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紙と神

 牢屋…?

 取調室?

 あーもう、どっちでもいいやっ…!!

 俺と天使は今、そんな場所に閉じ込められてしまったいた。


 鉄のドアの隙間…

 そこを見ながら、俺は何度もまばたきをしてみる。

 してみるけど…

 見えてる光景も、今もいる現状も、何も変わってはくれなかった…

 

 「あー、なんで…、なんでこんなことに…」

 「ん?どうかしたのです?叫んだと思ったら、次は落ち込んで…」


 地面に小さく座り込む俺に、天使は不思議そうに顔を覗き込んでくる。


 「いやっ、今こんな状況なんだから、そうなるだろっ!!」

 「…ん?そうなのです?」

 「そうだよっ!!」

 「ん?」


 天使は理解してくれないままだった。


 「いやだって…。そうか!なー、お前…じゃなかった…。糖分ちゃん。糖分ちゃんは天使なんだよな?」

 「ん?そうなのです。何当たり前のことを…」

 「じゃー…、じゃーさ!!糖分ちゃんの力で、ここを抜け出せるんじゃないか?」

 「ん?まぁ、出来ないことはないのです!!」

 「だよな、だよな?そうだよな!!だって、糖分ちゃんは天使だもんな!!あーもう、なんでこんな落ち込んでたんだろ!!普通に抜け出せばいいだけじゃん!!あーもう、落ち込んで損したわ!!」


 打開策が見つかったからか、すごく気が楽になってきた。


 あーもう、なんで落ち込んだりしてたんだろ…

 こんな簡単に解決できる問題なのに…

 でもいいや。

 もう、すぐに解決できるのだから…!!

 すぐにここから抜けらせるんだから…!!!

 

 「じゃー早速だけど、糖分ちゃん、頼むわ!」

 

 俺はすぐさま糖分ちゃんにお願いした。


 ここにいたくなかったから…

 すぐさま抜け出したかったから…


 でも…


 「嫌なのです。」

 「よし、じゃー…。…ん?今なんて…?」


 俺の聞き間違い…だよな?

 そう、だよな…

 

 「嫌、と言ったのです!」

 「はっ!?なんで…。なんでだよ!!」

 「だってです。だってなのです!!せっかく私のために部屋を用意してくれたのに、なのになんで抜け出すんですか!!」

 「へっ…?」

 「バカなのです…?貴方、バカなのです?」

 「あー、あー!!」


 俺はようやく理解した。

 門からここに来るまでの間、こいつがなんでこんなにも余裕だったのか…

 お気楽そうだったのか…


 こいつ…

 門番が、ただ住む部屋を提供してくれる…、してくれただけだと思っているのか…


 「はは…。はは…」


 俺の口からは、渇いた笑いしか出てこなかった。


 「とにかく、私は嫌なのです!!ぜーったいに嫌なのです!!ここにいるのです!!ここに、住むのです!!」

 「…。そっか…」

 「そうなのです!!あとは、テレビ…!!テレビを持ってきてもらうだけなのです!!」

 「そっかー…」

 「そう…

 「…じゃねぇわっ!!!」


 俺はツッコむしかなかった。


 「お前っ!!俺たちがなんでここに連れられてきてると思う!!」

 「お前じゃ…

 「あー、はい。そうね。そうだよね。俺が悪かったよ!!糖分ちゃんは、俺たちがなんでここに連れてこられたと思う?」

 「そんなの簡単なのです!!天使みたいに…、まぁ私、実際に天使ですけどっ…!!そんなすごく可愛い私のために、わざわざ私が住む部屋を、用…

 「ちげぇよ!!マジでちげぇよ!!」

 「何が違うと言うのです!!」

 「それはなっ…、あの人は、身元のはっきりしない俺たちを取り調べるためにここへ連れてきたんだよ!!住む部屋を提供するために連れてきたんじゃねぇんだよ!!!」

 「へっ…?」

 「いや、下手したらここに住むことになるかもしれないけどね。ずーっとここに閉じ込められるかもしれないけどね。でも俺は嫌なんだよ!!そんなの、俺はぜーったいに嫌なんだよ!!」

 「…。」


 天使は黙ったまま何も言わない。

 それに、俺は強く言い過ぎたかもと少し心配になる、が…

 

 「でも、ここにいられるのですよね?」


 天使は、さっきの俺の言葉を理解してくれてなかった…


 「…。」

 「なら、いいのです!!別にいいのです!!この部屋と、あとはテレビがあれば、私は別に…

 「テレビ…、はたぶんないぞ?」

 「…へっ!?えっ!!!?」


 ここに閉じ込められて、天使は初めて驚いた…、焦った表情になった。


 「なんでです!!なんでなのです!!」

 「いやさ、さっきから言ってるだろ?」

 「何をです!!」

 「俺たちはここに、お客さんとして連れてこられたわけじゃなくて…。ただ、怪しいから連れてこられただけなんだよ…!!」

 「つまり…!!」

 「そう、テレビ…。というか、マシな待遇をもらえるかも怪しいんだよ…」

 「はっ…!!」


 目の前の天使が、この場と状況に合う…、ようやく悲愴感漂う表情になった。

 天使は眉をひそめ、何かを考える表情になる。

 そして…


 「抜け出すのです…。ここから、抜け出すのです…!!」


 ようやく、俺と同じ考えに至ってくれたらしい。


 「よしじゃー、糖分ちゃんの力で抜け出そう!!ここから抜け出そう!!」

 「分かったのです!!逃げるのです!!テレビの…。アニメのために…!!」


 糖分ちゃんは良い返事をしてきたあと、すぐに目を閉じた。

 きっと、強い力を使う前の精神統一とかそんなんだろう…

 すぐに糖分ちゃんがバッと目を開き…


 「行くのです!!やるのです!!」


 糖分ちゃんは手を前に出し、手の平を広げる。

 その瞬間、差し出された手の平の先に、いくつもの小さな黄色い光が現われる。

 

 次々と現れる小さな光は、天使の正面…

 とある一点がまるで光の焦点であるかのように、その一点に集注していく。


 初めて見る、幻想的な光景…

 その光景に、俺はどうしても興奮してしまう。


 そして、準備が整ったようだ…


 「行くのです!!」


 天使がそう宣言した瞬間、集まった光が…、はじけ飛んだ…!!

 

 「えっ…!?」

 「…ん?」


 天使から、どういった意図でこぼしたのかよく分からない声が飛び出してた。

 

 「えっと…」

 「なんでです、なんでなのです…!!」


 失敗…、したのだろうか…

 よく分からない…

 ただ天使の表情は、失敗した時の表情をしているように見えた。


 そしてその瞬間、天使の目線と同じ高さに、一枚の白い紙が現れた。


 「「…ん!?」」

 

 それは、ひらひらと空中を舞う。

 その空中を舞う紙を、天使は手を受け皿にようにしてキャッチした。

 捕えた一枚の紙を、天使は読み、そしてプルプルと震えだした。


 気になったから、俺も中身を覗き込んでみる。

 見てみると、紙にはこう書いてあった…


 『お主の力はその世界で強すぎる。だから、禁止でよろしくじゃ。


                byダンディな神より。


 あとはじゃが…』


 「…。」


 天使は黙っている。

 黙って俯いている。

 手はプルプルと震え、残りの部分がよく読めない。

 だから先に、天使に声をかけようと思った。

 

 ただ、そんな天使に俺は何と言ったらいいのだろうか…

 とりあえず…


 「使えね…」

 「なっ…。なっっ…!!」


 天使は驚いたように、大きな目をこちらを向けてきた。

 そしてすぐに、眉をひそませて…

 

 「ひどいのです!!貴方はひどいのです!!傷ついて、悲しんでいる女の子に、そんなことを言うなんて…!!クズ!!ゴミ!!カス!!!チン〇ス野郎!!」


 ひどい言われようだった。

 俺は傷ついた、から…


 「使えね…」

 「なっ…。なっっ…!!」


 また天使は目を大きく見開かせ、次は悔しそうな表情になっていく。

 そして、また身体もプルプルと震えだす…


 そんな天使に、俺はきっとにやけ面で…


 「は~あっ。使えね。マジで使えねっ!!」

 「むっ…。うっさいのです!!マジでうっさいのです!!」

 「いや、この世界の知識もなく、そして力も使えないって…。いや~、使えないな~と思って…」

 「むぅぅ…!!むぅぅ~!!!」


 天使がほんとに悔しそうな顔をしてくる。

 その顔が、すごく気持ちいい…!!

 今まで…

 今まで…!!

 俺がどんだけ、こいつに失礼な言われてきたことか…

 その仕返しがほんの少し…、ほんの少しだけだけど…、それが返せたと思うと、それが嬉しくてたまらない…!!!


 「つっかえね…」

 「ぐっ…!!」


 天使は悔しそうだ。

 ただそれが事実だとちゃんと分かっているのか、何も言い返してこない。

 そしてその悔しい気持ちをどうにか発散させるためにか…


 「むぅぅぅわぁぁぁぁ…!!!」


 ビリビリビリッ…!!

 神様からの紙を破き始め…

 そして破けた紙をまた拾い、次はそれを小さく丸め始めた。

 

 「えっ…?そんなことしていいのかっ!?それに、俺まだ下の方読んでなかったのに…!!」

 「いいのです!!知らないのです!!!こんなものっ…!!!」


 悔しそうに天使はそう言葉を吐き出し…

 そして…

 丸めて小さくなった紙を、外への小さな隙間めがけて投げる。

 投げたけど…

 

 投げられた紙は上手く外には出て行かず、分厚い壁にぶつかり…

 そして、天使の頭にへと返ってきた。


 「いたっ…!!」

 「プッ…!!」

 「…!!」


 その光景に…

 そのダサい光景に、ついつい笑ってしまう。

 それが気に障ったのか、天使が睨んでくる。

 

 「なんです…!!なん笑うのです!!」

 「いや…」


 笑うだろ…

 そんな光景見たら、誰でも笑うだろ…


 「ダサいのです…」

 「なっ…。なっ…!!」


 天使は目を大きく見開かせ、口は半開きになってしまっている。

 

 「ださっ…、いのです…」

 「…!!真似…。真似しないで欲しいのですっ…!!」

 「してないのです…」

 「してるのです!!今してるのです!!それに…!!私はダサくないのです!!ぜーったいにダサくないのです!!!」


 天使は悔しそうに抵抗してくる、が…


 「ださっ…、いのです…」

 「…!!ぐ…」


 天使は悔しそうに睨んでくる。

 ただ全くと言って、その顔は怖くもなんともなかった。


 「ださ…

 「あーもう、うっさいのですっ!!!!」


 こんな感じで、俺と天使は待ち時間を過ごしたとさ。

 

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