ようやく俺たちの番が来た
街の門の前、俺たちはそこで順番待ちをしていた。
ただ、互いにお金などは…というか荷物すらもなしで、あるのは着ている服だけ…
それなのに街へと入るのにはお金が必要のようで、それに気づいたタイミングで俺たちの番が来てしまったようだった。
「次の方~。」
門番の人に呼ばれ、ドキッとしてしまう。
そして、悩んでしまう。
このまま向かうのか、それとも…
だけど…
「あっ!!呼ばれたのです!行くのです!!」
天使は何も気にした様子もなく、門番の元へと向かおうとしていた。
「いやさ…」
「むっ…、なんなのです!!ようやく私たちの番なのです!!早く行くのです!」
「いやでもさ、お金…」
「次の方~。そこの二人組の方~。」
天使にお金のことを伝えようと思ったタイミングで、門番から催促の声がかかってしまった。
「貴方が止めるから呼ばれちゃったのです!!いくのです!!早く行くのです!!」
天使はバッと俺の腕を掴み、掴んだまま門番の元へと歩き始めた。
「ちょっ…!!」
俺は静止の声をかけようとする…も、天使の歩みは止まらない…
ズンズンと、門番の人の方へ進んでいく。
というか…
俺が腕を握るとボロクソの言ってきたくせに、なのにこいつは普通にしてくるんだな…
…なんて、今はクソどうでもいいことを考えてしまっていた俺がいた。
といった感じで、俺は天使に腕を引っ張られるまま、門番の前まで連れてこられてしまった。
嫌な予感…、というかマズい予感しかしない…
いや、一緒か。
目の前には5人の門番。
どの人もガタイが良く…
そして鉄でできたような…、黒と銀色が色合いの鎧を身に付けていた。
頭までもは鎧を被っていないが腰には剣を携えていて、どうしてもごつく、そしておっかなく見えてしまう。
そんな門番のうちの一人が、俺と目を合わせながら尋ねてきた。
「今回は、どうしてフローワまで?」
「ふろーわ…?」
「…ん?あぁ、この街の名前だ。もしかして、知らずに来たのか?」
「あぁ、はい…」
「そうか。でだ、どうしてこの街に?」
「えっと…」
どうして…
なんて答えたら良いんだろう…
俺はチラッと天使の方を見てみる。
見てみると、天使はいつの間にか俺の背後…数歩分くらい後ろへといた。
しかも草原を眺めながら…
「わ~、やっぱり良い景色なのです~。」
なんてほざいている。
さてはこいつ…
面倒ごとは全部俺におしつけるつもりだな?
門番の前まで引っ張ってきたくせに…
引っ張ってきたくせに…!!
なのに自分はきれいな景色を楽しみやがって…!!
俺は天使を見続ける。
すると俺が見ているのが天使の視界に映っていたのか、天使はこっちへと振り返ってくる。
振り返って来て、素っ気ない言葉をかけてきた。
「なんです?」
「いや、良い性格してるなーと思って。」
「…ん?あっ!!貴方もようやく私のことを分かってくれたのです?そうです!私は、すごく性格が良いのです!!」
「いやっ、これ嫌み!!嫌味なんだけどっ!?」
「嫌味…?でも実際に私は性格良いのです!嫌みになってないのです!!」
「性格が良いって、どこがっ!!」
「どこもです!!」
「どこもっ!?」
「どこもです!!」
頭がお花畑の天使がいた。
「ククッ…」
そして俺たちの会話が聞こえていたのか、視界の外から笑い声が聞こえてくる。
笑い声が聞こえてきた方を見てみると、笑っていたのはどうやら俺に質問を投げかけてきた門番の人らしい。
俺…と天使が、揃ってその門番の人を見つめると…
「いやすまん。つい、な…」
「いえ…」
「でだ話を戻すけど、どうしてこの街に来たんだ?」
「ひゃい…。あっ…」
咄嗟のことで、声が裏返ってしまった。
「「「くくっ…」」」
「ださっ、いのです…」
目の前の門番の人も含め、門番の人からは一斉に笑われ、天使からはうざったい一言を貰ってしまう。
こいつ…、マジで覚えとけよ…!!
絶対…
ぜーったいっ…!!
俺は自分の頬が赤くなるのを感じながら、天使への恨みゲージを加算させた。
「あー、まぁ。そんな緊張しなくていいから…。それで、今日はどうしてこの街まで?」
門番の人が柔らかい表情で言ってくる。
優しい…
どこぞの天使とは違って…
どうして、か…
「えっと…、観光…です…」
「観光、か…。」
海外旅行に来た外人かな?って感じだった…
某テレビ番組とかで出てくる…
そして門番はというと、何やら考え事でもするかのような顔になった。
俺の対応をしていない人らも、にこやかな顔色から何やら訝しむような顔つきになる。
それに少し冷や汗を感じ始めていると、目の前の門番の人が尋ねてくる。
「君…たち、身分証石は持ってる?」
「身分しょうせき…?」
俺は天使を見るが、目が合った天使は顔を横に振ってくる。
知らない、みたいだった。
俺が門番の方へと向き直ると、門番の人は首から紐で繋がられた黄色い石のようなものを取り出していた。
「こういう石のことなんだが…、知らなさそう…だな。」
「はい…」
”せき”はって石のことか…
それが身分証に…
な、なるほど…
「はぁ、君たち…はどこの街から来たんだ?」
どこの…
日本…と言っても通じる気はしないが…
「日本、です…」
他にどう答えたらいいかも分からなった。
「二ホン…?」
目の前の門番はやっぱり分からないみたいだった。
まぁ、ですよねー、って感じだ。
「お前ら、二ホン…って聞いたことあるか?」
目の前の門番は他の門番にも尋ねる、が…
「ない、です…」
「俺も…」
「俺も…」
「えっと、俺も…」
当然、他の門番の人らも知らなかった。
「はぁ…。じゃー、お金は持ってるか?街へ入るのと、あと…、これ…」
門番は身分証石をまた持ち上げてきて…
「…を登録するのにもお金がいるんだけど…」
いるよな…
やっぱりいるよな、お金…
俺は当然持ってない…から、一寸の希望を籠めて天使の方を見てみると、その天使はまた景色に見入っていた。
こ、こいつ…!!
「…。持って、ないです…」
「そう、か…。はぁ…。どうしたもんかな…」
門番は、ため息と一緒に困った顔を向けてくる。
他の門番の何人かは、腰に携えている剣には触れていないが警戒するかのような視線を向けてきていた。
雲行きが怪しそうだった。
はぁ…
なんでこんなことに…
というか…
俺は天使を見る…
このガイド、全く役に立たなくね?
ちょっとも役に立たないんだけど…!!
「なんです?」
「いや…」
「…。」
俺と天使の間で少しばかりの会話のない時間が続いたが、天使が急に得意げな…ニマァとした表情で…
「あれです?あれなのです?私が可愛すぎて、ついつい見惚れちゃった的なやつです?ごめんなさいです。私、あなたのことをそんな目で見れないのです。もう二回くらい死んでから出直して欲しいのです。」
「二回…。死んで!?いや、黒っ!?それ、黒過ぎない?ブラックジョーク過ぎない!?しかもそれ…を、俺に言う!?」
「貴方にだから言うのです。」
「はー、ひっで…!!」
「ふふふっ…」
天使はやっぱりと失礼なやつだった…
「というか、今はそれどころじゃないんだがっ!?」
「そうなんです?」
「そうなの!」
「ふ〜ん…なのです。」
「ふ〜んって…!!」
「…。」
天使は数秒の間こっちを眺めてきていたが、すぐにまた景色の方へと向き直ってしまった。
「…ッ!!はぁ…」
俺は色々と諦めてから、また門番の方へ向く。
向くと、目の前の門番は悩まし気に頭をかいていて、タイミングよく空を見上げた。
そして…
「はぁ…」
またため息をついた。
そのあとすぐ、目の前の門番は俺たちを見ながら…
「君たち、とりあえずついて来てもらっていいか?」
やっぱり、幸先悪そうな展開だった。
「はい…」
でも俺にはそう返事する以外の選択肢がなかった。
門番は他の門番らの方へ振り返る。
「じゃー、俺はこいつら連れて行くから、後は任せたわ。」
「「「「分かりました。」」」」
目の前の門番はまた俺たちの方へ向き返ってくる。
「じゃー、行くぞ?」
「はい…」
ということで俺たちは、門番の人にどこかへと連れていかれることになってしまった。
俺たちは前を歩く門番の後をついて行く。
街の外周を覆うようにできた外壁、それを外からなぞるように歩き、さっきまでいた門が段々と遠ざかっていく。
どこへ連れていかれるのだろう、俺の心の内にそんな不安な気持ちが沸き上がってくるが…
「お~。おっきい壁なのです。すごくおっきいのです!!」
天使はやっぱり天使だった…
呑気というか、今の自分たちの立場が分かってないというか…
でも、確かに大きいは大きかった。
木の板でできた防壁…
それは高さで言うと10メートルはありそうで、傍で見るとかなり大きい。
というか傍に見なくてもかなり大きい、けど…
「お嬢さんは、なかなかに陽気だね。」
門番の人に笑われながら、そんなことを言われてしまう始末だった。
そんな言葉をもらったお嬢さんはというと…
「お嬢さん…!!良い響きなのです。すごく良い響きなのです!!」
「お、おう。そっか…。良かったな…。というか、今は…
「そう、そうなのです!!私、お嬢さんって今まで言われたことないので、なかなかに新鮮なのです!!すごく女の子扱いされてる感あって、すごく良いのです!!」
天使はガバっと俺の方へ振り向いて来て、すごい勢いで言ってくる。
「そ、そっか…」
「そうなんです!!」
「クククッ…。そりゃー良かったよ。」
前を歩く門番の人から、天使は笑い声と一緒ににそんな言葉までかけられてしまったっていた。
合間にこんな会話がありながら、俺たちは門番の人の後ろを付いて歩いた。
いや、反応に困るって…!!
そして、門から5分くらい歩いただろうか…
遠目にはまだなんとか門が見えているくらい…だが、それよりも…
俺たちの目の前、そこには、まるで壁に埋め込められているかのように屯所のようなものがあった。
高さは壁と同じくらい…
つまりは10メートルくらい…
ぱっと見では二階建てのように見えて、日本にある普通の家と高さは一緒くらいだけど、ただ日本の普通の一件やよりも横に大きく見える。
屯所自体は、外壁と同じように木でできていて、かなり年季が入っているのか、ぼろ…
少しだけくたびれている。
「ぼろっ…いのです…」
「言うのか…。それ、口に出して言うのか…。門番の方が目の前でいるのに…!!」
「だって、本当のことなのです!!」
「いや!まぁ…。まぁ…」
返答に困った。
というか、困るしかなかった。
だって、俺も天使と同意見なんだもん。
言えないけど…
困っていると…
「アハハハハ。まぁ、確かにぼろいな。」
門番からもそんな言葉が飛び出してきた。
「ほら、門番さんもそう言って…
「でも、中はそこそこときれいだから安心してくれ。」
「そう、なんですか…」
何…を安心したらいいのだろうか…
だって俺たち、ここで今から何をされるかも分かってないのに…
俺の言葉を聞いた後、門番は屯所の方へと進みだす。
それに俺たちもついて行き…
「入るぞ。」
「は、はい…」
門番が先行する形で、俺たちは屯所の中へ入っていった。
入ってみると確かに良く掃除されているのか、ピカピカに光る床…に壁…
確かにきれいではあった。
「こっちだ。」
門番が行き先を誘導してくる。
その後を、俺と天使もついて行く。
ついて行く合間、横でキョロキョロと見回している天使から…
「お~。」とか、「ふむふむ…」とか言った声が聞こえてきていた。
どういった意図で口にしているのだろうか…
俺は疑問には思うものも、とりあえず門番の後をついていくだけにした。
道を曲がり…
いくつもの部屋を通り過ぎ…
門番と同じ服装をした人や、より軽装な人とすれ違う。
そんな感じで5分くらい歩いた後、目の前を歩く門番の足が止まった。
門番が振り返ってくる。
「おっ、ここだここ。悪いけど、少しの間中で待っててくれ。」
門番が部屋に入るように言ってきた。
「はー…、分かりました…」
俺と天使はその指示に従い、言われた部屋へと入る。
入ると…
外は木造だったのに何故かコンクリートのようなもので部屋全体が覆われていて、しかもその部屋には椅子と机しか置かれていなかった。
「…。」
「お〜、なのです。」
ほぼ殺風景な部屋。
ただそんな部屋でも一箇所だけ目を引く箇所があった。
そう、窓だ。
いや、これを窓と言っていいのだろうか。
人一人…
いや、子供一人すら通ることができないくらいの小さな四角形の穴。
しかもそこには、何故か分厚い鉄格子がはめられている。
「…。」
そこから見えるのは、青い空と太陽から伸びているだろう美しい光。
これはどう見ても…
誰がどう見ても…
「…。」
ガチャッ、という音が後ろから聞こえてきた。
俺は急いで後ろを振り返る。
振り返ると…
そこには、入る時には気がつかなかったが、まるで鉄でてきたようなドア…
というか、鉄でできたドア。
しかもドアにも小さな隙間が空いていて、そこも同じように鉄格子になっていて…
その小さな隙間から、門番の顔が少しだけ見えた。
「じゃー、少しの間ここで待っててくれ。兄貴…じゃなかった…。上のやつ呼んでくるから…」
「…。」
言葉を返せない俺の反応を門番はどう思ったのだろうか…
それは分からないが、門番はそう言葉を残した後、ドアにある小さな枠からも消えていってしまった。
…。
…。
…。
「オウ、ノォォォォ!!!!」
「わっ!!びっくりしたのですっ!!!」
門番に閉じ込められた部屋では、俺の悲しい叫びと、俺のその声に驚く天使の声だけが響き渡っていた。