驚きの相手
驚きの告白を聞いてももちろん私は彼女役を引き受けたのだけど。
頭の中が混乱している。
え?
一体どういうこと?
「あの人は入社以降ずっと僕に付きまとってますよ。だからこそ、昨日はかなりびっくりしました」
そりゃあそうでしょうとも。
つき合って欲しいと付きまとい続けてきた相手が別の人の恋人として登場したんだから。
混乱したのは私だけはないはず。
「ああ、だから私なのね」
だからこそ彼女役は私が適任なのだろう。
元婚約者の恋人である限り、あの女は私の前で彼に「つき合って欲しい」ということはできない。
「それだけが理由ではないんですけどね……」
ボソリと呟いた声は聞き取れなかった。
聞き返そうかと思ったけれど、お願いには関係なさそうだったから何となくそのままになってしまう。
「とにかく、先輩がOKしてくれて助かります」
彼はそう締めくくった。
引き受けたからにはちゃんとやる。
そう思った私が細かな恋人の設定をどうするのかを聞けば、それなりに具体的な答えが返ってきた。
だから、始業時間までに内容をつめてお互いの認識を擦り合わせていく。
「先輩が婚約者と別れてフリーになったことを知った僕からつき合いを申し込んだことにしましょう」
「それでいいの?」
「そうしなければ先輩も浮気していたことになってしまうので」
……たしかに。
「ずっと先輩のことを好きだった僕が傷心の先輩につけ込んだということで」
話が重くならないように気を遣ってくれたのか、彼はそんな言い方をする。
「それはちょっと……言い過ぎじゃない?」
私の言葉にも動じず「本当のことですから」と言う辺り、彼の中でのシナリオはきっちりと決まっているのかもしれなかった。
そうして、婚約破棄から急に仮初の恋人を得た私だけど、今度は昼休憩にさらなる事実を知ることになる。
たった二日でいろいろあり過ぎだわ。
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