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Episode8







『ハカちゃん、大丈夫?』



「…ん。」





問題の山のダンジョンへと向かった3人は驚愕した。

山だった部分は抉れてほぼ更地のようになっていたのだ。残った木の部分は燃えてここから煙が上がっていた。

ハカの魔法よりもひどい有様の様子にユージーンと私は顔を見合わせて生唾を飲み込んでから覚悟を決めて足を踏み出し先へと進んだ。





「確か…ここあたりにダンジョンの入り口があったはずだが…」



『…なにも残ってなさそうだね』



「…魔力、の、あと、がある」



『魔力の跡?』



「…」




私達の会話にハカが私の裾を掴んでそう言った。

聞き返すとコクンと頷いて正面の方に指を指す。その方向は煙に包まれていてよく見えない。魔法使いならではの特性なのだろうか。

指さす方を目を凝らして見るもよくわからない。何か見えているであろうハカに話しかける。





『…魔力って、人間のものか…魔物のものかわかる?』



「…魔物」



シュンッッ




と言いかけたハカの目の前に目にも止まらぬ速さで何かの影が飛んできた。煙を突き抜け飛んできたそれは鋭く光るものを持っている。

ほぼ反射神経でハカを抱きしめて横に飛び込む。

間一髪ふたりは危機を回避した。




「チィッ、外したか」



「は、ハカ!ナナミ!」



『ユージーン!敵よ!!!』




こちらに駆け寄ってこようとするユージーンにそう叫ぶとユージーンは固まった。

砂煙が晴れて見えたその影は真っ黒な翼を広げ、頭に四本の角を生やした人ならざるものだった。

殺意がこもったその瞳は私達ふたりを射抜くと、背筋に悪寒が走った。

本能が目の前のものはやばいと言っている。

だが、下手に動くと一瞬でこの命が散りそうな気がして動けない。

ぎゅっとハカを抱きしめる手に力がこもる。ガタガタとどこが震えているかもわからない、全身で震えているのかもしれない。




「…ナナミ、こわ、い?」



『だ、だいじょうぶ…ハカちゃんは、守るから…だいじょうぶ…』





震える声でそうハカと自分に言い聞かせる。

恐怖で頭なんか働かなくて、徐々に視界がぼやけて目の前の敵の姿もわからなくなってきた。気を抜いたら気を失ってしまいそうで。

すると、




「おい、そこの女。お前か?暗黒魔法を使ったのは」



『…あ、暗黒魔法…?』



「チィッ、しらねーのかよ。この山の方から感じたっつってたのによ」





暗黒魔法…。すなわち私達で言うところの闇属性魔法?

だとしたら、狙いはここで闇属性魔法を放ったハカ?

恐怖に支配された頭で必死に考える。魔物の言っていること、ここから逃げ出す方法、ハカを守ること…。

まずは、時間稼ぎ。





『あ、暗黒魔法がなんなの!』



「…っふ。特別に教えてやろう、人間。ここで感じた暗黒魔法の純度は魔王様に匹敵するほどだ。その暗黒魔法の持ち主をつれて来いとの命令なんでな」



『…魔王に匹敵する…?』



「フンッ、人間なんぞに魔王様と同等など反吐が出るが、そんな暗黒魔法の使い手なのなら少しは興味があるってもんだ」





目に前の魔物が片腕を上に突き上げパチンと指を鳴らした。

一瞬の間が空いたあと、腕の中にいるハカがブルブル震えだした。

それこそ先程恐怖で震えていた私のように。

だがハカの表情は恐怖というよりも苦しんでいるようで、目を見開いて喉元に手を当てて大きく口を開いている。まるで呼吸ができないと。




「…あ、ぁあ……あぐ…」



『ハカちゃん?!』



「ぁ…ぁぁ……」



『ハカちゃん!ハカちゃん!?』





苦しんでいるハカの身体から黒いもやのような、オーラのようなものが立ち込める。私の身体にまとわりつくようなそのもやはなぜだか恐怖心を煽ってくる。真っ黒に染まった私の思考がこう語りかけてくる。

これはやばい、ハカはもう助からない。

なにも根拠もないのに頭はそう決めつけてくる。涙が溢れてハカを支える手に力が入らない。





「ナナミ!マイナスエネルギーに負けるな!!」



『…ッ……ユージーン…』





私達のもとに駆け寄ってきたユージーンが私を上から包み込んでくれた。私よりも大きなその体と腕が安心感を与えてくれる。

聖属性魔法の暖かさが背中から全身に広がって伝わってくる。

心が満たされる。




「クックック…まさかそっちのクソ餓鬼の方とは…」



『!!近寄らないで!!!』




地上に降り立った魔物がニタニタと笑いながら鋭い爪の生えた足で一歩一歩こちらに近づく。私の言うことなど聞くはずもないとわかっていても叫ぶ。

足を止めることなく私達の前に立つと、片手を開いてこちらに向ける。

攻撃されると瞬時に理解したが恐怖心が限界に達したその思考ではなにも考えられなくてじっとその手の平を見ることしかできなかった。




「口を開いたことを後悔するんだな」




ブワッと黒い炎が私達を包んだ。

視界がちかちかとしたかと思ったら身体の内側から熱くなって呼吸ができない!皮膚はなんともないのに、心臓が熱い!心臓から血流が逆流して穴という穴から液体、気体、固体すべてが出ていきそうな感覚。






『ぅあああああああ!!!!!!』



「ッナナミ!!!!」





キーンという音とともに苦しさが無くなった。心臓を抑えて胃液が逆流してゲホゲホと咽る私。

かろうじて目を開くとユージーンが私と魔物の間に立っていた。

聖属性魔法のまばゆい光が後光のように眩しい。




「…!これは…勇者の光か。暗黒と光が一緒にいるなど鼻で笑えるな」



「ハカは俺達の家族だ!お前に渡すか!!」



「フンッ貴様の許可などなくとも、勝手に連れてゆくからどうでもいいことだな」




魔物が今度は指をクイッと手前に引くとハカが引っ張られるように浮いた。

不意の出来事に手を伸ばしたときには空気を掴んだだけでハカは私の上空を飛んでいた。




『ハカちゃん!!!!!』



「!ハカ!!」




気付いたユージーンも手を伸ばすが、はるか上空にいるハカに触れることはできなかった。

そんなハカに気を取られたユージーンの腹に魔物は拳をのめり込ました。

ゴフっと逆流した胃液を吐き出す。




「カハッ…!」



『ユージーン!!』



「…ユージーンと言ったか勇者よ。この暗黒魔法のクソ餓鬼はこの俺、ルシファーが貰い受けるぞ」



「…くっそ…!」




高笑いをしながらルシファーと名乗った魔物は黒い渦に包まれてハカと消えていった。

膝をついて蹲るユージーン。

慌ててユージーンを支えると程なくして落ち着いてきた。プルプルとユージーンの拳は震えていた。

続けてユージーンの方から口を開いた。





「…ごめん、守れなくて」




『………た、助けに行こう!!』




しばらく何も答えられなかった私だったけど、

なんて言葉を賭ければいいかわからなくて裏返りながらそう言うと、ユージーンは八の字に眉を下げて小さく笑った。









魔王討伐から、ハカの救出に目的が変わった。







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