正直者の泉
あなたは、こんな物語を知っていますか。
むかしむかし、とある深い森の奥に静かな泉がありました。
その泉には、とても美しく、人の嘘を見抜く力を持つ『女神』が住んでいると伝えられておりました。
ある日、まじめで働き者の木こりの少年が、いつものように森で木を切っていました。
ところが、誤って手元が狂い、大切な鉄の斧を泉の中に落としてしまったのです。
木こりが困り果てていると、水面が静かに揺れ、泉から美しい女神が現れました。
女神は金色に輝く斧を手に、こう尋ねました。
「あなたが落としたのは、この金の斧ですか?」
木こりは首を振ります。
「いいえ、ぼくの斧はそんな立派なものではありません」
次に女神は、銀の斧を手にしてこう問いかけました。
「それでは、この銀の斧ですか?」
木こりは、やはり首を振りました。
「いいえ、それも違います。ぼくの斧は、ただの鉄の斧です」
最後に、女神は鉄の斧を持って現れました。
「では、あなたが落としたのは、この鉄の斧ですか?」
木こりはうなずいて答えました。
「はい、それがぼくの斧です。ありがとうございます!」
木こりの誠実さに感動した女神は、木こりに三本すべての斧を贈ったといいます。
女神に嘘をついて金の斧を貰おうとした愚か者もいたそうですが、彼には鉄の斧すら返ってこなかったのだとか。
正直者は報われ、嘘をついたものには罰が下る。
そうしてこの泉は『正直者の泉』と語り継がれるようになりました。
……しかし、それだけではありません。
実は、このお話には続きがあるのです。
正直者の木こりの少年は、この美しい女神に、すっかり恋をしてしまったのです!