プロローグ
昔から……。
一つの夢を見ることがある。
場所はわからない。
おそらくはどこかのお屋敷。
お城なのかと見間違うほどに大きな屋敷の門である。
門番として控えている兵士が二人。
彼らは、決まって同じ会話をする。
「はあ~……退屈だ」
一人が言う。
と、もう一人が答える。
「幸せっちゃあ幸せだろ。退屈で死ぬことはねェしよ」
そうして二人が見上げるのは、雲一つない真っ青な空。
太陽は相変わらずまぶしく、兵士たちは同じようにして目を細める。
彼らが着込む鎧には、傷一つない。それぞれが握る槍も、血の一つも浴びたことがないようにキラリと輝いている。
使い古されてはいるものの、もはや平和の象徴と化していた。
「あ……」
「お」
穏やかな風をひとしきり堪能した彼らは、そこで気が付く。
フードを目深にかぶった、マント姿の人物がいることに。
彼らは警戒をしない。むしろにこやかに迎え入れた。
「おかえりなさい」
「お疲れ様です。賢者様」
その人物は、何も言わない。ただうなずくだけ。
ただ、〝賢者〟というたいそうな肩書をしょっている割には、随分と気の弱い様子が見て取れた。
声をかけられてビクッと肩を揺らし。うなずくにしても、オドオドと戸惑ったように。最後にはペコペコ会釈。
しかし門番二人は、そんな〝賢者〟を笑わない。
……否。少し肩が震えている。
ただ、馬鹿にするようなものではなく……敬愛の念から湧き出るものだった。
〝賢者〟もそれをわかっているのだろう。
もじもじとしたのち、頑張って背筋をピンと伸ばして、威厳を見せる。
そして、門番二人によって開かれた屋敷に入っていくのだ。
――そんな様子をいつも夢に見る。
決まって門番は二人で、決まって〝賢者〟が現れて、決まってその顔は見えない。
それが意味するところを、アルベルトはまだ知らなかった。