第9章 「影の向こう」
第9章 「影の向こう」
「ユベール王国の理想主義は、我々の支配構造を根底から揺るがす。早急に対処せよ」
――帝国評議会、機密会議記録より
数百年に渡って、ユベールを含む小国を属国化していた旧帝国・エスファーニャ連邦。
征服・分割・植民。
支配こそ正義と信じて疑わない彼らにとって、今のユベールのやり方は、異端だった。
「王が過去の罪を認め、民に頭を下げ、改革を進めている」
その情報が伝わった瞬間――
各地の属国民の不満が、一斉に動き出した。
「ユベールのように変われないのか?」
「なぜ我々には“王”がいないのか?」
放っておけば、次は自国の瓦解だ。
エスファーニャは、動いた。
金と兵を送り、
【傭兵団】【宗教団体】【亡命貴族】を使って
“ユベール王国の理想を潰す”任務を始めた。
その名も――"浄化戦線"(Sanctus Ordo)。
***
「動いたか……」
ラズロが密報を読み上げた時、元は静かにうなずいた。
「裏じゃなく、表でくるってことは、よっぽどだな」
「我々が“正しすぎる”というだけで、攻撃対象になってしまうとは……」
レイナは剣を見た。
「戦うしかないのね」
元は首を振った。
「違う。“勝つ”だけじゃ足りねぇ。
今度は、“この国を信じた民が、自ら立ち上がれるか”が試される」
だから元は、命令を出した。
「武器を民に配れ」
「戦い方を教えろ」
「この国は、“俺が守る”んじゃない。“皆で守る”んだ」
***
エスファーニャの“浄化戦線”は、
最初は工作から始まった。
「王は偽物だ」
「改革は嘘だ」
「旧王族の復権こそ正義」
だが、民は耳を貸さなかった。
「いや、俺たちは見てる。あの王は“本物”だ」
「最初は嘘ついた。でも、それを認めて前に進んでる」
「誰よりも正直だった」
そして――
民の中から、初めて**自発的な“義勇団”**が生まれた。
鍛冶屋の親父。農村の青年。教師の女。
彼らは剣を握り、王都の門に立った。
「王よ、あんたのためじゃねぇ。俺たち自身のために、ここにいる」
元は笑った。
「ああ、それでいい」