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街に到着?

 俺と天使は今、街までもうすぐのところまでたどり着いていた。

 もう少し具体的に言うとしたら、もうほんの目と鼻の先といった感じだ。

 

 だからようやく…

 ようやく…

 この苦しい時間とはおさらばできる!!

 

 「それでですね、糖分ちゃんは…」

 「あー、うん…。ソダネー。」

 「むっ…!!まだ話の途中なのです。私の話、ちゃんと聞いてるのです?」

 「あー、はい。聞いてる、聞いてますよ…」

 「ならいいのです!それですね、糖分ちゃんは…」


 天使は糖分ちゃんの話を…

 …。

 紛らわしい!!

 

 天使は今、糖尿の邦に出てくる糖分ちゃんの話をしてきていた。


 ただ、これには訂正が必要だ。

 

 してきていた…じゃない。

 ずっとしてきて、いる…だ。

 さっき一休みした時から永遠と、糖尿の邦の話をしてきている。


 しかも俺が見てない…

 そこまで詳しくない、アニメの話を小一時間以上も…


 いや、あれなんだ。

 5分や10分くらいなら、少し長いなーくらいにしか思わないんだ。

 ちょっと退屈ではあるけど、まぁ…くらいなんだ。

 でも30分…、一時間もの間ずっとその話だけをされるとなると話は変わってくる。


 もう飽きたよ。

 苦しいよ。

 疲れたよ。

 他の…、普通の会話がしたいよ。


 ただそんな俺とは打って変わって、本人である天使だけはすごく楽し気にしている。

 楽し気に、糖尿の邦の話を続けてきている。

 

 「…というわけなのです!!どうです?どうです!!可愛いですよね?可愛いですよね!!カッコ可愛いですよね!!」

 「ソダネー。」

 「そうなのです!!そうなのですっ!!糖分ちゃんは、すごいのです!!あなた、なかなかに話の分かる人ですね!!」

 「ソダネー。」


 なんだろう…

 これ、褒められてるのか…?

 褒められてるよな?

 でも、全くと言って嬉しくないんだが…?

 全然、嬉しくないんだが…?

 こんなにも嬉しくなかった褒め方が、俺に人生…これまでにあっただろうか…

 いやっ!!


 「それでですね…」

 

 まだ、話は続きそうだった。

 それはきつい…

 というか、とっくの前からきつい。

 もう聞きたくなんかないんだ。

 

 「あーそれよりもさ…」

 「むっ…!!なんです!!」


 天使は顔をしかめ、不満そうにしてくる。

 

 「いや…。ようやく街についたなーって…。」

 「…ん?あっ、本当なのです!!もう、街まで着いてるのです!!」


 天使は今まさに気づいた模様だった。


 「話が弾むと時間が経つのは早いのです!!すぐだったのです!!ですよねっ?」


 何やら天使がおかしなことを言ってきている…

 尋ねてきている。

 

 「はははは、ホントネー。」


 こんなにも渇いた笑いが俺の口から出てきたのは初めてだったかもしれない。

 ははは…、笑えてくる。

 笑えないけど…

 

 「ですよね!!ですよね!!いやー、すごく楽しかったのです!!すごく、楽しいのです!!それでなの…


 まずい…

 まじでまずい!!

 この流れはまたきっと…

 

 「あー!!それにしてもさ、すごい混んでるな。」

 「むっ…!!」


 天使がまた顔をしかめてくる。

 でも気にしたらダメだ。

 気にしたらまた、さっきと同じように糖尿の邦の話を…、糖分ちゃんの話を…


 「いや、すごいなー。すごいよな?あはははは…」

 「…。」

 

 じぃ~と、天使が見つめてくる。

 すごく見つめてくる。

 まるで、音のないはずのその音が今まさに聞こえてきているかのように…

 

 「じぃ~。」

 「…。いやっ、お前が言ってんのかよっ!!」

 「そうです!!私が言ってるのです!!何か文句でもっ!!」

 「いや、文句はないけど…」

 「ならいいじゃないですか!!」

 「いい、けど…。別にいいけど…。でも、ツッコむだろ!!そんなのツッコむだろ!!ツッコむしかないだろ!!」

 

 だって普通は聞こえないもの…

 絶対に聞こえないもの、じぃ~って音…


 「ツッコみの三段活用ですか…」

 「何、そのほんとにありそうなやつ!!マジでありそうなんだけど…。というかうっせーわ!!マジでうっせーわ!!」

 「良いネーミングセンスですよね?自分でもそう思います!」

 「うざっ…。めっちゃうざいんだけど。自分で言う?それ…」


 天使はフッと、口角をあげた。


 「それはあれですよね?私の才能が凄すぎて、妬ましいというやつですよね?分かります。」

 「うーわ。うざっ…。マジでうざっ…。というか妬ましくねーわ!!」

 「ふふふ…。地上の愚民はそうやって天使である私の才能を疎ましく思えばいいのです。」

 「いや、違うって言ったよね?俺、違うって言ってるよね?」

 「私には分かるのです。それ…、妬ましくてそう言ってしまってるだけなのですよね?本心では妬ましくて悔しいって思ってるのですよね?分かります。」

 「いや、思ってないからね?ほんと思ってないからね?」

 「分かります。」

 「分かってねぇだろ!!絶対に分かってねぇだろ!!」

 「分かります。」

 「…。」


 俺は理解した。

 これ…、言っても無駄なやつだと、

 この子…、ちょっと頭がおかしいと、俺はそう理解した。


 だけど目の前の天使は、何も返さない俺に勝ち誇ったような顔を向けて来ている。

 その顔が、すごくむかつく。

 マジでむかついた。


 「なんで、こんなのが俺の案内人なんだろう…。もっとまともな子が良かった…。もっと頭がまともな子が良かった…」

 「むっ!!なんです、その言い方…。その言い方だとまるで、私がまともじゃないみたいじゃないですか!!」

 「いや、まともでは…

 「なんです?」


 わざとらしく天使が言葉を被せてきた。

 

 「いやだから、まともで…

 「なんです?」

 「だから、ま…

 「なんです?きっもな人…」


 やっぱり言わせてくれなかった。

 でも…、それよりもだ。

 今なんか、すごくきっつい言葉を発せられたような気が…


 「…。えっと今、なんて…?」

 「なんです?」

 「いや、その後なんだけど…」

 「…?どういう意味なのです?」


 分かってくれなかった…

 というか、ちょっとややこしい感じになってる気が…

 

 「いや、さっき『なんです?』って言った後…、なんか言わなかったか?こう、人を傷つける…、人の心をえぐってくるような言葉を…」

 「あーそれですか。きっもな人、のことです?」

 「そう、きっもな…。きっもな…。ねぇ、ひどくないっ?すごくひどくない?何、『きっもな人』ってっ!!それ、すごく傷つくんだけど…。めっちゃ傷つくんだけど!!」

 「でも、本当のことなのです!!」

 「いやなんでっ…。なんでだよ!!」

 「だってです…」


 天使の視線が、汚らわしいものでも見るかの視線に移り変わっていく。


 「さっき、私の身体でよからぬことをしようとしてたじゃないですか。」

 「…。」


 天使の言葉に、俺は何も答えれなかった。


 「なんです?なんでなんも返してこないのです?」

 「…。いや…」

 「でです。でなのです。しようとしましたよね?私の身体で、よからぬこと。」

 「…。いや、全然…」

 「ほんとなのです?」

 「…。ホントホント。俺、嘘つかない…」

 「…。」

 「…。」


 俺と天使の間に、静かな時間が流れる。

 流れて…


 「嘘なのです!!絶対嘘なのです!!」

 「…。ほ、ほんとだよ。」

 「いや、嘘!!だってさっきから変な間があるのです!!あるのです!!」

 「…。ない、よ。そんなの…」

 「今も!!今もなのです!!今も変な間があったのです!!」

 「…。」

 「なんで何も答えないのです!!」


 天使が鋭く、何度も追及してくる。

 そしてすごく分が悪かった。


 「…。あー、それにしても…

 「誤魔化そうとしてるのです!!次は誤魔化そうとしてたのです!!」

 「…。違うよ。そんなことないよ…」


 俺は…、どこか遠くを見ながら言った。


 「どこを見ながら言ってるのです!!言うのなら、私の目を見て言って欲しいのです!!」

 

 俺は天使の目を見た。

 見て…

 町の前に出来ている、行列の方に目をやった。


 「いや、それにしても…

 「いやっ…、ひどいのです!!誤魔化しの仕方がひどいのですっ!!」

 「…。そ、それにしてもさ…

 「また…、なのです…。また誤魔化そうとしてるのです!!」

 「…。あっはは…」

 「…。」


 俺は笑って誤魔化すことしかできなかった。

 そんな俺を、天使がじぃ~っと見てきているのが伝わってくる。


 「…。」

 「じぃ~…」

 

 また口で効果音をつけながら天使が見つめてくる。


 「…。」

 「じぃ~…」

 「…。そ、それにしても、街の前…、すごく混んでるな…」


 そう。

 俺たちは街のすぐ目の前までたどり着いていて、街の前にはすごく長い列があった。

 

 ただ天使はというと、やっぱり…


 「じぃ~…」

 

 だった。


 「…。いや~、列もすごいけど…、街もなかなかに大きそうだな…」


 遠くからでも大きいなと思っていた。

 でも近くで見ると、より迫力を感じられる大きさだ。


 そして天使はというと、当然…

 

 「じぃ~…」


 …だ。

 

 「…。よし!じゃ―、俺たちも並ぶか!」

 

 俺は速足で、足を列へと向かわせる。


 「あっ!!逃げたのです!」

 「に、逃げてねぇし…。戦略的撤退だし!!」

 「それを逃げるというのです!!」

 「…。よし、行くか!」

 「あっ…!!!逃げたっ…!!逃げたのです!!」

 「…。」


 俺は急いで列の後ろへと向かった。

 

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