順番待ち
俺と天使は今、街の門の前にできた列へと並んでていた。
「それにしても、長いな…」
「なのです…」
かれこれもう10分くらいは待った。
なのにだ、その間に進んだのはおそらく2,3組…
俺たちの前にはまだ10組近くいる。
つまり、まだ1時間は待ち続けないといけないみたいだった。
「だなー。なんでこんな長いんだろう…」
「さー、分からないのです。」
「分からないかー。」
「分からないのです。」
何故こんなにも長いかは二人とも分からなかった。
ただ遠目にはだが、今順番がきている商人のような人たちの荷物を、門番のような人たちが手分けして確認しているように見えた。
「あー。機械とかでの確認じゃなくて、門番?…の人らが手分けして荷物確認してるっぽいな。」
「…ん?あー、そうみたいなのです。だから長いのですかねー。」
「かなー。」
二人して、門の前でのやりとりをぼんやりと見つめる。
見つめてると、天使が…
「長いので、ちょっと急かしてくるのです!!」
「おう。任っ…、…って、ちょっ…!!ちょっと待ったっ!!」
俺はとっさに天使の腕を掴む。
掴んだ瞬間天使は振り向いてきて、すぐさま掴む俺の手を無理やり振りほどいてきた。
「なんです…。なんなのです!!また私の身体でできっもなことでもしようとしてるのです?きっもです…。マジできっもです!!そういうの、マジできっもなので止めて欲しいのです!!」
天使の言葉が、俺の心の奥底へとグサグサと刺さった。
「ぐっ…。いやね、それ…。きっもってやつ…、言うの止めてくれない?連呼するの止めてくれない?心痛いんだけど…。聞くと、ものすっごく心痛いんだけどっ…!!」
「そんなの知らないのです。そもです。私できっもなことばかり考える貴方が悪いのです。」
「いや、考えてないから…。全然考えてないからね?今のも、ただ止めようとしてただけで…
「嘘なのです!!絶対に嘘なのです!!きっとまた、私の身体できっもなことをしようとしていたのです!!私が可愛すぎるので…!!」
天使は自信満々にそう言い放ってきた。
「自分で言う…?可愛い…いや、可愛すぎるって…。可愛い…、ですらなく…」
「ふんっ。そんなの当然、なのです!!だってです…」
天使は控えめな自分の胸に手を当て…
「私はクッソ可愛いのです!!誰がどう見ても可愛すぎる…、というくらい可愛さマックスなのです!!」
「…。ソウナンダ…」
「そうなのです!!」
天使はやっぱりと自信満々だった。
いやまぁ、可愛いは可愛いよ?
でもさ、自分で言う?
それ、自分で言う??
困る俺…
それに対して、天使はまだ自信アリアリな表情をしていた。
「…。」
正直、なんて返したらいいか分からない…が、その間でまた天使は門の方へと踵を返し始めた。
「ということで、言ってくるのです!!」
「いやっ…」
掴もうと思い、俺はまた手を伸ばす…
が、また掴んだ時に何か言われそうで、俺は伸ばした手で天使の腕を掴むことに張著してしまう。
ただこのままこいつを行かせて、そして門番的な人に問題発言でもされでもしたら、そっちの方がヤバい気が…
というか、めちゃくちゃあり得そうな気がした。
ということで俺は嫌々、天使の手を掴む。
嫌々だ。
嫌々。
腕を掴んだ瞬間、天使が振り向いてくる。
「むっ…!!またなのです?またなのですか?なんです?発情期なのです?発情期なのですか?」
「いや、違…
「別にそれはそれでいいと思うのです。ただ!!ただなのです!!そういうのを、私に向けて来ないで欲しいのです。きっもです。マジできっもなのです!!」
「だから違うってっ…!!マジで違うからね?俺はそういうの…、マジでお前には向けて…、向けて…。向けてない、から…」
「なんで、三度も同じことを言うのです…?なんで言い淀むのです?」
「…。」
「答えろっ、なのです!!」
「…。とにかくっ!!」
「誤魔化した、のです!!」
「…。とにかく!!」
「じぃ~。」
天使がまた口にしながら見つめてくる…が、俺は無視して話を進めていく。
「も、門番の人が機嫌悪くして街に入れてくれなくなったら大変だろ?だから…
「その時はその時なのです!!」
「何その男前の考え方…!!かっこよすぎるんだけど…。というかかっこよすぎるわ!!だから絶対にしないで!!」
「かっこつけたいので言ってくるのです!!」
「まっ…。マジで待って!!そして俺のことも少しは考えてくれ!!」
天使は振り返り、俺を見つめてくる。
見つめてきて…
「…。言ってくるのです。」
「おいっ!!ちょっと待てっ!!」
天使は鬱陶しそうに振り返ってきた。
「むっ…!!なんで私があなたのことを考えてあげないといけないのです!!」
「いや、おまっ…。糖分ちゃんは一応俺のガイドだろ?なら…
「別に、好きで私はガイドになったわけではないのです。てかです、別にガイドになった覚えもないのです!!」
「そうかもしれないけどさ…。でも…
「でももクソもないのです。ということでです…」
これだけ言っても、もう目の前の天使を止めれる気はしなかった。
だからもう、俺にこいつを止める方法はたったの一つも思い浮か…
いや、一つだけ思い浮かぶ。
浮かぶけど…
でもこの手は使いたくはない…、が…
天使の顔は、今すぐにでも門番へと凸していきそうな顔をしていた。
「はぁ…。そういえばさ…」
「何なのです!!」
「糖尿の邦ってさぁ…」
「あっ、気になるのです?糖尿の邦っ、気になるのです?」
天使は一瞬で、キラキラと楽し気な表情へと移り変わった。
「…。うん、まぁ…」
「そうなのです?良いことなのです!でどこです?どこの箇所です?聞きたいとこ、どこでも…、なんでも教えてあげるのです!!」
「…。」
ほんと、なんなんだろうな、こいつ…
いや、すごく分かりやすいけど…
「えっとさ、さっき言ってたやつなんだけど…。~ってさ…」
「あっ、そこなのです?そこはですね…」
ということで俺たちは列の待ち時間を、楽しく糖尿の邦の話をしましたとさ。
めでたしめでたし…
…で終わることはなく、あれから一時間後、俺たちはまだ門の前に出来た列にへと並んでいた。
ただようやく自分たちの前にはあと数組だけで、待ち時間もあともう少しだけといった感じだった。
そして俺たちが交わしている会話はというと…
「ということなのです。どうです?面白いですよね?そう思いますよね?それでですね…」
俺が疑問を尋ねるフェイズから、俺が話を聞くへとフェイズが移り変わっていた。
変わったのはいつくらいだっただろうか…
おそらくはだけど、始まって一分も経たずだった気がする。
でも思い出せない。
遠く苦しい過去過ぎて思い出せない…
「…聞いてるのです?」
「…ん?あー、聞いてます。聞いてますよ?」
「それならいいのです。それでですね…」
そしてだがまだまだ話は続くみたいだった。
少なくとも俺たちの番が来るまでは…
10分後…
「…なのです。ということでですね、糖分ちゃんは…」
天使の話はまだ続いている。
まだまだ続いていて、まだまだ続いていきそうだった。
俺はその話を、ぼけーと聞いている。
心を無にして、ぼけーと聞いている。
ぼけーと聞きながら、門番?と商人?のような人たちのやり取りをなんとなく見ている。
大きな荷台の中へ二人の門番が入っていき、商人も彼らの姿を後ろから覗く。
入っていった門番の人らの姿は俺からは見えなくなったが、商人らしき人が中に向かって話しかけていることから、荷台の中の門番の人と何やら話しているようだっだ。
そしてそんな状態が数分続いた後、門番の人らが荷台から出てくる。
出てきて、商人の人とにこやかに会話を始める。
何を話しているかは俺の位置までは聞こえない…が、彼らの顔には笑顔が見て取れた。
そんな彼らの会話が少しだけ続いた後、商人らしき人はポケットから何かを取り出した。
それは丸く太った布…のようなもので、その中から銀色に光る…硬貨、なのかな?…それを取り出し、門番の人に手渡した。
門番の人もそれを受け取り、商人らしき人は門を越え、街の中へへと入って行ってしまった。
ふ~ん…
といった感じだった。
へ~…
といった感じだった。
その次の人…おそらくまた商人らしき人の動向も眺めてみる。
始めに、商人らしきい人は首から何やら緑色の石のようなものを門番の人に見せる。
それを門番の人も確認した後、さっきと同じような行動を取っていく。
荷台の荷物を確認し…
確認を終えると、商人らしき人と門番の人らが少しばかりの談笑をし…
そして商人らしき人はまた、硬貨を取り出し、それを門番へと渡す。
門番もそれを受け取ると、街の中へへと商人らしき人を誘導し、商人は街の中に入っていく。
やっぱりふ~んといった感じだった。
荷物を確認し、話して、そして硬貨を…
硬貨…
硬貨…
嫌な予感がした。
「な、なー…」
「…っていう感じで…。むっ、なんです?」
今も糖尿の邦の話を楽しそうに話していた糖分ちゃんへと、俺は話しかけた。
「いやさ、硬貨…ってなんだっけ…?」
「こうか?硬貨…って、あのお金とかで使われる硬貨、なのです?」
「そ…。その硬貨…」
「タカシさん、そんなのも…。てかてかです。それ…、分かって聞いてません?分かってて聞いてますよね?」
確かにその通りだった。
「うん…」
「なら、なんで聞いてくるのです!分かってるのになんで聞いてくるのです!!」
「いやさ、さっき商人的な人が…、門番の人に硬貨を渡してたんだよね…」
「はい、なのです。」
「それってさ、なんでだと思う?」
理由は自分でも分かり切っている。
ただ…
ただなんだ。
その理由を素直に受け取り切れない自分が、今まさにここにいた。
「そんなの簡単なのです!!それは…」
天使が自信あり気に言ってくる。
続く言葉を、俺は黙って見守る。
「お金なのです!!通行料として、きっと渡しているのです!!」
「だよなー。そうだよなー。」
それしかないもんな…
「じゃーさ、糖分ちゃん、今お金…持ってたりする?」
「…ん?持ってないのです。てかです、持ってるわけがないのです!!」
「ですよねー。はは、は…」
俺はほんの少しだけ期待した。
期待していた…というか、望みを懸けていた。
神様が…、あの神様が…、気を利かせて、もしかしたらお金をもたせているかも、と…
そんなことはなかったのだけれども…
なかったのだけれども!!
俺がお金を持ってるいるかだって…?
そんなの言わなくても分かるだろ!
ねぇよ…
ねぇよ!!!
「なんです。何が言いたいのです!!」
「…。」
天使が問いただしてくるが、俺は答えられない。
そして…
「次の方~。」
俺たちの番がやってきてしまった…