第8章 「ひとつの王国」
第8章 「ひとつの王国」
「俺は、5か国の王を殺した」
「だが、今日から――その5人を“5大侯爵”として迎える」
王宮広場。
全ての臣民と各国の使者が見守る中で、王ははっきりと宣言した。
並ぶ5人の“そっくり王族”。
外見はかつての王。だが中身は、ダンジョンで創られた完全服従の存在。
それでも――
「この国を維持するには、連邦制に近い形が必要だった。
各地に自治権を与え、責任と利益を分け合う。
これは、“支配”ではない。“参加”だ」
元の言葉に、5人の侯爵は揃ってひざをついた。
「我ら、ユベール王国に忠誠を誓う」
これにより、名実ともにユベール王国は連合国家となった。
経済統合、軍の一元化、税制の再編。
バラバラだった国々が、ひとつの仕組みの中で動き始めた。
「これでようやく、“国”になる」
***
そこから、理想の国づくりが始まった。
【改革①:労働と教育の再設計】
・義務教育を導入。
・読み書き・計算・「正直さ」を学ぶ授業を必修に。
・農民・職人にも“職業ごとの教育制度”を整備。
元は言った。
「稼げるやつじゃなく、“考えられるやつ”を育てろ」
【改革②:法と裁判の透明化】
・裁判に公開性と記録制を導入。
・誰がどう判断したかを国民が知れるように。
・エルマーを法務大臣に任命。「誰も特別扱いしない」ことを徹底。
「法に“例外”を入れた瞬間、それはもうルールじゃねぇ」
【改革③:軍の再構築】
・ダンジョン兵を制限。通常軍と合流させ、“民の守り手”として再定義。
・徴兵制は廃止し、志願制と給料制度を整備。
・各地に“治安評議会”を作り、兵士の腐敗を監視させた。
「強い軍じゃねぇ。信じられる軍が必要なんだ」
***
国は静かに、でも確実に変わっていった。
民は働き、笑い、学び始めた。
地方の農民が王都に行きたがる。
王都の子どもたちが「将来は教師になりたい」と口にする。
暴力から始まった国が、今――理想を目指し始めた。
そして、元はもう前のように怒鳴らない。
指一本動かさず、ただ一言だけを口にする。
「次は、“この国を守りたい”って奴らを増やす番だ」