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豚と子豚

 少し…、ほんの少し前までは、周囲いっぱいが白い空間に覆われていて、俺の目の前に神様がいた。

 でも景色は映り替わり、今目の前に広がっていたのは…

 草原…だった。

 瑞々しく、だだっ広く広がった草原だった。


 俺…はどうやらほんとに、異世界に…


 「うぅ~。ここ…はどこなのです…。どう見ても…。どう見ても…。私、本当に…。あっ、それよりもです。テレビ…!!テレビはどこなのです!!アニメ、もうすぐアニメが始まっちゃうのです!!テレビ…!!はどこなのですっ!!!!」

 「…。」


 少しくらい…

 ほんの少しくらい、新しい世界…

 これからは俺の新しい人生が始まると、感慨にふけようと思っていた…、ふけたかった。

 なのに、一緒に転生してきた変なのから、あほみたいで…、情緒の欠片もない言葉が聞こえてきた。


 天使は周囲を見渡す。

 右…、左…、後ろへと…

 俺もそれにつられて見渡してみる。

 そしてやっぱりと、俺たちの周囲には草と木しかなかった。

 

 前方には、さっきも言った草原…

 後方には、深い森といった感じの…


 「あ~~!!テレビ、がないのです!!ということは、アニメ…!!アニメが見れないのです!!私のアニメ…!!なんで…!!なんでなのです!!なんでこんなことに…」


 ガバっと、天使が振り向いてきた。


 「あなたのせいなのです!!あなたが、雪なんかでこけて死んじゃうから…!!ダッさい死に方するからなのです!!」

 「はっ…!?だ、ダサくねぇっしゅ…」


 あっ…


 「ダサ…。やっぱりダサいのです!!死に方も…。噛むのも…。どっちもダッさいのです…」

 「う、うっせー…。マジでうっせーわ!!元はと言えば、お前が間違えて雪なんか降らすからだろっ!!」

 「はっ!?あれは、私悪くないのです…。あれは、あんなところにリモコンがあったのが悪いのです。だから、私は悪くないのです!!」

 「リモコン…?」

 「天気を操るリモコンなのです。それが、テレビのリモコンの横に置いてあったのです。」

 「はー…」


 そんなのあるんだ…

 というか、そんなので操作してたんだ。

 へー。

 でも…

 

 「それ、誰がそこに置いたんだ?」

 「へっ?そんなの、当然私なのです。私が置いたのです。仕事が終わったあとテキトーにぽいっと置いたのです。」

 「ぽいっ…。それ、置いたじゃなく『捨てた』だろ!しかもそれ、どう考えてみても、絶対にお前のせいだろ!!」

 「なっ、なんでですか!!なんで私が悪いことになるのですか!!あそこに、リモコンがあるのが悪いのです!!あんなところにあるのが悪いのです!!」

 「だ~か~ら、ちゃんと仕舞わなかったお前が悪いだろ!!」

 「そ、そんなことはないのです!!絶対に、そんなことはないのです!!」

 「いや…

 「あれなのです!!私が触る前に神様が来て、リモコンを仕舞えばこんなことにならなかったのです!!そうです!!そうなのです!!だから全部、神様が…

 「いや…!!いやいやいや!!無理だろ!!その言い訳、絶対に無理だろ!!」

 「そんなことないのです!!だって実際、神様がそうしてれば何も起きなかったのです。つまりです、全部神様が悪いのです!!」


 神様が不憫だった。


 「そうです。神様が悪いのです。なのにです。なのに私に、こんなひどいことを…。うぅ…。アニメ…。今すぐアニメが見たいのです…!!」

 「この状況でもアニメなのな…」

 「当然なのです!!前回がすっごくいいとこで終わったのです。もうもうもう!すっごくいいとこだったのです!!めっちゃいいとこだったのです!!なのにです…。なのになのです…」


 天使がキッと、鋭い視線を向けてくる。

 

 「どうして…。どうしてなんです!!どうして、雪でなんかで滑って死ぬんです!!」

 「いや、それは滑ったからで…」

 「うぅ…。ダッさい…。ダッさ過ぎなのです…」


 なんで俺、こんな言われないといけないのだろうか…

 別に俺、好きでこけて、そして、好きで死んだわけでもないのに…

 

 「はあ~!!糖分ちゃん…。糖分ちゃんをもう一度見たいのです…」

 「糖分…。糖分ってあの、糖尿の邦の?」


 どこかで…というか、佐藤が今期で一番面白しろいとかって話してた気がした。

 バッと天使が振り向いてきて、大きな目で見てくる。


 「えっ?知ってるんですか?糖尿の邦、知ってるんですか?」

 「まぁ、知って…

 「わ~!!同士です!!同士なのです!!私、初めて同士にあったのです!!誰が…、あなたはどの子があなたは好きなのですか?糖分ちゃん?やっぱり糖分ちゃんですか??」


 天使は期待のこもった、キラキラと輝いた目で聞いてくる。

 ただ、申し訳ないことに…


 「いやそのな…、その作品…、俺、名前くらいしか知らないん…

 「名前しか…、はっ!?えっ?名前だけ?名前だけしか知らない…?バカなのです?あなた、バカなのです?あんな面白いのに…。あんなのに面白いのに、なのに見ていない…?バカなのです。あほなのです。使えないのです。」

 「はっ…!?えっ!?アニメ見てなかっただけでそんな言う?そんな言われる!?」

 「言うのです。当たり前なのです。あー、せっかく同士に会えたと期待したのに…。むぅ…、使えない…。ほんと、使えないのです!!」

 「いやいやいや、俺忙しいし…。それにあれ、放送時間夜じゃん。そんなの、普通の高校生はなかなか見れないって…」

 「夜…?だからなんなのです!そんなの関係ないのです!!これっぽちも、関係ないのです!!」

 「いや、あ…

 「糖尿の邦は!睡眠時間削ってもいいくらい面白いのです!!圧倒的なのです!!」

 「はー。」

 「圧倒的、なのです!!」

 「はー。」


 天使は鼻息荒かった。

 

 あれだよな。

 アニメとか…、推しに脳を破壊された奴らってマジでやばい奴が多いよな。

 俺…はそういうのないからあれだだったけど、でも身近にもそういう奴いたし…

 で、すごくうるさかった…、いや、やばかった記憶があるわ。

 まぁ、それだけ熱中できるものがあるってことで、良いことなのかもしれないけどね。


 「そういやさ…」

 「なんなのです…」

 「いや今更なんだけど、テレビ…、天界にもあるんだな。」

 「あー、作ったです。」

 「へー、作った…、作った!?」

 「そう、作ったのです!」


 天使は平然とそう言ってきていた。


 「買ったとか持ってきたとかでもなく作ったの!?テレビ、作ったのっ!?」

 「だからそう言ってるのです!!」

 「えっ、いや…。テレビって作れるの!?いや、作れるんだろうけど…。でも、作れるのっ!?」

 「もう、何かい同じことを言わせるのですか。作れる…、作れるのです。そして作ったのです!!」

 「はー、へー…」

 「何なのです。何が言いたいのです。」


 テレビを作ったという言葉に驚いて目の前の天使を眺めていると、その天使は不機嫌そうにそう言ってきた。


 「いやお前って、凄いのな…」

 「当然なのです!!なんたって私なのです!!プリチィでエレガント。そして、賢くもあるのです。」

 「…。はー。」


 自分でそれを言うのはどうかと思うけど…

 ちょっとむかつくけど…

 でもテレビを作った。

 それを聞くと、確かに賢くはある。

 いや、見た目も実際に可愛いけど…


 「でもなんで作ったの?神様とか天使なんだから、俺たちのところから持ってきたらいいじゃん。わざわざ作ったりしなくても良かったんじゃん。」

 「あー、それがですね。私がテレビを欲しいと思うよりも前にです。どこのどの天使かは知らないんですけど、地上のものを勝手に天界へ持ち込んで大問題になったのです。」

 「大問題…」

 「そうなのです!そうなんです!!はた迷惑なのです!!そのせいでなのです、私がテレビを持ってこようとした時、神様に怒られたのです。地上のものは勝手に持ってきてはダメと。でも私は諦めず、神様と交渉したのです。でもそれでも神様はダメとしか言わない…。ならです、ならなのです。じゃー、作ればいいじゃないか、私はそう思ったのです!そして、頑張って作ったのです!!」

 「な、なるほど…」


 作ったのか…


 「すごいな…」

 「えへへ、そうです!!私はすごいのです!!」


 天使は嬉しそうに胸を張った。

 無い胸をだけど…


 「へー。」

 「えへへへ。あっ…!!そ、そんなことは今はどうでもいいのです!!テレビ、アニメ!!私のアニメはどこなのです!!」

 

 天使は焦ったようにそう言い、また周囲を見渡し始めた。


 「いや、ないだろ…。少なくともここには…」

 「なんでなのです!!」

 「だって…。周囲に、草と木しかないし…」

 「うぅぅ…!!諦めません!!諦められないのです!!探せば…、その辺探せば…、きっとどこかにテレビが落ちているのです!!!」

 「いや、落ちてるわけ…

 「落ちてるのです!!!絶対に落ちているのです!!!私の、テレビ~~!!!!」


 天使は後方の森の方へと向かい、茂みの中を探し始めた。


 落ちてても、電気も電波もないけどね。

 ここには…

 

 

 ガサガサ…

 ガサガサ…


 「テレビ~。私のテレビはどこなのです~。」


 上半身を茂みの中へ突っ込み、天使が不細工な格好でテレビを探している。

 なんというか…

 なんて言えばいいのだろうか…

 簡単に言うと、残念なやつにしか見えない。

 今更か…


 「テレビ…、あったか…」


 聞くだけ聞いてみた。

 

 「ないのです!!テレビ、ないのです!!」

 「だろうな…。あったらびっくりだわ…」


 異世界にまで来てるのに…

 なのにもし茂みの中にテレビあったら、逆に俺、すごく悲しいわ。

 

 「でもあるのです!!きっとあるのです!!」

 「…。あればいいな…」

 「ある!絶対にあるのです!!」

 「…。」


 

 

 天使が茂みの中を探す時間が続く。

 

 暇…でテキトーに周囲を見てると、草原の奥の方に街のようなものが薄っすらとあるのが見えた。

 

 とりあえずは、俺たちの目的地はあそこだな。

 だから…、早く諦めてくれないかな…

 テレビ探すの…


 「なー。まだ探すの?」

 「まだ探すのです!!」

 「はー。」



 5分後…


 ガサガサ…


 「まだ探すの?」

 「まだです!!まだ探すのです!!」

 「はー…」


 

 10分後…


 ガサガサ…


 「まだ…

 「まだです!!まだ探すのです!!」

 「…。はい…」



 20分後…


 「…。」

 「ない…!!全然ないのです!!アニメ、どこにもないのです…!!!」

 「…。」


 ガサガサ…

 ガサガサ…


 

 30分後…


 ガサガサ…


 「テレビ~。私のテレビはどこなのです~?怖がらなくていいのです!だから…だから早く、早く出てきて欲しいのですー。」

 「…。」


 さっきから思ってた…

 思ってたんだけど…

 こいつ…

 置いていっていいかな?

 いいかな??

 

 長いし…

 長いし…

 長いし!!


 でもこいつ、一応は俺のガイドなんだよな…

 ガイドなんだよな…

 

 「はぁ…」


 俺の口からはもうため息しか出てこなかった。


 

 そしてそこからほんの少ししたとき、近くでガサガサと、茂みが動く音がした。


 「…!!テレビっ!私のテレビはそこなのですっ??」


 天使はすぐさま、音が聞こえてきた茂みの方へ向かって行く。

 

 いや、さすがにテレビはないだろうな…

 テレビ…、そもそも動かないし。

 だからまぁ、普通に動物とかだろうな。


 音がした茂みにへとたどり着いた天使は、手で茂みをかき分けていく。


 「テレビ~。私のテレビ~。」


 天使はノリノリの声を漏らす。

 まだ、テレビだと期待しているみたいだった。

 

 天使は茂みをかき分け、茂みの奥へと進んでいく。

 そして…


 「あぁ…。テレビ…。テレビじゃなかったのです…」

 

 茂みの奥から、天使のしょんぼりとした声が聞こえてきた。


 「そりゃーな…」

 「うぅ…。でも来てください!可愛い…。この子、すごく可愛いのです!!」

 「可愛い…?」


 俺も茂みの奥にへと入っていく。

 茂みをかき分け、かき分けた先に見えたのは、天使の背中と…一匹の子豚の顔だった。


 「お~、確かに可愛い…」

 「ですよね?この子、すごく可愛いらしいですよね!!」

 「だな…。でも…」


 確かに、子豚の顔は可愛い。

 アニメとかでたまに見る、デフォルメされたような可愛らしい子豚の顔…

 可愛いは可愛いんだ。

 でもなんというか…、首が異質だ。

 普通の首ではなく…、というか首とかそういうのではなく、まるで分厚い何かに顔が貼り付けられているかのような…

 そしてその分厚い何かが、大木のように太く、俺たちよりも高く続いているような…


 なんとなくだが、俺は、視線を上へと上げてみる。

 上げてみた結果…


 「わっ!!ちょ、ちょっ…!!」

 「むぅ…。なんです…。なんですか…。今この子を見てるのです。触ろうとしてるのです!!」

 「いや、上…!!、上っ!!」

 「むぅ…。上…がなんですか!!上が…うげっ!!」


 天使は渋々と上を見上げると、ぶっ細工な声をもらした。

 

 「な、なんですか!!なんなんですか、これ!!」

 「俺が知るか!!」

 「知ってろ、なのです!!」

 「いや、無理だろ!!」


 子豚の顔…が張り付けられてた場所は首だと思っていたけど…

 いや、実際には首なのかもしれないけど…

 とりあえず上を見上げていると、そこにはもう一つ、ブタの顔がった。

 おっかない顔のブタの顔があった。


 巨躯で二本足で立っているブタ…

 色はこげ茶色。

 背は2…、2.5メートルくらい。

 肩幅は、俺とか天使とかじゃ話にならないくらい太い。

 そしてそのお腹の辺りに、可愛らしい子豚の顔があった。


 ギロッと、ブタが俺たちを睨みつけてきた。


 「…ッ!!」

 「ひぃ!!やばいのです!!これ、絶対にやばいと思うのです!!」

 「知ってるわ!!早く…

 「そうです!!こういうときはなのです!!あれです!!あれなのです!!」

 「なんだ?なんかあるのか!!」

 「あれなのです!!」

 「早く…

 「異世界チートなのです!!」

 「異世界…」

 「そうです!!そうなのです!!こういう時、手を前にかざせば、きっとすごい魔法が飛び出るのです!!絶対に飛び出るのです!!」

 「…はっ、そうか!!」

 「そうなのです!!なので、やってみて欲しいのです!!」

 「分かった!!」


 俺は手を前に…、ブタの方に向ける。

 そしてたぶん、こういう時によくお決まりで出てくる言葉を…


 「ファイアボール!!」


 と、唱えてみた。

 唱えてみて、そして…

 手からプシュ~という音だけが漏れた。


 「…。」

 「…。だっさ…」

 「うっさいわ!!マジでうっさいわ!!」

 「いや、だってです…」


 「グワアアアアァァl!!!!」


 ブタが雄たけびを上げた。


 「あっ、やっばい…」


 俺は逃げ出す。


 「あっ!!まっ…。一人だけずるいのです!!待つのです!!ちょっと、待つのです!!」


 天使も逃げ出した。


 一緒になってブタから逃げる。

 後ろを振り向く余裕はない…

 だから、ただ前だけを向いて走る。

 走っていた。


 ここで少し補足を…


 俺は運動部…

 というか、そもそも部活には入っていない。

 だって帰宅部だから…

 だからかなり足が…、というか運動が苦手だ。

 だけどそんな俺よりも…、さっきまで横にいたはずの天使は足が遅かった。


 「まっ…。ちょっと待つのです!!待って欲しいのです!!」

 「無理無理無理!!だって逃げてる!!俺、今逃げてるから!!」

 「それは私も同じなのです!!だから待つのです!!」

 「嫌、だ!!」

 「なんで!!なんでです!!」

 「だって…」


 少し前から、俺は後ろをチラチラと見る。

 すると、俺よりも足の遅い天使と強面のブタの足の速さはだいたい同じくらいだった。


 ふむ…

 ふむ…

 なるほど。


 「じゃ、お先に…」


 俺はスピードを上げる。

 大して上がらないけど、スピードを上げる。

 

 「あ~~~っ!!待つのです!!ほんと、待って欲しいのです!!」

 「無理。頑張れ。」

 「あ~~~!!!!!」


 ということで俺は天使を置き去りにして、一人…、街の方へ先に走っていった。


 「嫌!!いや~~~~、なのです~~~~~!!!」



 

 こうして天使様は、ブタの餌に…


 「勝手に殺さないでほしいのです~~~!!!!」

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