Episode7
『ふぁぁ…なんかもう慣れちゃったなぁ』
目が覚めて古びた木の天井を見て異世界の方に来たことを確認する。
立ち上がって支度をして部屋を出るとユージーンがこっちに向かって歩いてくるところだった。
「おはよ、ナナミ。よく眠れたか?」
『おはようユージーン。うん、よく眠れたよ〜』
朝の挨拶をして一緒に広間の方に出るとハカがひとりで食事をしているところだった。
最初はみていないとぐっちゃぐっちゃに食べていたハカも多少こぼすことがあってもちゃんと食べられるようになった。その成長に胸がじんわりと暖かくなる。
『ハカちゃん、おはよう。いつも早起きだね』
「おは、よ。ナナミ、お姉様。ハカ、の、ほうが、早く、寝ちゃう、から…」
拙い言葉で一生懸命に伝えてくれる。
これも最初は一言二言しか話せなかったのが、ここまで心を開いてくれた証拠かもしれない。
ほっぺにいっぱい詰め込んでもきゅもきゅ噛んでいる姿が愛らしい。
『ねぇユージーン、ハカちゃんと出会ってどれくらいなの?』
「ん?そうだな、もう一月くらいになるか」
『一か月経ってもハカちゃんはこんなに痩せてて…生活に困ってるの?』
「いやいや!前にも言ったけどEランクにあがるためにこなした時のお金はあったから生活には困っていない!」
『ふーん?』
「ぅぐ…めちゃくちゃ疑うじゃんかよ…少し話をしても良いか?」
『え?言い訳?』
「だーまって聞きなさい」
この世界ができた時、神は5種類の種族に5つの魔力をそれぞれに授けたんだ。
聖属性は天使に。
風属性はエルフに。
水属性は龍族に。
火属性は人間に。
そして闇属性は魔族に与えられたんだ。
お互いの均衡は保たれていたんだしばらくは。
だが、その均衡を破ったのは人間だった。
他の種族と交わり魔力を複数持った人間が生まれるようになった。
神はそれを許した。人間は他の種族よりも劣っていたから。
それからも人間は魔力を使って国を作り豊かな生活を送るようになった。
他の種族も自分たちの居場所を侵されなければ、と静かに生きていた。
だが、その均衡が大きく崩れたのは魔族によるものだった。
魔族はその中でも莫大な力を持つものを魔王と呼び、各々の種族へ襲撃を仕掛けたんだ。
そうして魔族は魔力を手にするだけでなく他の種族を根絶やしにし、この世界を自分たちのものにしようとしていた。
エルフも滅ぼされ、龍族も敗れ、神の使いでもあった天使も侵され魔族の監視下に堕ちた。
そうして次は人間を滅ぼすべく侵攻を始めた時、神は人間に特別な聖属性の魔力を授けた。
神はその人間を勇者と呼び、魔王を滅ぼすように命じた。
勇者は仲間を引き連れ死闘の末に魔王を倒し封印をすることになった。
そうして世界に平和が訪れ、人々は勇者を称賛して他の種族も徐々に数を増やし、そうしてまたお互いに干渉をせずに静かに時は流れた。
はずだった。
だが、人間の中で魔王の力に魅入られた者が現れ始めたんだ。
気づいた時にはもうその数は予想よりも増えていて、魔族と契約をしているものまでいたんだ。
そして、その魔族と契約したものこそが闇属性を扱う人間。
神はその存在に怒り、魔族と契約した人間に「代償」を付けることにした。
『その代償が…』
「力を使うごとに寿命をすり減らし、黒い髪と黒い瞳を持つことだったんだ」
遂には闇属性魔法によって国王が操られ、国は混乱に陥った。
人々は勇者が現れることを祈った。その願いはすぐに叶ったんだ。
この混乱を止めるために立ち上がった一人の勇者と5人の仲間によって闇属性魔法使い達は半壊以上に追い詰められてその姿を眩ましたんだ、
『…闇属性魔法使いが…』
「…だからこそ魔法使いの村でハカが生まれたことは重罪であり、命を狙われる理由でもあるんだ」
『……』
その後姿を眩ました者たちの場所を特定した勇者たちは撲滅に追い込むためにその村に向かったんだ。
だが、村を偵察した時にあるものを見てしまったんだ。
その村には人間以外の種族も加わってしまっていたんだ。
『まさか…』
「それぞれ、ダークエルフ種・ダークドラゴン種・堕天使種と呼ばれている。その者たちは魔族と契約するだけではなく魔族と共存をして力を増していたんだ」
『でも…魔王を茶押した勇者なら…』
力が膨大すぎた。
二つの種族を掛け合わせたようなものだから一筋縄では倒すことができなかった。
そしてもう一つ問題があって他の種族は種族間での仲間意識がとても高く、仲間を傷つけられたりすると種族全体で敵とみなし攻撃をしてくるほどなんだ。
だからいくら魔族と契約をしたとしても攻撃をすると他の種族に干渉したことになり敵を増やすことにもなりかねないんだ。
『そんな…自分たちもまた攻め込まれることになるかもしれないのに…』
「他の種族たちは人間と違って攻め込まれる前に攻め込もうという思考はないんだ」
カタン
とご飯を食べていたハカがスプーンを置く音が聞こえた。
お皿は食べ残しなく綺麗に食べきられていた。それを見たユージーンは立ち上がってハカの頭を撫でた。
「お腹いっぱいになったか?」
「ん。…も、う食べら、れ、ない」
「よしよし、じゃあ一緒に皿洗うか」
ユージーンの声にハカが椅子から降りて自分で食べた食器を皿に重ねて持ち上げる。
手をすっぽり隠す黒いコートの袖から見える白い手と腕は同じ女子でも細すぎると思えるくらいに不健康体そのものだった。
先程話したユージーンの話にあった「魔族と契約をした者の代償は力を使うたびに寿命をすり減らす」とも言っていた。ハカが育たないのはそれも関係しているのだろうか。
『…ッ待って…私達ハカに魔法を使わせたら…』
心臓が止まるかと思うくらいに大きくはねうった。
ハカが森で放った魔法は明らかに闇属性魔法だった。またひとつ寿命を縮めてしまったのかと思うと一気に体温を失ったように体中が冷たくなった。
これ以上ハカに力を使わせるわけにはいかない。
「さて…今後のことだが」
ハカの片づけを終えたユージーンとハカが私と同じ席に腰を掛けた。
ハッとした私はハカに微笑みかけて思考を振り払った。
『…そ、そうだね、私も色々考えたんだけど』
学校で話した二人の話を思い出す。
今のところはこのふたりのレベル上げ…みたいなことをするべきだろう、と。
ユージーンにもハカにも戦闘経験を積むのが最善だろう、と。
話を聞き終えたユージーンは顎に指をあてて俯いて考え込んでいる。
「…うーん、やっぱり実戦経験がなさすぎるところからだな」
『今後はユージ―ンが主戦力として動いていかないと…かな』
「そうだな…俺がまともに戦えないとまず始まらないな」
ズドォォォォォオオオオオオン!!!!!
『!?え、ちょ、なんの音!?』
「外に出てみよう…!」
突如けたたましい音と地響きが家中に轟き嘶いた。
反射的に窓の外を見たユージーンと私は慌てて外に飛び出て周りを見渡す。村の人々も不安そうな顔でとある方向を見ていた。その方向は先日行った山の方。そこから黒い煙がもくもくと上がっている。
ユージーンが何人かで固まっている村人の元に走り出す。
「なにかあったのか!?」
「突然爆発したんだ!たまたまあそこに立ち寄った冒険者なのか魔物の仕業なのか…ユージーン、見てきてやくれんか?」
ユージーンが村の人に声をかけるとそう頼まれた。
他の村の人たちも子供たちを抱き上げて不安そうにこちらを見ていた。
勇者見習いでも村人たちに頼りにしているそんな村の人たちに囲まれたユージーンは覚悟を決めて大きく頷いた。
勇者ならではの正義感といったところだろうか。これは性格なのかそれとも聖属性魔法を持った勇者だからなのか。
「急いでみてくるから村の入り口は一応閉めといてくれな」
「ぁあ、村のことは男どもに任せといて」
「頼んだぜユージーン」
そうして私達はまたあのダンジョンへと向かった。
.




