第3章 「嘘の代償」
第3章 「嘘の代償」
王になって数日。
情報は集まった。
街も、裏も、城も――すべての“目”と“耳”が、元に届いている。
そこで見えた真実は、一言で言えば「嘘の国」だった。
教本に書かれた歴史は、捏造。
「先代の王は偉大だった」と子どもに教える教師たち。
「敵国が一方的に攻めてきた」と語る軍司令官。
「この税は国のため」と言い続けた財務長官。
すべて、嘘。
元は、ひとつずつ名前を書き出した。
教えを歪めた学者。
嘘を常識に変えた官僚。
歴史を捏造した記録官。
そして、王を操ってきた“影の参謀”――宰相グレゴール。
***
最初の粛清は、静かに始まった。
街では突然、ある教師が失踪した。
その教師は、盗賊団に資金を流しつつ、王の偉大さを語っていた男。
ラズロが言った。
「彼は、王の肖像画を使って裏金を洗っていました。証拠は、こちらです」
元はうなずき、影猫に命じた。
「“姿を消す”だけでいい。噂は、流せ」
次に動いたのは財務省。
長官の部屋から出てきた文書は、明らかに偽造された予算報告。
ブッチャーの手下が内部から盗み出した。
財務長官は、公金横領の罪で“自ら命を絶った”ということになった。
本当は、毒入りのワインを“本人に”差し出させただけだ。
「俺が飲む前に、お前が飲め。疑う必要、なくなるだろ」
「…………っ」
「ほら、筋を通せよ」
***
そして、最後の粛清。
歴史を捏造し、国民の記憶を操作した“記録官”。
「お前が書いたこの歴史。どこが本当だ?」
「すべて……私が“命じられて”やったことです!」
「命令されたら嘘を書く。じゃあ今から俺が“本当を書け”って命じたら、お前は本当を知ってるってことになるな」
記録官は顔を青くし、震えた。
「……すいません……すいません……」
「謝る相手は俺じゃねぇ。お前が書いた“偽物の歴史”を信じて死んでった兵士たちだ」
***
粛清はすべて“事故”や“自死”として処理された。
でも、町は知っていた。
「今の王は、本気で国を変えようとしてる」と。
「そして、筋の通らねぇヤツは“消える”」とも。
国の“嘘”は、崩れ始めた。
嘘を作ったやつらの“息”が、止まっていく中で。
元は呟いた。
「この国には、本当が必要だ」