさのあるゴルトに対して、堂々と言い放つ。


「あなた、邪魔。あっち行ってて」

 ゴルトもまた、何を言われたか理解できなかったかのように呆けていたが、それも一瞬。はっとして、カルラに目をやる。

 『邪魔』とはっきり言われたことに腹を立てていたようだが、相手は〝最強〟。

 アルベルトがいつもそうするように、口の中で言葉をもごもごと転がすばかりだった。


「それと。さっきから〝不能〟って、うるさい。喧嘩売ってる?」

「いや、それはソイツのことを……っ」

「偶然。私も、よく言われてきた」

 さすがにゴルトも、〝最強〟相手には分が悪い。力量差もわからずに喧嘩を続けるような真似はしなかった。

 お前のせいだといわんばかりにひと睨みきかせたのち、取り巻きを連れ立ってせかせかと立ち去った。


「……で。どうするの?」

 ゴルトの後ろ姿には目もくれず、カルラが目の前を陣取った。腰を落とし、膝を抱えて、何を考えているかわからない垂れ目でじっと見つめてくる。


「あ、あの……。なんで、僕、なの? ほかにも……仲間になる人は、いる。でしょ……?」

「……? 誰の事?」

「誰って……。ほら……大勢」

 シャルロッテもベアトリクスも抑えるほどの人気者。

 そんなカルラの動向に、皆が注目している。

 ゴルトとの一幕を目撃したのか、彼女に必要以上に近寄ろうとはしないが……その代わりにアルベルトは、いろいろな視線が突き刺さるのを感じていた。


「〝アーツ〟になんて興味ない。そんなものに頼らなくても、私は強い」

「じゃあ……。なんで、〝争奪戦〟に参加を……?」

「〝能力者〟と戦いたい。そのための視察、みたいなもの」


 おそらく、それ自体が彼女のプライドなのだろう。

 自分の力で戦うこと。

 勝ってそれを証明すること。

 そして、そう在り続けること。

 その気高さがまぶしくて、アルベルトは目を細めた。


「そんなことよりも。あなたこそ、なんで無様なままでいられるの?」

「ぐ……。無様」

「だって。あんなに面白そうな魔法、死なせたままなんて。無様」

「無理だよ……僕には。才能がないから……」

「そう……。なら、パーティは組みたくない?」

「うん……」

「じゃあ、結婚しよ」

「う、ん……? んっ?」


 遠巻きに見ていた生徒たちがざわめき始めたが、それも気にしてられないくらいにアルベルトは混乱した。

 結婚。という言葉を、イマイチ理解できなくなっていく。


「けっ……? ケッコン、てなに?」

「あなた、カッコイイから。私のものにしたい」

「……? 今の、流れで?」

「うん。一緒にいれば、あの魔法をよく見れる」

「そう……」


 ギリギリ理解できそうで、やっぱりワケのわからないカルラの思考回路。

 アルベルトは返す言葉をなくし、否定するという考えさえどこかに消えていた。

 それにたいしてカルラは、やる気なさげな無気力表情を崩さなかった。が、一瞬だけ口端を緩める。


「じゃあさっそく婚姻届けを……」

「――ちょぉッッッと待ってッ!」

 ものすさまじい勢いで割った入ったのは、シャルロッテ。

 いつもの純真無垢で天真爛漫な様子はどこへやら。

 まるで唸るような声に、びっくりするほど剣呑な目つき、今に飛び掛かりそうなほどの前のめりな姿勢……。

 全身全霊で、シャルロッテはカルラを否定していた。


「何か話し込んでるなって聞いてたら……! ふしだら、じゃないかなっ?」

「ふしだら? どこが?」

「結婚だよ、結婚! 非常識にもほどがあるよ!」

「……私の常識を、あなたが決めないで」

 カルラの気だるげな表情は変わっていない。

 だがアルベルトの目には、感情が……怒りが乗っているように映った。

 相手は学園の人気者。というのに、切りかかりそうなほど鋭い雰囲気が宿っている。


「それをいうならキミのほうだよ! アルベルトくんを見て――困惑してる!」

「……そう?」

「そうだよっ。わからないッ?」

「……。そもそも、なんであなたが割り込むの?」

「……! 聞き捨てならないからだよ……!」

「何が?」

「――私だって、パーティに誘おうと思ったもん!」


 妙なことになってきた、とアルベルトはぼんやりと思った。

 どうやらカルラの結婚願望は本物らしい。タチの悪い冗談でもなければ、その言葉の重みを知らないわけでもない。

 あの道場破りが。あの〝最強〟が。男という生物に興味がなさそうなカルラが、あろうことか学園一の〝不能〟に求婚したのだ。


 そんな彼女を引き留めたのが、シャルロッテ・リートゼルツ。

 常識的な観点から止めに入ったのかと思いきや、彼女も彼女で何か募る思いがあるらしい。

 防壁上で顔を合わせたときは何事かと驚いたが……。

 みんなの人気者で、そうでなくとも、これ以上ないほどの美人に、〝争奪戦〟パーティに誘われるなど思いもしなかった。


「アルベルト。あなたはどう思う?」

「アルベルトくんっ。キミの意志を聞きたいよ」

 気が付けば、人生最大の岐路に立たされている。

 アルベルトは、他人事のようにそう確信した。





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