最終章 「王のいない未来」
――終わり。
そして、始まり。
最終章 「王のいない未来」
ユベール王国。建国から20年。
王・今村元は、すでに一線から退いていた。
政治も軍もエチカと後継者たちが管理し、元は郊外で畑を耕す生活に落ち着いていた。
そんなある日。
正妃との間に生まれた第一王子・リオンが、父のもとを訪ねてきた。
「父上。少し、話がしたい」
「なんだ。説教か?」
「違う。提案です」
リオンは20歳。
王族広育と5教科すべてを修め、全国で研修を受け、誰よりも“民の声”を知っていた。
「父上の築いた制度は、素晴らしい。誠実に生きる人間が評価される国。
でも……“誠実じゃない者”をどう扱うかが、まだ決まっていません」
元は、酒を置いた。
「確かにな。“信じて育てる”ところまでは作った。
でも、“道を外れたやつ”にどう接するかまでは、まだ――」
リオンは、静かに言った。
「私は“更生の国”を提案します。
間違えた者をただ裁くのではなく、“戻れる仕組み”を作る。
それが、この国の次の筋です」
***
他の子どもたちも動き出していた。
・次女のエイラは、他国に渡り“ユベール式教育機関”の設立に奔走。
・三男のユウトは、障害や病を持つ人たちのための“適応型労働支援システム”を構築。
・側室の子であるラシェルは、かつて敵国だったエスファーニャで“信義外交”を再定義する大使に。
子どもたちは、元の思想をそのままなぞらなかった。
尊敬はしている。
でも、彼らは“さらに先へ”進もうとしていた。
そしてそれを、元は止めなかった。
「超えてけ。俺より先に行け。
そうじゃねぇと、こんなに必死で国作った意味がねぇ」
***
数年後、王宮に一つの演説が記録された。
「この国は“正しさ”の国ではない。
この国は、“誠実さが届く国”だ。
それでも失敗は起きる。人は間違える。
だから我々は、正すだけじゃなく、戻れる社会を築く。
“筋”とは、倒れても起き上がれる道のことだ」
その演説は、第二代国王リオンによる“更生法導入演説”だった。
ユベール王国は、理想で始まり、
誠実で育ち、
寛容で続いた。
そして、誰かひとりの王がすべてを決める国ではなくなった。
もう王はいない。
でも――皆の中に“王の心”が宿っていた。
王・今村元の名前は、教科書には載らない。
なぜなら、彼がそう命じたからだ。
「名前を残すより、“習慣”を残せ。
信じて生きることが当たり前になるなら、それでいい」