Episode3
「ゆーじーん…?」
ユージーンに家の中を案内されていると、ある一室から顔を半分だけ覗かせた人影が見えた。
背は小さく、扉をきゅっと握る手は子供のように小さい。
そんな人影の声に気づいたユージーンはその場にしゃがむと両手を広げて口を開いた。
「ハカ、おいで。俺の新しい仲間を紹介しよう」
「…うんっ」
ユージーンの声に少しだけ大きな声で返事をした人影はとててっと効果音がつきそうな足取りでユージーンに抱きついた。
その姿は本当に小さな子どもだった。
フード付きの大きめのローブを纏っているがその隙間からのぞく足や腕は華奢と言うには細すぎる。フードからのぞく丸くて大きな瞳は少し親近感の湧く黒色で、肌は真っ白だった。
『ユージーン、その子は?子供いたの?もしや隠し子?』
「な、なわけあるか!この子は元孤児だよ。誰も貰い手がなかったから俺が面倒みてる」
『孤児…』
確かにまともな環境にいたらこんなにも発育が乏しいことはなかっただろう。
この世界はこういうことも普通なのかもしれない。
ユージーンはハカと呼ばれたその子の頭をフード越しに撫でている。
現実世界ではあまり見ない光景に少し心がズキッと痛む。こうした場面に出会うのこともきっとこの先あるのだろう。
「ハカ、この人はナナミっていうんだ。仲良くできるか?」
「ななみ…。うん、わたし、ハカ。ななみ、お姉様」
『お、お姉様?普通にナナミでいいよ。ハカちゃん、よろしくね』
「…ななみお姉様」
「ハカ、俺はお兄様って呼んではくれないのか?」
「…ゆーじーん、は、ゆーじーん…だもん」
「なぜだッッ」
ユージーンとハカのやり取りを微笑ましく眺めながら、そのまま一緒に食事を共にした。
言葉の発声も拙いが食器の使い方がままならないハカをふたりで手伝いながらも笑いは絶えなかった。
そのあとはハカとお風呂にも入って、ユージーンに案内された自室のベッドに倒れ込んだ。
突然飛ばされた異世界。
ユージーンやハカとの出会いで不安は少し無くなったものの、この先の未来がなにも見えないのはやはりこわい。
『でも、考えたってしょうがないかぁ…』
1日の疲れがどっと体にのしかかってきてそのまままぶたが閉じた。
「ー…か…み…‥みか…美嘉!遅刻するわよ!」
突然耳元で聞こえた声にぱっと目を開いた。
視界には頬を膨らました母親が腰に手を当てて追撃の声を上げた。
「ほらほら!起きたのなら支度をしてご飯食べちゃって!お誕生日ではしゃいだからってあんまりのろのろしてたらお母さんも仕事に遅れちゃう」
『…おかあさん?』
あれ、先程まで私は異世界にいて…ユージーンと…。
ずっと恋しかった自室の風景と母親の姿に思わず涙ぐむ。
やっぱりあれは夢だったんだ、とベッドから立ち上がって制服に着替える。
そのあとは何事もなく母親とご飯を食べて学校ヘと向かった。これが私の日常。これが私の当たり前。
長い長い夢だった。どこか現実味を感じたそんな夢。
ある日突然、夢の中で異世界に行きました。
でも、眠ったら元の世界に帰ってきました。
はて?あれは本当に夢?
「ええええぇぇぇぇーーー!!なにそれーーー!めっちゃ楽しそうじゃんんんんんん」
教室中に響き渡る声にその元凶である口を両手で塞ぐ。他のクラスメイトのきょとんとした視線を浴びつつ平謝りをしてこほん、と咳払いをした。
「へへへ、ごめんごめんwだってあんまりにも楽しそうな話なんだもん」
そう言ってへらへらと笑うのは私の友達の「池谷 零」。高校からの付き合いだが、人生で一番の友達と言って良いくらいの相性バッチリな友達である。
明るくて輪の中心にいるような子だが趣味はゲームと言う男女から親しまれる子。
今回の夢のことも零が好きそうな話題だと思って朝イチで挨拶してくれた零に話したところ、絶叫を上げたってわけだ。
「RPGの世界だなんて私も行ってみたいなぁ!剣に魔法に装備に弓…良いなぁ良いなぁ!」
『でもなんていうか、ゲームで見れない裏みたいなのも見えてなんだか複雑だったよ』
「え、なにそれなにそれ気になるぅ」
『ぇ、あーうん。もちろんRPGみたいな世界観だったし異文化って感じだったんだけど、やっぱりこの日本とは違って孤児とか…いたし。魔物とかいるからなのかなーって思って。』
「…なるほどね。でもそれは魔物だけが原因とは言い切れないね!現に他の国にも孤児はー」
そんな話をしながら夢の中で見たハカの姿を思い出す。弱々しい華奢ともいえぬ姿に拙い喋り方。
不思議なのが私達のように黒髪で黒い瞳を持っていた。
そういう設定の異世界もあるのだろうか。
「そういえば、なんでそんな夢を見たのか心当たりはあるの?」
『うーん、それが皆目検討もつかないのだよ』
「ほんとに?ほんとうのほんとうかい?美嘉さんや?」
『誕生日ってことくらいしかなかったもんん。1日なにか不思議体験とかもないし、事故にもあってないし、変なところにも行ってないしぃ…』
「それは小説かマンガの読みすぎだ…いいなぁ私もいってみたいわぁどうにかして一緒に行けないかなぁ!」
「楽しそうに話してるけど、どっかいくんか?」
「おおっと、望月か。いいところに!」
零と話が盛り上がっていると、零の後ろから顔を覗かせる男子がいた。
彼は「望月 大輝」。中学からの付き合いでクラスが別になってからは疎遠になっていたが、今年同じクラスになってからまた話すようになった。
生粋のゲーム好きで零とも話が合うためちょくちょく私達の輪にも混ざってくる。
『それがねー』
私は零にもした説明を大輝にもした。
もう話の途中から目をキラッキラさせて頷いているものだから少し前の光景にデジャヴを感じた。
そのデジャヴも2回目にもかかわらず目をキラッキラさせて大輝と同じくうんうん頷いている。
その圧に圧倒されながらも話を続けて、
『ーってことがあったんだけど…』
「うぉぉおお!すげぇ!羨ましい!人生で一度はRPGの勇者になってみたいと思うものだよなぁ!」
「本当に!!勇者じゃなくてもあの世界観に入ってみたい!」
『あ、あのー…これ夢の話...』
「剣でばっさばっさと強敵を倒すもよし。魔法でかっこよく決めるもよし、傷ついた仲間に颯爽と回復の呪文を唱えるのもかっけぇ!」
「出会いと別れを繰り返して、魔王城を目指して旅をする…!これぞRPG…!きゃああああああいってみたーい!」
白熱するふたりのRPG愛に圧倒されながらもう口を挟むことはできまい、と半ば諦める私でした。
ちなみにこのRPG愛は放課後になっても冷めませんでした。愛ってすごい。
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