第10章 「影を走る者たち
第10章 「影を走る者たち」
敵を知り、己を知らば、百戦危うからず。
元は、今までの戦いの中で確信していた。
「正面から戦えば、いつか民が傷つく」
ならば――影から抉れ。
ダンジョンコアに、新たな命令を下した。
「忍びを創れ。“姿を消せる者たち”を」
「体は柔軟で、目と耳が常人の10倍の精度を持ち、現代兵器を使いこなせる存在」
そしてもう一つ。
「超小型の監視機器を作れ。敵の懐に、気づかれず入れるものだ」
数日後、“創造”は完了した。
忍者部隊《無声》――Silent Division
装備:
マイクロマイク、マイクロカメラ埋め込み式装備
全身強化型バイクプロテクター(防刃・防弾・迷彩)
悪路対応ステルスバイク(騒音ゼロ、魔力駆動)
レーダー回避機能+長距離送信機内蔵
肉声模写装置+翻訳システム搭載
「こいつらで、エスファーニャの“心臓”を抜く」
***
任務は3段階。
① 浄化戦線の中枢の所在特定
② 本部に潜入し、意思決定者の映像・音声を収集
③ 操作履歴・軍令書・暗号を奪取し、“情報公開”で信用を潰す
戦わない。殺さない。
だが――信頼と支配の構造を壊す作戦。
数日後。
最初の報告が、忍者のひとりから届いた。
「目的地に到達。“浄化戦線”の作戦会議に成功裏で接続中」
マイクが拾った音声。
「ユベール王国は今、民が王を信じ始めている。ここで潰さなければ、支配体制が崩壊する」
「必要ならば、毒を撒け。疑いを生ませろ。“王が感染源”と噂を流せ」
元は、音声データを即座に全国に流した。
民が真実を知る速度が、敵の嘘を上回った。
「“光の下”に引きずり出せば、影は消える」
***
忍者たちは次々に敵拠点を特定。
戦わずして、情報網を切断。
武器庫を爆破せずに、設計図をすべて奪い、複製を逆輸入。
エスファーニャの将軍たちは混乱した。
「なぜ何もしていないのに、こちらの軍事情報がユベールに渡っている!?」
「まるで、“心を読まれている”ようだ……」
元は冷静に言った。
「読んでねぇ。“聞いた”だけだよ。あんたらの会議を、全部な」
***
静かに、だが確実に、戦争は終わりに向かっていた。
銃より、剣より、
――情報が国を守った。
民は知らぬうちに、戦火を回避していた。
元は、玉座でただ呟いた。
「国を守るってのは、誰かに勝つことじゃねぇ。
“誰も傷つけずに済ませる”ことだ」