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告発

「君たちの不適切な行為を目撃したのは私だ。そして当然、告発者も私ということだ」


 突然の告白にフロア中にざわめきが広がる。


「覚えてないか? つい最近、君たちが会議室にいる時に私が注意をしたことを」


 部長の言葉に元婚約者と略奪女の顔色が変わる。


「あの時君たちは気づかれていないと思っていたのかもしれないが、わからないはずないだろう」


 そう言って部長は大きなため息をついた。


「職場内での恋愛を禁止しているのではない。職場の風紀を乱さず、健全につき合ってもらう分にはこちらも何も言うことはないのだから」


 部長の言葉に辺りが沈黙に包まれた。

 職場内でつき合っている人はきっと他にもたくさんいる。

 もし職場内恋愛禁止とでも言われたら困る人も出てくるだろう。


 問題は『就業時間中』に『社内』で『不適切な行為をした』こと。

 そんなことをしなければ今回のような処分はなかったはずで。


 結局のところ自業自得ということだ。


「部長。この場で私も一つ言いたいことがあるのですが、よろしいでしょうか?」


 背後から声が聞こえて、その場のみんなの視線が集まった。

 いつの間にか私の後ろに後輩が立っている。


「言いたいこと?」

「はい。そこの彼女に」


 部長の怪訝そうな声にも動じず後輩が答えた。


「個人的なことであれば後にして欲しいところだが。今回の処分にかかわることなのか?」

「関係があると言えばあるかと」


 後輩の言葉に部長が一瞬思案する。


「いいだろう。彼女は明日から謹慎の後他部署へ異動する。禍根を残すのもよくないからな」

「ありがとうございます」


 そうお礼を述べると、後輩は略奪女に向き直った。


「何度も断っているのに理解してもらえないのでこの場ではっきり言いますが、あなたとつき合う気はありません。なぜ僕があなたの好意を喜ぶと思っているのか本当に理解に苦しみます。もはやあなたからの好意すら迷惑だ。今後一切近づかないでもらいたい」


 ストーカー的行為を繰り返す人は思い込みが激しいところがあると思う。

 そうでなければどれだけ言われても自分の思いが正しいのだと言い続けることはできないと思うから。


 後輩にしても今まで本人に対して何度も断ってきて、それでも彼女が理解しないから外堀から埋めようと思ったのかもしれない。

 これだけ大勢の証人のいる中で言えば彼女も誤解のしようがないはずだから。


「な……どういうことだ!?」


 そんな後輩の言葉に食いついたのは元婚約者だった。

 彼にしてみれば婚約を破棄してまでつき合った相手が別の相手にコナをかけていたことになる。


「言葉の通りですよ。あなたもその人が自分の彼女だと言うのなら、フラフラしないようにしっかりと捕まえていてください」


 そう言って、後輩は今度は私の肩に手を置きながらふわりと微笑んだ。


「ただ、あなたには感謝もしています。あなたが先輩と別れてくれたので、つき合いを申し込むことができたので」


 いつもはローテンションでほとんど笑顔を見せることのない後輩の嬉しそうな笑顔は周りに衝撃を与えている。

 さらにはその言葉の内容に今度はどよめきが走った。


「はあ!?」

「僕は先輩につき合っている人がいたから気持ちを伝えるつもりはなかったんですよ。先輩は誠実な人だから僕の気持ちを知ったら困らせる。あなたとは違って、恋人がいるのに不誠実なことはしない人ですしね」


 穏やかな物言いではあったけど、言っている内容はわりに辛辣だ。


「あなたの浮気で別れることになった結果ではありますが、こうして先輩とつき合えるようになれたのだけはよかった」


 突然の交際宣言に周り中が驚いている。


 いや、違う。

 一番驚いているのは誰であろう私だ。


 あれ?

 私たちの関係は仮初のものじゃなかったの!?


 内心かなり動揺していたけれど、ここでそんなことを言えるはずもなく私は黙っていた。


「そんな地味で可愛げもなくて婚約者に浮気されるような女、あなたに相応しくないわ!」


 みんなが驚く中で略奪女だけが喚いている。

 しかしもちろん彼女の言うことなど誰も信じることもなく。


「お前! どういうことだよ。俺のことが好きだって言ってただろ!?」

「あんたなんて年上のくせに全然頼りないし、デートで外食すらしなくて私にご飯作らせるようなケチじゃない!」


 醜い言い合いに言葉が出ない。


「いい加減にしろ!」


 修羅場と可したその場をどうしたものか、そう思った時に部長の叱責が飛んだ。


「どうやら懲りてないようだな。この騒動の責任についてはまた別に追及する」


 そう言うと、元婚約者と略奪女を連れて部長がその場を後にした。


 残された者たちによって辺りが蜂の巣をつついたような騒ぎになったのは仕方のないことだったのかもしれない。

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