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街へと進む前に一休み

 「はぁ、ふ~。」


 草原に置いてあった…、いや正しくは落ちていたか。

 座れるくらいの少し大きめで平べったい石の上に座って、今俺は一休みしていた。

 

 さすがに疲れた。

 ブタと子豚の動物に追われることおよそ10分…、いや実際にはもう少しは走ったかもしれない。

 でもなんとか俺は逃げおおせて、そしてちょうどいい石を見つけたから、座って休んでいたというわけだ。

 俺、は。

 

 そう、俺は、だ。

 今ここに、あの天使の女の子の姿はない。

 

 だって、あのまま置いて行ったから…

 本当に置いていったから。

 

 罪悪感はある。

 でもしょうがなかったんだ。

 しょうがなかったんだ!

 ということで一人のんびりと、俺は休んでいた。

 

 それにしてもあいつ…、なかなか来ないな。


 俺は来た道を眺める。

 通り道だけきれいに刈り取られた、草原の道を眺める。

 でもそこにはやっぱりと、天使の姿は見つからなかった。


 もしかして…

 もしかしてだが、あのブタに食べられてしまったのだろうか…

 

 なら、悪いことをしてしまったかもしれない。

 ただあの時一緒にいたとしても、俺にはどうすることもできなかった。

 ならしょうがないな、うん。


 「あー天使様、どうかこのきれいな空の上で、俺を見守っていて…

 「ぜぇ~、ぜぇ~…。勝手に…、ぜぇ~、殺すな…、です…」

 「あっ、生きてた!」

 「…ッ!!…ぜぇ~…」


 辛そうに、天使は顔中汗でびっしょり…

 手は膝に預け、肩で…、いや丸まった身体全体で息をしていた。


 「ぜぇ~、ぜぇ~…」

 「遅かったな。」

 「ぜぇ~、ぜぇ~…、遅かったじゃ…、ぜぇ~、ないの…、です…。なんで、ぜぇ~、私のことを…。あ~もう無理…」


 バタッ…

 天使は正面から地面に倒れた。


 「大丈…

 「大丈夫じゃ…、ぜぇ~。ないの…、ぜぇ~…」

 「なさそうだな…」

 「です…」


 しゃべるのすら辛そうだった。


 「可哀相に…」

 「ぜぇ~、誰の…、ぜぇ~、せいだと、思って…。ぜぇ~…」

 「さぁ?」

 「さぁって…!!」


 うつ伏せのまま、天使は俺のことを睨みつけてるみたいだった。

 よく顔が見えないから分からないけど…

 

 「で、あいつは?」


 当然、ブタと子豚…、両方の顔のあった変な生物のことだ。


 「あ、あいつは…、ぜぇ~…、気づいたら、ぜぇ~…、いなっ…、ぜぇ~…、ちょっと休ませて…、ほしいの、です…」

 「あ~、そっか…。そうだな。」

 「気が…、ぜぇ~…、きかないの…です…。」

 「そんな状況でも一言余計なのな、お前…」

 「何か、ぜぇ~…、文句、でも…。それに…、お前って…、うっ…」

 「あ~、もういいから。少し黙ってろって。」

 

 コ…クッ…


 天使はゆっくりと頷いた。

 やっぱりうつ伏せになってるから、分かりにくかったけど。


 それにしても…


 「良い景色だな~。」

 「ぜぇ~、むかつく…。ぜぇ~…、すごく、むかつく…のです…」

 「ん?何が?」

 「何がって…。ぜぇ~、ぜぇ~…、やっぱり、ぜぇ~…、いいの、ぜぇ~…、です…」

 「あっ、そう?」


 コクッ…

 天使は悔しそうに睨みながら頷いてきた。


 息も絶え絶えで自分はこんなにも辛いのに、俺一人だけ景色を堪能していることがそんなのにも腹たったのだろうか…

 まぁ、腹立つか。

 俺的にはどうでもいいことけど…

 だって俺関係ないから…


 俺はまた視界を草原へと戻す。

 

 草の高さは、立ってる時の俺の腰の高さくらいまで…

 いや、それよりはちょっと低い。

 だから座ってる今だと、俺よりも少し低いくらいの高さ…

 それが永遠に続くかのよう、視界いっぱいに草原が広がっている。

 一緒に、草や土の匂いもした。


 「ん。やっぱり良い景色だよな。」

 「一人だけ…、ずるいの、です…。ハァ…、ハァ…」


 さっきと比べると、だいぶ息も整ってきたみたいだ。


 「お前も座って見たらいいじゃん。」

 「それ、です…。それなのです!!」


 天使は急に起き上がって、俺を指さしてきた。

 

 「ん?」

 「私、お前って名前じゃないのです!!」

 「あー、そっか。そうだよな。お前、じゃないよな。」

 「そうなのです!!」

 「じゃー、あなたは…」

 「違うのです!!」

 「じゃー、君?」

 「ち、が、い、ま、す!!」

 「じゃ―…」

 「じゃー、じゃないのです。じゃーじゃ!また絶対、何か違うの言おうとしてるのです。」

 「あっ、ばれた…?」

 「ばれるのです!!」

 「ははは。そっか~。」

 「そうなのです!!」

 「じゃ―、なんて名前なの?」

 「それはなのです…」


 天使は控えめな胸に手を当て、自信満々に背筋を伸ばした。


 「やご…」


 天使は途中で言葉を止めた。


 「ん?」

 「いや、今ちょっと思ったのです。」

 「何…

 「私の名前…、長いのです。長くて面倒なのです。」

 「お、おう…。いや自分で言うなよ!コメントしづらいわっ!!」

 「そこでなのです。」

 「スルーっ!?」

 「そこでなのです!」

 「あっ、はい…」


 俺のツッコみはスルーらしい。

 天使は偉そうに指を立てながら話しかけてくる。

 

 「私のことは、ここでは糖分ちゃんと呼んで欲しいのです!!」

 「糖…。うわっ…!!」

 「うわっとはなんなのです!!うわとはっ!!」

 「いや…、いやっ!」


 SNSとかだと、自分に好きなキャラの名前を付けたりする人とかは結構いる。

 まぁ、分からなくもない。

 ハンドルネームをつけるのってなかなかに難しいし、そこで好きなキャラをっていうのは使いやすい…

 それに、好きなキャラをより身近に感じられる。

 だから分からなくはない…、ないけど…

 でもリアルで実際にあだ名としてつけるのはなかなかに…、というか滅多に見ない…し、ちょっと…、というかなかなかに痛い気がする。

 恥ずかしいとか思わないのか?

 思わないのか…

 思ってたらつけないだろうし。


 「別に…、何も…」

 「いや、あるのです!!その反応は、何かあるときのやつなのです!!」

 「…。俺の名前は…

 「待つのです!!誤魔化そうとしないで欲しいのです!!」

 「いや、誤魔化そうとかでは…」


 ついつい、俺は明後日の方向を向いてしまう。


 「嘘です!!絶対に嘘なのです!!今違うとこを見てたのです!!」

 「…。いやさ、リアルで好きなキャラを自分のあだ名としてって、なかなかすごいやつがするやつだよなーって思った、だけだよ…」

 「そうなのですかっ!?」

 「そう…

 「でもまぁいいのです!!別にいいのです!!だって私、実際に天使ですごいですし。すごいですし!!」

 「何故二回言う…」

 「それにです!」

 「あっ、俺の話はやっぱりスルーなのね。」

 「はい!!」

 「おいっ!!」


 天使はクスリと微笑みを浮かべた。

 そしてすぐ…


 「でです!で、なのです。私、糖分ちゃんのことすごく好きなので、糖分ちゃんと同じ名前で言われると、きっと嬉しいのです!すごく嬉しいと思うのです!!」

 「はー、そうなん…

 「そうなのです!!なので、今日から私のことは、糖分ちゃんと呼んで欲しいのです!!」

 「はー。まぁ、君がいいならいいけど…」

 「なら決まりなのです!!」

 「はい…」


 ということで、目の前にいる天使は、今から『糖分ちゃん』という名前で呼ぶことになった。

 お、おう…、といった感じだ。

 向こうの名前も聞いたし、俺の名前も名乗るべきだよな。

 向こうは本名じゃないけど…


 「えっと、俺の名前…

 「あっ、興味ないんでいいです!」

 「…。」


 少しの間、開いたまま口が動かなかった。


 何なのこいつ…

 マジで、何なのこいつ…!!


 「あっ、そうっ!!」

 「そうなのです!!」


 天使はきっぱりと言い切ってきた。


 マジで泣かす。

 こいつ…、いつか絶対に泣かしてやる!!


 はぁ~。

 俺は一度、深いため息をついてから…


 「じゃー、行くか。」

 「行く…?どこにです?」

 「どこって…」


 俺は視線を、さっきから遠目に見えている街の方へ向ける。


 「あそこかな。」

 「あそこ…」


 天使も街へ視線を向けた。


 「そ。じゃ―行くか。」


 俺は立ち上がる。

 立ち上がるけど、天使は座ったままその場を動こうとはしなかった。


 「えっと…、どうかしたのか?」

 「いや…。なんで行かないといけないのですか?」

 「なんでって…。だって、普通は行くだろ?」


 そうしないと生活できないし…

 

 「普通とか知らないのです。今私は、歩くのが面倒なのです。動きたくないのです!」

 「…。」


 ほんとなんだろうな、こいつ…

 いや落ち着け。

 今は、だから…

 今は疲れてって話だから…

 だから落ち着け、俺。


 「あと…、どれくらい休み欲しんだ?」

 「そうですね…。一に…

 「今、一日って言おうとしただろ!!長いわ!!長すぎるわ!!なんだよ一日って!長いわ!!マジで長いわ!!」

 「…っ!!うっさいですね!!…。そうなのです!!」


 何か思いついたみたいだ。


 「なんだ?」

 「私、良いこと思いついたのです!!すごく、良いこと思いついたのです!!」

 「はー。で、何だよ…」

 「それはなのです…!!」


 天使…

 いや、糖分は…

 なんか気持ち悪いな。

 まぁいいか。

 そのうち慣れるだろ…

 

 糖分は自信満々な笑顔で…


 「私を…、おぶってあそこまで連れて行って欲しいのです!!」


 おぶって…

 街まで…

 

 「あほかっ!!」

 「あほ…!!なんでです!!なんでなんです!!こんなにも、すごく良い案…

 「いや、見ろ!街までの距離を見ろ!!」

 

 天使は街を見る。

 そしてすぐに振り返ってきて…


 「見たのです。で、何なのです?」

 「いや距離!!距離っ!!」

 「距離…が何なのです…」

 「見て!!街までの距離を見て!!」


 俺の感覚としては、少なくともここから街まで数キロ…

 下手したら5キロ以上の距離がありそうに見える…

 なのにおぶる…?

 いやいやいや…

 

 「あーもう何なのです!!何が言いたいのです!!言いたいことがあるなら、はっきりと言って欲しいのです!!」

 「じゃ―言うわ!というかもう言ったわ!!距離!!街までの距離がえぐいんだって…!!なのにここからおぶっては無理だろ!!」

 「無理?そんなの知らないのです!私は…、もう歩きたくないのです。今はぜーったいに歩きたくないのです!!なんで!一日休むか…、それかあなたが…、あー、もう面倒ですね!あなた、名前!!なんという名前なんです!!」

 「おまっ…」

 「お前、じゃないのです!糖分ちゃん、なのです!!私の名前は糖分ちゃんなのです!!」

 「…。」


 頭が、痛かった…


 「はぁ…。た…

 「たなかたけしさんですね。」

 「…。聞いて?最後まで聞いて?頼むから…!!」

 「いやでも、顔と…、あと雰囲気的に合ってると思うのです!!」

 「何顔って…。雰囲気って…!!俺、そんな顔と雰囲気なのっ!?」

 「そうです!!」

 「そうですって…」

 「そんな感じの、平坦で平凡な顔をしてるのです!!」

 「おまっ…!!全国の”たなかたけし”さんに謝れ!!」

 「なんでです!!あとそれ、いい加減にして欲しいのです!!私の名前は糖分ちゃんなのです!!お前、じゃないのです!!」

 「お前が言うな!!」

 「だーかーらっ!!」

 「あー、もう分かった、分かったよ!!糖分ちゃん。糖分ちゃんだろ?」

 「そうなのです!!分かればいいのです!!」

 「はぁ~。」


 天使は一応は満足したみたいだった。


 「ででで!どうなのです!どうなのですか?当たってるのです?名前、当たってるのです?」


 キラキラと期待した目で天使が聞いてくる。

 

 「…。」

 「どうなのです!!」

 「…。」

 

 天使がしつこく聞いてくる。

 でもこれに関しては、俺は何も答えたくなかった…


 「早く言うのです!!」

 「…。」

 「は~や~くっ!!」

 「…っ!!あーもう分かったよ。言うよ、言えばいいんだろ!!」

 「そうです!言うのです!!」

 「はぁ…。た…


 俺は名前を告げようとする。

 するとやっぱり、天使はまたキラキラの目になった。


 「…。言わないとダメ?」

 「…むっ…!!あ~もうしつこい!長い!!ダメなのです!!言わないとダメなのです!!早く言うのです!!」

 「はぁ…」


 今言わないとダメみたいだった。


 「田中…たかし、だけど…」

 「たなか…、たかし…。たか…、あーーーっ!!おしいのです!!すごくおしいのです!!一文字だけっ…!!たった位置文字っ!!あ~~~っ!!!」

 

 天使は叫んだと思ったら、両手をわちゃわちゃとさせる。

 相当悔しいみたいだ。


 「むーっ!!そうです!そうなのです!!」


 何かひらめいたらしい。

 でも、嫌な予感がする…

 いや、めんどくさいか…

 どっちでも一緒か…


 まだこいつとの付き合いは短い。

 でもわかったことがある。

 それは…

 こういう口文句の時、こいつ…、絶対に碌なこと言わないんだよな…


 「…、なんだ…?」

 「それはなのです!あなた、今から一文字だけ変えるのです?変えたらいいのです!!”たなかたけし”さんに、名前変えたら良いと思うのです!!」

 「ほらやっぱり…」

 「…ん?何がやっぱりなのです?」

 「いや、なんでも…。とにかく嫌だ!!」

 「なんでです!!」

 「なんで、お前の予想を正解にするためだけに俺が名前を変えないといけないんだよ!!そんな嫌だわ!!」

 「むーっ!!いいじゃないですか!!別に一文字くらい!!たった一文字、名前を変るくらい…」

 「嫌だわ!!絶対に嫌だわ!!」

 「なんでです!!」

 「なんでもだよ!!」

 「むーっ!!」

 「ん゛-っ!!」


 俺と天使は睨み合う。

 少しの間睨み合って、天使は睨むのを止めてきた。


 「まぁ、いいのです!!私は天使!!すごくて可愛いのです!!だから別にいいのです!!それに、一文字以外当たってたのです!!なら、当たってたのと一緒なのです!!」

 「…。」

 「ということで、私はやっぱりすごいのです!!可愛いのです!!」

 「…。」


 また天使が自画自賛を始めていた。

 鼻を伸ばして、控えめな胸を張りながら…


 「はぁ…」

 「で、です!私たち、さっきまで何の話をしてたのです…?」

 「…。ははは…」


 少しだけ、悲しくて口から笑いがこみ上げてきていた。


 「街まで行く話だろ…」

 「あっ、そうなのです!!たなか…。ん-、たかし…。ん-、あれですよね?」

 「なんだ?」

 「名前…、すごく平凡ですよね…」

 「うっさいわ!!マジで余計だわ!!」

 「ん-、どっちで…。なんて呼ぶか悩むのです…」

 「いや、どっちでもいいよ。田中でも…、たかしでも。」

 「ん-、それが悩むので…、そうなのです!!」

 「…。」


 「たけし…!!たけしと呼ぶの…

 「却下!!」

 「むーっ!!なんでです!!良い案なのにです!」

 「どこがだよ!!ど、こ、がっ!!さっきのをっ…、ただ正解にしたいだけだろ!!」

 「…。」

 「何か言えや!!!」

 「はぁ…」


 天使はうざったくため息を吐いてきた。


 「まぁいいのです!!」

 「よくはないだ…

 「まぁいいのです!!」

 

 天使が同じ言葉を二度言ってくる。

 どうやら、俺の意見はかき消される模様…


 「タカシさん…」


 タカシで落ち着くらしい…


 「…。何?」

 「で、どっちにするのです?ここで一日休むか…。それか、貴方が街まで私をおぶっていくのか。」

 

 ようやく話は本題に戻るらしい。


 「どっちも嫌だなー。その案…」

 「わがままを言うな、です!!」

 「お前が…

 「お前?私の名前は…

 「あー、はい。糖分ちゃん。糖分ちゃんね。」

 「分かってるのならいいです!ちゃんと言うのです!!」

 「はー。」


 で、どっちにするか…

 ここで一日休むか…

 それか、こいつを…


 俺は、天使を見る。

 天使の身体を見る。


 まぁそこまで重そうでないから、運べないことは…


 「タカシさん。」

 「ん?」

 「何か今、失礼なこと考えてません?重そう…とか、重そう、とか!!」

 「同じ!それ、同じだから!!あと重そうとか、考えて…。考えて…。…。」

 「おい、なんでそこで黙るのです!!最後まで言い切るのです!!考えてないと…!!軽そう…だと、最後まで言い切るのです!!」

 「図々しい…」

 「図々しくないのです!!本当のことなのです!!」

 「はー。」


 天使は図々しかった。


 「で、です。で、なのです。どっちにするのです。休むかおぶるか…。私はどっちでもいいのです!どっちにしても楽ができるので、どっちでも問題ないのです!!」

 「そりゃー、お前は問題ないだろうな。お前はっ!!」

 「だ~か~らっ…」

 「あーはい、糖分ちゃんはな。」

 「むふーっ。分かればいいのです、分かれば!!」


 わざとらしく、天使は鼻息を漏らしてきた。


 で、どっちにしよう…

 ここで一日休むか、おぶるか…

 というか…


 「そもそもここで一日休むって何っ!?ご飯とかどうすんの!!」

 「ご飯…?」

 「そう、ご飯だよ!!一日食べないとか、そんなのえぐすぎるだろ!!」

 「…。あー、そうだったのです!人間さんたちは、毎日ご飯を食べないといけないのでしたね!!」

 「…、へ?何その言い方…。それだとまるで、おまっ…。糖分ちゃんは…」


 糖分ちゃん…

 やっぱり、言っててきつかった。


 「そうです!私たち天使は、別に食べなくても問題ないのです!!」

 「…。は…?はっ!?そんなのズルくね?おまっ…、糖分ちゃんだけズルくね?」

 「ふふふっ、大変ですね~。」


 糖分ちゃんは、こっちをニタニタと笑ってきた。

 は、腹立つ…


 つまりは、ここで一日過ごすってことは、俺だけお腹を空かせるってこと…

 ただでさえ、一日飲まず食わずは嫌…、というか苦痛だろうに…


 俺は天使に視線を移す。


 こいつだけ平気なのを横で見せつけられるわけか…

 何それ…

 どんないじめなの…

 

 つまり、俺が取れる選択肢は…

 

 「はぁ…。街までおぶってやるよ…」

 「ふっふふ~、じゃー、よろしくお願いしますね。」


 天使はニマニマとした笑顔だった。


 むかつく…

 でも、しょうが…

 しょうが…

 

 この時俺は気づいた。

 気づいたんだ。

 これ、実は役得なのでは?

 役得なのでは…!!

 だって…

 

 俺は天使を見る。

 出るとこは出てなく、引っ込むとか引っ込んでない寸胴な体型を見る。

 それでも、わずかばかりの胸の膨らみは見て取れた。

 

 ということは、おぶってる時に感触を楽しめるのでは…?

 わずかながらでも感触を楽しめるのでは…!?


 しかも、おぶっているから当たっていもしょうがないという、大義名分まである。

 つまり…

 

 勝った…!!

 この勝負、実は俺の勝…


 「あっ、やっぱりいいのです。」

 「…。ん?」

 「自分で歩くのです。」

 「…。へ…?なんで?なんで急に!?」

 「なんか…」


 天使は冷たい…

 まるで蔑んだような目で見てくる。


 「目がきもかった…、のです。」

 「…。」

 「私のこと、きっと…」


 その後の言葉を、天使は続けてこなかった。


 「べ、別に、そ、そんなことは…」


 じぃ~…


 「…ッ!!」


 嫌な汗が流れる。

 天使が蔑むように見つめて来て、嫌な汗が流れる。


 「きもっ…」

 

 グサッ…!!


 天使の一言で、心に深く重い何かが刺さった…、気がした。

 天使は立ち上がり歩き出す。

 

 「行くのです…」

 「おぶっては…」

 「きもい人におぶられたくないので!だから自分で歩いて行くのです。」

 「あっ、はい…」


 ということで俺たちは、自分たちそれぞれの足で歩いて街まで向かった。


 「きもっ…」

 「頼むから止めてっ、それっ!!」

 「きもいのです…」

 「ぐさっ…!!」


 

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