第7章 「空の王」
第7章 「空の王」
ダンジョン兵による征服から半年。
王は突然、国民の前に姿を現し、すべてを語った。
「俺は他国の王を殺した」
「その代わりに偽物を座らせ、支配した」
「けど――もう、隠さねぇ」
民は騒然とした。
正直すぎる告白に、驚き、怯え、そして……目を覚まし始めた。
「この人、狂ってるのか?」
「……でも、最初に“本当”を言った王じゃないか?」
嘘の国に生き続けた人々にとって、
“本音で喋る王”の存在そのものが、衝撃だった。
***
王は変わっていた。
豪華な衣を捨て、金の冠も外し、
静かな表情で国政を見つめていた。
もう怒らない。騒がない。
判断は早いが、声は穏やかで、語気は強くない。
まるで――空のようだった。
何もない。でも、すべてがある。
***
周囲が変わった。
ラズロは、最初戸惑っていた。
冷静な事務官だった彼が、王の“正直”に心を動かされる。
「……私も、そろそろ、帳簿の“外”を見てみます」
彼は自ら町に降り、農民や職人と話し始めた。
データだけじゃわからない“声”を集めるようになった。
レイナ・アルデンは、怒った。
「こんな危ない真似して、殺されでもしたらどうする気よ!」
でも、黙って王の背中を見たとき、彼女は理解した。
この男はもう、守られる気はない。すべてを“背負い済み”だ。
だから、自分が守ると決めた。
「私が剣を振るうのは、命令じゃない。信頼への返答だ」
そして――
民たちも変わった。
「税が安くなった」だけで動かなかった者たちが、
「この人のために働きたい」と言い始めた。
裏切られ続けた民たちが、
初めて“王”に期待するようになった。
「この国、変わるかもしれない」
そう思った瞬間、国そのものが一歩、前に進んだ。
***
元はただ、こう呟いた。
「支配じゃねぇ。信じられる国にしたいだけだ」
言葉に力はなかった。
だがその“無欲さ”にこそ、本物の王の風格が宿っていた