Episode11
「…!ナナミ、敵だ」
『え?敵って…』
ユージーンが立ち止まったのに少し遅れて私も立ち止まると、
少し遠くの方から何やら聞こえてくる。
音がする方を見ると、影がこちらに向かっているのが見えた。
ふたりとも目を凝らして見てみると…
「あれは…一角うさぎか…」
『一角って…』
ドドドドドッと荒い足音を鳴らして向かってきているのは額に鋭い角を持ったうさぎのような魔獣だった。
零から見せてもらったゲームの一角うさぎと違うのはその身の体格だったりイノシシのようにこちらに突進してきていることだ。
とにかくでかいそのうさぎが、だ。
「とりあえずまだ距離がある。避けるぞ!」
『う、うん…!』
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「…!これは!」
「えー!戦闘画面?!」
しばらくムービーのように流れる画面を流し見していたが突如としてその画面が切り替わった。
ふたりには見慣れたステータスにコマンド欄など。
それはまさにRPGでよく見る戦闘画面だった。
「ぅぉお!ユージーンのコマンド入力できるー!!」
嬉々としてコントローラーを手に取った零がスティックを倒すと反応をしているのが分かる。
戦闘画面に喜んでいるふたりだが、問題の画面はユージーンの後ろに立った七海にどんどん近づいていく一角うさぎの姿があった。
それにいち早く気づいた大輝が零に向かって叫んだ。
「これどうにかしないとやばいぞ!」
「うわわそうか!!えっと、コマンドは攻撃・スキル・アイテム・逃げるね」
零が逃げるを選択する。
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狙いは私達のようで横に移動をするとそれにあわせて進行方向を変えているのは分かった。
周りに大きい岩の1つでもあればそこに誘導してぶつけたり上手いこと避けられたりしたのだが運が悪いことに何もない草原だった。
こうなってはある程度近づいてから一角うさぎが切り返しきれなくなる距離で横へ思いっきり避けるしかなくなる。
「絶対にナナミだけは怪我させないから」
『ゆ、ユージーンが怪我しても困る!!』
「じゃあ、もう答えは1つだな。生き延びるぞ!」
ガサァッッ
突如ユージーンに抱きしめられたと思ったら視界がぐにゃあっと歪み、思わず固く目を瞑ると耳元で爆発音のようなものが鳴り響き、しばらく耳鳴りのように雑音が続いた。
硬い圧迫感が少し緩むと、私は恐る恐る目を開いた。
「…ナナミ、痛いところはないか?」
『うぅ…』
ユージーンの声に顔を上げると私を抱きしめながらこちらを心配そうに見つめるユージーンが見えた。
周りを見渡すと一角うさぎが少し離れたところに突っ込んでいる。
身を挺して私を守ってくれたんだと理解した。
『ありがとう、大丈夫』
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ユージーンたちはにげようとこころみた!
だが逃げ切れなかった!
なんとか七海たちは避けきれたものの魔物はまだこちらを返す気はないようだった。
零は自分のコマンド入力で七海たちが動いていることに感動している様子。
次の行動を選択できる。
大輝はここでふとこんなことを考えた。
「これ、もし七海の㏋が無くなったらどうなるんだ?」
「うーん、ゲームなら教会で生き返ったりアイテムで復活~とかが定番だよね?」
「…ゲームはゲームだが、七海は生身みたいなもんだよな」
「もしや、やばい?」
大輝の言葉にうーんと唸り始めた零は逃げるコマンドからスキルコマンドを押した。
すると違うタブが表示された。
「覚醒?」
「勇者の固有スキルか?」
ふたりとも疑問に思いながら零はそのコマンドを押した。
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「よし、だがあれをどうしたものかな」
ユージーンの言葉にもう一度一角うさぎの方を見るとこちらに向き直って前足で地面を蹴っている。
あの動きはいつまた突進してきてもおかしくない。
『逃げる?』
「それがいいんだろうが…すぐに追いつかれるしなぁ」
ユージーンが不安そうにしている私の顔をじっと見ると、ふぅと息を吐いて覚悟を決めたように私に背中を向けた。
そして口を開く。
「俺も勇者である前にひとりの男だ。女の子を守れなきゃ勇者になんかなれないよな」
『ユージーン…?』
「俺が時間を稼ぐ。その間に次の街に向かって走るんだ。ある程度の時間を稼いだら絶対にそっちに向かう。」
チャキ、と剣を構える後ろ姿に目が離せなかった。
その向こうで一角うさぎが鼻息を荒く地面を蹴る足も力強くなっている。
「行け!!!!ナナミ!!!」
『ぜ、ぜったいにあとで会おうね!!!』
ユージーンに向かってそう叫ぶと
私は振り返らず走り出した。
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「ぉぉ、男ユージーン、美嘉を逃がすらしいね」
「ゲームならパーティのひとりが逃げると全員で戦闘から離脱する感じになるけどどうなるんだろな」
「よし、俺らでユージーンを勝たせよう!」
「ただ、この勇者見習い…」
「…すげぇよえーんだよな…」
苦い顔をした二人が画面上部にあるユージーンの顔アイコンの隣の数値を見る。
ユージーン(レベル5 HP80)の表示が。
七海から事前に聞いていたもののなぜ勇者見習いになれたのかもわからない数値に言葉も出ず苦笑いをした。
「なにがやべーって相手の一角うさぎ、しっかりレベル10あるからね」
「最初の村から出て1発目の敵がレベル5の差もあるか普通?こんなん中ボスレベルだろ」
「案外鬼畜仕様的なゲーム?これ本当に負けたら逆にどうなんの?」
「やり直しだったら良いけどな」
そんなことを話していると一角うさぎがユージーンに向かってものすごい速さで向かってきていた。
先程とは違うものすごい速さは到底避けきれるものではない。
だがそんな一角うさぎの先に立つユージーンの身体からはまばゆいほどの光があふれ出ていた。
【なんだこの今まで感じたことがない溢れる力は…!】
噴き出しでそう書かれたユージーンのセリフ。
覚醒と言うからには変身の一つでもするのかと思ったらよくあるようなオーラタイプに少しだけふたりは落胆してしまった。
【これなら俺でも…!】
剣を構えたユージーンが一角うさぎに突撃していく。
先程までの動きと違って俊敏さが増してあっという間に一角うさぎの背後に回り、剣を薙ぎ払った。
「ぉぉ、やるじゃん」
「あとはダメージがどれほど入るか…」
ユージーンの攻撃が一角うさぎに当たり、ダメージが表示される。
ズバッ
120ダメージ
「「は?」」
ズゴゴゴゴ
You WIN!
「おいおい…」
ユージーンの目の前で地面に突っ伏した一角うさぎ。
でかでかとWIN!の文字。
あまりの突拍子の無さにふたりは空いた口が塞がらなかった。
「え?これチート?」
「レベル5が出していいダメージじゃないだろ」
RPG好きからしたらこの仕様にさすがに文句を言えずにはいられなかった。
それでもディスプレイは勝手に画面を進める。
ユージーンの経験値があがりレベルがアップする。
そのメーターはレベル8で止まった。
「3レベル上がっちゃったよ…」
「なんだこの設定がいろいろおかしいゲームは……これ俺らが操作しなくてもユージーンだけで魔王倒せるんじゃね?勇者だろ」
「美嘉から聞いてた感じなよなよしい男って聞いてたんだけどね。さっきの戦いではチート級だったけけど」
「もう少し検証してみたいけど戦闘終わっちまったしな」
「ゲームならこのあとも戦闘があるはずだし、試行錯誤してみよ」
ユージーンが戦闘を終えたあと、モニターを流し見しながらそんな会話をする。
相変わらずマップ上では何も操作できず見ていることしかできない。
息を整えたユージーンは七海のもとに向かって走り出している。
その時、大輝がふとした違和感に気付いた。
「あれ…そういえば、俺達って七海視点で見てたよな」
「確かに、このゲームを立ち上げたときは美嘉視点だった!」
「今はユージーン視点…視点変更でもできるのか?それとも主要キャラに合わせて変わるタイプか?」
「じゃあ今、美嘉はどうなってんの?」
どうにか七海視点にできないかとまたガチャガチャとボタンを押すが相も変わらず何もモニターは変化がなかった。
その間もユージーンは走り続けている。
【さっきの戦闘の俺…なんだったんだ?急に力が湧いたかと思ったら考えるよりも先に身体が動いて…気付いたら一角うさぎが倒れていた…】
「…ん。ユージーンも謎みたいだね」
「俺達がコマンド入力しただけなんだがな」
「実際のRPGのキャラもこんななんかね」
「ははっ、かもな」
何もできないことに諦めがついて雑談をし始める。
先程よりも気持ちに余裕ができたのは少なからず戦闘シーンで干渉ができることがわかったからだろう。
後ろですやすやと眠る七海を見る。
「…七海ってあっちの世界で寝ないと起きないのか?」
「確かに…途中で意識が戻るとかもないのかな」
「…だとしたら結構リスキーじゃね?」
「…美嘉なら、多分大丈夫だよ…」
モニターに視線を戻す。
ユージーンの走る視線の先にカラフルなものが見えてきた。
きっと街の中の建物の屋根の色だろう。
ここにきてようやく最初の村を出て、現実世界の零と大輝がユージーン達の世界に干渉をする。
ユージーンと七海は無事にハカを助け出すことができるのだろうか。
第一部 完
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