第6章 「心が静まらない」
第6章 「心が静まらない」
征服から三ヶ月。
周辺五か国は、完全に“ユベール王国”の傘下に入った。
税率は安定。物流は整い、街は潤い始めた。
盗賊団は壊滅。軍事費は下がり、教育に金が回るようになった。
「……国家財政、黒字化。ここ十年で初ですね」
ラズロは帳簿を見ながら、ぽつりと言った。
「ふーん……そうか」
元の反応は薄かった。
確かに、やることはやった。
結果も出た。数字は嘘をつかない。
だが――なぜか、胸の奥がざわつく。
***
夜。王室のバルコニーで、元は一人で酒を飲んでいた。
隣には、あのレイナ・アルデンが立っている。
「勝ったのに、顔が晴れねぇな」
「……うるせぇよ」
「なんで?」
「殺しすぎた。偽りすぎた。……“勝っただけ”かもしれねぇ」
元は、ダンジョンで創り出した“そっくり王族”を思い出していた。
民の笑顔を守るため。国を救うため。
そう思ってやったことだ。
でも――
「俺は、“本物の人間”を、五人ぶっ殺して、偽物を座らせたんだよな」
「……あんたのやったこと、正しいとは言えない。でも、間違ってるとも言えない」
レイナは、酒を一口飲んでから言った。
「誰もが“正解”で動けるわけじゃない。あんたは、“やるしかなかった”からやった。
だけど――“次”をどうするかは、あんたが選べる」
***
元は悩んだ。初めて、“この先”を考えた。
守るために、破壊した。
救うために、支配した。
じゃあ、次は何のために生きる?
翌日、元は王室会議でこう言った。
「そっくり王族を全員“公表”する」
「な……何をおっしゃってるんですか!?」
ラズロが慌てて立ち上がる。
「そのうえで、“本物を殺したのは俺だ”って宣言する。
――そんくらいして、ようやく“ゼロ”だろ」
静寂。
元は続けた。
「今までは、背負わなきゃいけないと思ってた。でも違う。
背負うだけじゃ、何も変わらねぇ。
これからは、“選ぶ”――自分の意志で、道を作る」
王の目が、静かに変わった。
裏社会のやり方じゃない。
本当の“王”として、これからを歩く覚悟が――そこにあった。