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8/11

公示

 その日私が出社するとフロア全体がざわついていた。

 なぜなのか心当たりもなく、不穏な雰囲気を感じながらも自分の席に着く。

 するとすぐ隣の席の同期が声をかけてきた。


「知ってる? 社内での不適切な行為がバレて処分が下されたみたいよ」

「不適切な行為?」

「そう。何でも、社内で男女の触れ合いをしていたとか」


 小さな声で話しているとはいえ人目が気になるのか、同期は『男女の触れ合い』の部分だけさらに声を落として言ってくる。

 オブラートに包んだ言い方ではあるが、つまり社内で性的な行為をしていたということだろう。


「朝からその話題でもちきりよ。ほら、掲示板に張り出しがあるでしょ?」


 言われて同期が指差した先を見れば、そこに処分の書かれた紙が掲示されていた。


『下記の者に三か月の停職を命ずる』


 そう書いてある文の下に元婚約者の名前がある。


 ……どういうこと?


そしてさらにもう一枚の公示があった。


『下記の者に三か月の停職および総務部への異動を命ずる』


 上の紙と同じような文言が書かれた書面には、さらに部署異動が記載されている。

 そして記された名前はあの略奪女の名。


 私のいる商品企画部は社内でもいわゆる花形の部署だと言われている。

 新しい商品を開発し、さらにはそれを全国のコンビニへ展開することを考えれば派手な仕事と言えるだろう。

 それに対して総務部はどうしても地味に思われがちな部署ではあった。

 もちろん、地味な部署であっても無ければ困るのだけど。


 元婚約者とあの女の名前が処分を受けた者として張り出されるなんて、いったい何があったというのか。

 唖然としながらその公示を眺めていたら、掲示板脇の扉から噂の二人が姿を現した。

 

 掲示板の向こうは、周りに聞かれたくない話し合いや会議をする時に使う部屋だ。

 二人に続いて部長が姿を現したということは、本人たちに通達していたのかもしれない。


 うつむきながら出てきた元婚約者が不意に顔を上げる。

 そして怒りの表情を浮かべた。


「お前が!」


 え?


「お前が告発したんだろう!?」


 いったい何の話かわからず私は驚きに目を見開く。

 そもそも今のこの状況すらよくわかっていないくらいなのに、告発とはどういうことか。


「どうせ俺に振られた腹いせで上にチクったんだろう?」


 低く唸るように言われて珍しくもカチンとくる。

 基本的に平和主義な私は言い合いを好まない。

 でも元婚約者からのこの言葉は許せなかった。


「何の話かわからないわ」

「俺たちのことを知っているのはお前しかいないじゃないか」

「濡れ衣もいいもいいところね」


 私だって身に覚えもないことで責められる理由はない。

 だから引く気はなかった。

 それに、正式に結婚するまでは私たちがつき合ってることを職場には内緒にしておこうと自分で言っておきながら、ここにきて暴露している姿に軽蔑を覚える。

 結局のところこのクズ男は自分のことしか考えていないのだ。


 きっと、結婚するまでは周りに内緒にしておいてあわよくば浮気でもするつもりでいたのだろう。


「何だと!?」


 一気に気色ばむ元婚約者に、待ったをかけたのは私ではなかった。

 

「告発をしたのは彼女ではない」


 そう声をかけてきたのは、処分を下した部長、その人だった。

読んでいただきありがとうございます。

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