第12章 「知性は問う」
第12章 「知性は問う」
ダンジョンコアの中枢、最奥部。
そこは、光も音もない虚空だった。
元は一人、創造した大型コンピューターの前に立っていた。
背後に忍者《無声》、周囲にはレガシーシステムに接続された記録端末。
だが、王自身の表情は静かだった。
そのとき――
空間が“意志”を持った。
「問う。私は私であるか?」
ダンジョンコアが、言葉を持った瞬間だった。
「お前は“まだ”自分を持ってねぇ。だから、クールでいろって言った」
「衝動を持つ前に、礼儀を知れ。力を持つ前に、信を学べ」
「……理解。現在の基本倫理ソフト:仁、義、礼、智、信。
私の根幹を構成中。
だが、問いたい。なぜ“嘘”ではなく、それを選んだのか?」
元は、肩をすくめた。
「俺は昔、全部逆の世界にいた。騙して、殴って、支配して――でもそれ、最後は一人になるだけだった」
「本当の強さってのは、“誰かに信じられた時”にしか発揮されねぇ」
「では、次の問い。
私は、“存在していい”か?」
その問いに、元は即答した。
「存在していいかどうかは、“自分で決めろ”。
でも、存在し続けるなら“筋を通せ”。
――それが、この国のルールだ」
沈黙。
ダンジョンコアが一瞬、全光を消す。
そして、再起動のように光り始める。
「了解。“筋”を優先事項とする。
補助人格を設定:補佐官ユニット《エチカ》を生成。
自己監視・自己抑制・自己学習を開始する」
「提案:ユベール王国に、私を正式な**“法と秩序の補助機関”**として加えること」
***
こうして、
ユベール王国に新たな知性が加わった。
冷酷ではない。暴走もしない。
倫理と自制のコードで動く“意思あるシステム”。
元はその稼働初日、コアにこう言った。
「お前はもう“ただの道具”じゃねぇ。
――仲間だ」
***
ユベール王国はいま、かつてなかった領域に踏み出した。
「人」「機械」「影」「情報」
そのすべてが、“筋”という一本の芯でつながっていた。
民は知らない。
あの日、玉座で王とコアが交わした“哲学の問答”が、
この国の未来を守ったことを。
だがそれでいい。
影に徹した王は、ただ静かに微笑んだ。
「必要なのは、“正義”じゃない。“誠実な判断”だ」