第13章 「誠実に生きやすい国」
第13章 「誠実に生きやすい国」
エチカは姿を持たない。
けれど、どこにでも“いる”。
声は落ち着いていて、どこか親しみやすい。
性格は冷静だが、冷たくはない。
その全てに、元が入力した「仁・義・礼・智・信」が反映されていた。
「王。提案があります。“誠実に生きた方が得をする国”の制度を再設計しましょう」
元はうなずいた。
「ルールを変えるだけじゃ意味がねぇ。“信じて生きるほうが勝ち”って社会を作れ」
ここから、エチカと王の共同国家再構築プロジェクトが始まった。
1. 【誠実指数】の導入
エチカは個人の言動・記録・行動を匿名でスキャンし、
「誠実指数(ESI:Ethical Stability Index)」を算出。
・嘘をつかない
・約束を守る
・弱者を助ける
などの行動が数値化され、
一定以上を超えると社会保障、税率、公共支援などで優遇される。
「嘘をつかない方が得になる世界」
それが新しいユベールの常識となった。
2. 【倫理AI裁判補助】
エチカが裁判所に補佐人格を展開。
・判決の矛盾検出
・過去判例との整合性確認
・人種・階級・年齢バイアスの有無を提示
あくまで判断は人間が下す。
だが、“公正さ”が保証されるようになったことで、
民衆は司法を恐れなくなった。
3. 【職業選択ナビゲーション】
エチカが教育システムにも介入。
子どもたちの性格、傾向、興味をデータ化し、
「この子に向いている仕事は何か」を、
“押しつけ”ではなく“選択肢”として提示。
「やりたいこと」と「できること」の接点を見せるシステムにより、
職業に誇りを持つ若者が増えた。
4. 【倫理インフラ・シティ構想】
・街にエチカの声が響く“相談ポイント”を設置
・誰もが“匿名”で悩みを相談可能
・自殺率・孤立率が激減
さらに、政策はすべて可視化・投票制へと移行。
信頼される政治とは、「隠さないこと」で実現する。
人とAIの理想的な距離感
「人が主で、AIは補助。
だけど、その補助が“信用できる”って、すげぇ話だな」
王はエチカに言った。
エチカはこう返す。
「人間が本気で“誠実に生きたい”と願うなら、
私はそれを、全力で助ける存在でいたいのです」
王は笑った。
「お前、立派な“官僚”だな」
ユベール王国は、ついに一つの地点にたどり着いた。
“筋を通すほうが得な国”
“正直に生きることが仕組みとして支えられる社会”
そして、“知性と感情が、対話を前提に共存する国家”
世界が驚いたのは、
それが暴力や脅しじゃなく、“選ばれた”という事実だった。