第2章 「筋を通す」
第2章 「筋を通す」
町の裏通り、ゴミの山を抜けた先。
そこで待っていたのは、髭面の男――通称“ブッチャー”。
盗品の流通、ならず者のまとめ役。街のごろつきの顔役だ。
「……で?お前が“王”だって?」
元は深く頭を下げた。
スラムの王に、街の王が挨拶してるようなもんだ。
「今村 元。元・詐欺師、元・やくざ、今は王。信じろとは言わねぇ。けど俺は、こっちの筋は通す主義だ」
「ほう……筋を通す王様、ねぇ」
ブッチャーは鼻で笑ったが、その目は興味を持ち始めていた。
無礼な態度もなく、ビビってもいない。それどころか、手土産まである。
「これは……?」
「近衛騎士団の武器庫の鍵だ。横流ししてるヤツがいた。好きにしろ」
ブッチャーの目が変わる。
「面白ぇ……乗った。情報欲しいときは“ベルの鐘”を三回鳴らせ。合図だ」
***
次に向かったのは、情報屋。
“影猫”と呼ばれる、素性不明の女。
盗賊でも貴族でも、知ってることは必ずある。問題は、顔を知らない。
「……なぜ、私に会えたのか聞いてもいい?」
背後から声がする。振り向けば、黒装束の女が一人。面をしている。
「町の猫の行動パターンを変えたヤツがいた。そいつがあんただ」
「なるほど……あなた、ただの王じゃないわね」
「俺の目的は、国を裏から変えること。情報が要る。協力しろとは言わねえ。取引だ」
元は、前王が裏金で買っていた隠し物件のリストを差し出した。
「これを握れば、あんたの“価値”はもっと上がる。使い道は任せる」
影猫は黙ってリストを受け取り、笑った。
「いい目をしてる。次に会う時は、“猫が笑った日”って伝えて」
***
最後は城の中。
情報通と名高いのは、執務室の帳簿係・ラズロ。
一見ただの冴えない文官だが、実はすべての出入りを記録し把握している“目”の男。
「王よ、私に何の用でしょう」
「本音を言うと、お前が一番危ない」
「……は?」
「お前はすべてを知ってる。でも、誰にも話してない。だから、全員がお前を“消そう”と思ってる」
ラズロの手が止まった。顔が青くなる。
「ただし、俺と組めば……一番上に立てる」
「……生き残れる、という意味でしょうか」
「いや、“選べる”って意味だ」
ラズロはゆっくりと眼鏡を拭いた。
「では、まずはこのリストを見てください。前王の暗殺に関わった人間の名前です」
***
表と裏の“情報線”が一本に繋がった。
街、裏社会、そして城内。
すべての“目”と“耳”が、元に集まり始めた。
「さて――次は、“牙”の準備だな」