俺と神様とそれともう一人
俺は目が覚めると、真っ白な空間にいた。
そして目の前には二人。
ご老人と、俺よりも少し幼そうな…中学生くらいだろうか?
それくらいの女の子が正座をして座っていた。
いや、正座は崩れていて、女の子座りだった。
どっちでもいいか。
とりあえず、俺の目の前には二人の人物がいた。
状況を飲め込めない俺に、老人の方が話しかけてくる。
「起きたみたいじゃの。」
「えっと…、はい…、…?ここは、どこですか…?というか、あなたた…
「まー待つのじゃ。一つずつ答えていくからの。」
「あっ、はい…」
「で、ここはどこかって質問じゃの。ここはの…」
「はい…」
「天界じゃ。」
「てんかい…」
”てんかい”と言われても、脳が意味を理解しなかった。
「てんかいって…」
「お主らのいうところでは、神やら天使、あとは仏がいると考えられておるところじゃの。」
「神や天使…、それに仏…。ってことは…!!」
「そうじゃ。その天界じゃ。でじゃ、儂はお主らがいうとこの神で、こやつは天使にあたるのじゃ。」
老人は自分のこと平然と神と名乗り、少女のことも同じで、やっぱり何でもないかのように天使と紹介してきた。
「神…に、天使…」
俺は呟きながら、二人を見る。
老人は白く長い髪で、どこか威厳があるように伝わってくる…気がする。
少女は薄い黄色い髪色で、さっきも思ったがやっぱり俺よりも幼く見える。
「そうじゃ。」
「はー…。いや、なんで!!なんで神とか天使が目の前いるの?ドッキリ?これ、ドッキリか!?」
俺は周囲を見回す。
見回して分かったのは、周囲がやっぱり白い空間で覆われているということだけ…
ドッキリにしては、イタズラの度が過ぎ過ぎている気がした。
隠れる場所もなければ、こんな場所を用意する手間すら…
いや、そもそも用意することすら難しい気がする。
俺は二人に視線を戻す…
「本当に…」
「そう、本当なのじゃ。」
ここは天界…で、白い空間。
そして目の前には、神と天使。
「ってことは、俺…」
「そう、お主は死んだのじゃ。」
「死ん…、はっ…?なんで?なんで俺死んでんの?へっ…?」
意味が分かんなかった…
「それがじゃの…」
自称神は困り顔となり、少し言いにくそうしながら…
「お主は…、雪に滑って、打ち所が悪くて死んでしまったのじゃ…」
「雪に…、へっ…?俺、雪「ダサっ…いのです…」で滑って死ん…、死ん…」
神様の言葉に驚く。
でも確かに、雪でこけた後の記憶がなかった。
だから事実な気がした。
気がしたのだけれども、ただそれより…、それよりも、今なんか、ぼそっと失礼なことを言われなかったか…?
言った人…、俺はその言葉が聞こえてきた、女の子へ視線を向ける。
向けると女の子と目があって、そして…
「雪で滑るとか、クソダサいのです…。ダサすぎなのです。」
「…ッ!!はっ、う、うっせーわ!ダ、ダサくなんかねぇしゅっ…」
あっ…
「…。ダサいのです…」
「うっせーわ!!マジでうっせーわ!!」
「…。あなたこそうっさいのです。」
「はぁ!?」
「…」
天使と紹介された女の子は、俺にめんどくさそうな目線を送ってきた後、俺から神様へと視線を変えた。
なんだろう、こいつ…
むかつんくだけど…!!
会ってまだ数分なのに、すごいむかつかつくんだけど…!!
「神様。私を…そろそろ帰してもらっていいですか?このあと私、見たいのがあるのです!!」
「いやお主…。そもそもお主がの…」
「そんなの知らないのです!私、関係ないのです!!それより、続き…!!先週の続きが、もう少ししたら始まるのです!早く、早く帰して欲しいのです!!」
さっきまでの少し気だるげな口調はどこへやら、今は神様を可愛く睨みつけながら、本人としては鋭いと思っているだろう声を神様へと向け始めた。
「ダメじゃ!!まずお主が、あんなことをしなければこんなことにはならなかったんじゃ!だから、最後まで責任もってこの場におるのじゃ!!」
「嫌…。そんなの嫌なのです!!アニメ…!!もう少ししたらア見たかったニメが始めまるのです!!見逃しちゃうのです!!もし見れなかったら、神様、責任取れるのですか!!」
「そんなの知らん!!ただ儂だって、この後、見たいものが…
「そんなの、どうせいつもの覗きなのです!!しょうもない覗きなのです!!」
「しょうもなくなんかないんじゃ!!」
「しょうもないのです!!」
「何をー!!」
「何なのです!!」
二人は言い争い、睨み合う。
でも、アニメ…?覗き…?
聞こえてくる単語が、クッソくだらないんだけど…
「あのー…」
「とにかくじゃ、儂だって我慢しておるんじゃ!!だからお主も、我慢するんじゃ!!」
「いーや!!嫌なのです!!早く帰して欲しいのです!!」
「ダメじゃ!!最後までここでおるのじゃ!!」
「嫌なの…
「あのー…」
「なんじゃ!!」
「何なのです!!」
二人して、怒ったように言葉を向けてきた。
「いや…俺の話…、早く終わったりしたら、見たいもの見れたりするんじゃないですかね…」
知らんけど…
その前に、そんなくだらない言い争いで待たせないで欲しい。
聞いてて困る、から…
「そうじゃ!!その通りじゃ!!」
「そうなのです!!」
お、おう…
「でじゃ、どこまで話したかのー。」
「えっと、俺が雪…。俺が死んでしまった理由についてまでですかね…」
「そうじゃの!お主が雪で滑って死んでしまったとこまでじゃったの!」
「…はい…」
言いたくなくて…
認めたくなくて言い直したのに…
なのに言ってくるのか…
「やっぱりダサいのです…」
そしてやっぱりと、この天使は失礼だった。
「まぁまぁ、そう言ってやんなのぉ。こけて死ぬというのは存外多いんじゃ。だから、そこまでダサいという話でもないんじゃ…。雪でこけては、かなり珍しいがのぉ…」
「フォローになってねぇし…」
「わっはっは。でじゃ、じゃーなんでお主がここにおるのかを話していくとするかのぉ。」
「なんで…。えっ…、死んだからじゃ…」
「いやいや、死んだものが全員、この場所に…。というかじゃ、そもそも儂が対応すること自体ないんじゃ。」
「じゃー、なんで…」
「それはのぉ…」
神様は、天使へと視線を向けた。
俺もつられて向ける。
その天使は、すぐさま気まずそうに…
いや、めんどくさそうな顔になった。
「こやつが、やらかしてしまったからなんじゃ。」
「やらかして…」
天使は顔をしかめ、不貞腐れたような顔になった。
「そうじゃ。こやつがアニメに夢中で、天候リモコンと映像リモコンを間違って操作してのぉ。それで雪がふってしまったのじゃ。」
「雪が…」
「おかしかったじゃろ?雪が降る季節でもないのに雪が降って…」
「そう言えば、確かに…」
夏なのに雪…
「じゃろ?でじゃ、こやつのミスで死んでしまったお主をさすがに可哀相だと思ってのぉ。だからここへ呼んだのじゃ。」
「な、なるほど…。そういう…。じゃーこの後も、俺以外にも雪で死んでしまった人たちの対応を…
「いや、死んでしまったのはお主だけじゃ。」
「えっ…?」
…ん?
「お主だけなのじゃ。それが原因で死んでしまったのは…」
「俺だけ…。はっ…!?」
「そうなんじゃ…」
目の前にいる神様は、苦笑いをしていた。
「…。」
「滑ったりしてこけたものはたくさんおったのじゃ。そういう者たちにはの、お主がここへ来る間にその分の運を上げたりして、帳尻を合わせたのじゃ。でもじゃ、すでに死んでおったお主にはそういうわけにもいかん。だからここへ呼んで、儂自ら対応しようと思ったのじゃ…」
「…。あ、ありがとうございます…」
なんか恥ずかしいんだが…
いや、普通に恥ずかしいんだが…
申し訳ないんだが!!
「はぁ…。だから、あれだけ気をつけろと言っておいたのにじゃ…」
「うっさいのです!!」
呆れたように言う神様の言葉に、女の子はまるで反抗期かのように怒鳴り返した。
「はぁ…。でじゃ、どうする?」
「どうする…?」
「そうじゃ。このまま次の人生へのサイクルへ向かうか、それとも…」
次の人生へとサイクル…
「えっと、その…」
「なんじゃ?どうかしたのかのぉ?」
「えっと、次の人生っていうのは…」
「お前さんらのところでは輪廻転生とか言った方が分かりやすいのかのぉ。新しい命として、また生まれ変わることじゃ。」
やっぱり…そう、だよな…
「時間を巻き戻したりして、死ぬ前に戻してもらったりなんかは…」
「それは無理なんじゃ…」
無理…
「お前さんが死んでから、地上では一週間ほどの時間が過ぎてしまっておるのじゃ…」
「一週間も…。」
「そうじゃ。でじゃ、その間にも地上では時間が過ぎてのぉ。その時間を巻き戻すのは、儂の力を持ってしても難しんじゃ。」
「…。」
「だから、新しく生まれ変わるのが一番…
神様が何やら言っている。
でもショックで、いやここにきてようやく、自分が死んだとちゃんと認識し始めただけなのかもしれない。
だから、神様の言葉は耳に入って来なかった。
死んだのか…
俺、死んだのか…
はぁ、みんな…
みんな…
「あの~。」
「どうかしたかのぉ。」
「えっと、母さんと、あと父さん…。俺が死んで、悲しんだりしてました…?」
「してたのぉ…」
神様は言いにくそうにだったが、ちゃんと言葉にしてくれた。
「そっか…」
「そうじゃ。お主が死んだと聞かされたときもそうじゃが、葬式の時も、母親の方はすごく泣いておった。」
「そう、ですか…」
「そうじゃ。それで、父親の方も励まさないといけないと思ったのじゃろ。その日からは、分けてた寝室をまた一緒にへと戻したの。」
「そう、…ん?」
いや、確かに分けてた。
父さんと母さん、確かに寝室分けてたけども!
でも、なんでここでその情報を出してきたっ!?
俺はすぐさま神様を見る。
そしてその神様はというと、何かを思い出しながらといった感じで続きを話してくる。
「いや、すごかった。ほんとに凄まじかったんじゃ。お主の両親は…。土曜と…、それと日曜じゃの。お主の両親は、死んだお主の分まで、前を向いて生きようと励まし合って、そこからは一晩中…。いや、二晩…」
「一晩、中…」
その後にくる言葉って、おそらくは…
「セッ…
「あ~~~!!!!言わないで!!マジで言わないで!!親のそういうの、聞きたくないって!!」
「なんでじゃ?なんでそう恥ずかしがるんじゃ?人間が繫殖するために、大事なことでは…
「いや、きつい…。親のそういうの、マジできついんだって…!!知りたくない、聞きたくない、想像したくないんだって…!!」
「そう、なのかのぉ…」
神様は残念そうにしてきた。
でもさらに言葉を続けてくる。
「でもせっかくすごかったのにじゃ…。一日合計…、二十…」
「わ~~~~~!!!わ~~~~~~!!!!」
俺は耳を塞いで、大声をあげた。
上げないといけなかった。
【第三者目線】
大声を上げる、死んでしまった男の子。
そんな男の子を、神は困惑した様子で見て…
「こやつ…。少し変わっておるのぉ。そんな恥ずかしがることでもないと思うんじゃが…」
「いや、神様がおかしいのです。というかきもいのです。人間のそういうのを、のぞき見ばっかするの…」
「いやいや、何がおかしいと言うんじゃ!儂はただ、可愛い我が子たちの繁殖を見守っておるだけじゃ。それだけなのじゃ!!」
「…。」
自信満々にそう発言する神を、天使の女の子は何も言わず、ただまるで汚物でも見るかのような視線を送るだけだった。
【主人公】
声を出すのを止め目を開く。
すると何故か天使の女の子は神様へと、神様へ向けるべきではない目線のようなものを向けていた。
何があったのだろう…
「えっと…」
神様と天使がこっちへ向いてくる。
「あぁ…。まぁとにかくじゃ、お主の両親は愛し合いそして、新しい命を授かることになったのじゃ!!」
新しい命…
「えっ…?兄弟?俺に兄弟ができるの?」
「そうじゃ!」
「そっか~。って俺、死んでるんだけど!!死んだ後なんだけど…!!なんかもう、えっ!?」
「まぁ、できるのじゃ。」
「…。」
兄弟は欲しかった、のか?
分かんない。
けど死んだ後に兄弟ができるって、なんか損した気しかしない…
「ついでにじゃが、二年後にはもう一人生まれることになっておるのぉ。」
「…。」
「あとじゃが…」
「まだあるのっ!?」
「まだある…というかじゃ、次のは補填じゃの。」
「補填…」
「お主の両親は、いつも年末に宝くじを買っておるよのぉ。」
「は、はい…」
「それがの、今年当たることにしたのじゃ。」
「はっ…!?はーーっ!?宝くじが当たる…?当たるの?いつも外れて母さんが文句言ってたあれが、今年は当たるのっ!?」
「そうじゃ。」
「…、えぇ…」
「お主が死んだことでのぉ、お主やお主の両親たちはそう思ってはいないだろうが、お主にかけてきたお金をドブ…、地獄に捨てたのと同じようなものになってしまっておるのじゃ…。さすがにそれはと思ってのぉ、だから、年末宝くじが当たることにしたのじゃ。」
「…。ちなみに、いくら…」
「いくらだったかのぉ。儂はそういうのには疎いからのぉ。とりあえず、一等のものにあたることにしたの。」
「はっ…?はっ!?一等…、一等が当たるの!?羨ましくない?なんか羨ましくない?俺が死んだ後の方が、みんな、すごく楽しそうな生活しない?」
「いや、そんなことは、ないかのぉ…」
神様は、目を逸らしていた。
「あるじゃん!!絶対あるじゃん!!絶対そうじゃん!!」
「…。」
「なんか言えや!!」
神様に不遜?
知るか!!
「あー、もういいよ…。俺も、次の人生では絶対に楽しく生きてやるよ!!」
「そうじゃの。その方がいいじゃの。それでじゃ…」
「まだ何かあるのっ!?」
「いや、ここからはお主の話じゃ。」
「俺の…」
「そうじゃ。そして儂がお主に提示できる選択肢は、さっきも言ったのじゃが、この世界で新しい命として生まれ変わること。」
「それって、記憶とかは…」
「ないのぉ。」
「ないんですか…」
「そうじゃ。儂としては残してやりたい気持ちもあるんじゃが、赤子の脳のような、まだ未発達の脳に、お主が今まで積み重ねてきた経験や記憶を受け継がせるのは難しいんじゃ。」
「な、なるほど…。でもそうなると…」
それって、俺と言えるのか…?
いや…
「そこでもう一つの案なんじゃが…」
「…。」
「地球…とは違う、また新しい世界に行ってみる気はないかのぉ?」
「新しい世界…。最近漫画とかでよく出てくる…、異世界、とかいうやつですか?」
「うぬ、そんな感じのやつじゃ。」
「はー。ちなみにそれって、記憶は…」
「もちろんある。死ぬ、ほんの少し前のお主の状態で、行ってもらおうと思っておる。」
「死ぬ少し前…。こけた後…、とかではないですよね?」
「わっはっは。大丈夫じゃ。そんなことはないからのぉ。あっ、もしお主がそうして欲しいと…
「あっ、結構です。」
「は、早いのぉ。儂、まだ最後まで行ってなかったのに…」
神様が何やら言っている…が、俺が今考えるべきことは…
異世界、か…
今の記憶が消えて生まれ変わるよりはマシ、なのかな?
どうなんだろ…
「最近のぉ。向こうの世界の神からお願いされたんじゃ。」
「お願い…?」
「そうじゃ。何やらのぉ、向こうの世界にいる魔王とかいう奴が、最近代替わりしたらしいんじゃが…」
話の流れ的に、その代替わりしたたやつがヤバいとかだろうか…
「そやつが、すぐにクーデターを起こされてしまって、そして…魔王城から追い出されてしまったらしんじゃ。」
「おっふ…」
「で、新しく魔王になたやつが中々に血気盛んなやつらしくてのぉ。向こうの神から、良い魂があったらよこして欲しいと言われておったんじゃ。」
「な、なるほど…。でもそれって、つまりは俺が良いたま…
「で、ちょうどいいところにお主が死んだ。だからじゃ、お主に向こうへ行ってもらおうと思ったのじゃ。」
「…。いやそれ!俺にも、それに向こうの神様にも失礼過ぎね?というか失礼すぎるよな!?」
「いやいや、儂が造った魂たちじゃ。皆、良い魂なのじゃ。そうに決まっておる…
「つまりはテキトーじゃねぇか!!テキトーに、ちょうどよく死んだから、あっこいつでいいか、じゃねぇか!!ふざけんな!!もう少しまじめに考えてやれよ!!向こうの神様の話も!!それに、俺の話も!!」
「…、いやいや、ちゃ、ちゃんと考えたのじゃ。考えた結果なのじゃ!!」
「嘘つけ!最初の間!!最初、変な間あったぞ!!嘘だろ!!絶対に嘘だろ!!!」
「…。」
「しゃべれやーー!!!そこはしゃべれやーー!!なんか言えよ!何か言わなかったらそれ、認めたことになるだろ!!」
「そうじゃ。」
「そうじゃじゃ…
「あの~、少しいいのです?」
女の子が話しかけてきた。
俺と神は、女の子の方へ顔を向ける。
「もう少ししたら始まっちゃうのです!!アニメ、始まっちゃうのです!!だから、早くしてほしいのです!!」
こいつは…、ほんと自分のことばっかだな…
自分勝手だわ。
「いやいや、そもそもじゃが、お主が…
「あっ、もうそういうのはいいです。聞き飽きたのです。それよりもこの無駄な話を、早く終わらせてほしいのです。」
「「…。」」
訂正。
自分勝手じゃなくて、自分勝手過ぎる、だわ。
「そう、じゃな…」
天使の言葉のあと、神様は悲しそうな顔でこっちへ向き直ってきた。
「じゃーお主を、向こうの世界へ…
「ちょっ…!ちょっと待ってください!!俺、まだ行くとはいってないんですけど…」
「そうじゃったな。でも、行くじゃろ?」
神様は当たり前のようにそう言ってきた。
「まぁ、行きます、けど…」
記憶なしで生まれ変わるくらいなら、俺は向こうの世界に行こうと思っていた。
「いやでもっ…」
「なんじゃ?」
「あのー、チートスキル的なのはもらえないんですか?」
「ちーと、すきる…?」
「俺だけ…。皆…。母さんたちはこれから幸せそうに生きるのに、俺だけ…、補填、とかないじゃないですか?俺、死んだのに…。死んだのに…」
「あー、そうじゃな。そうだったの。お主にもいるよのぉ。」
「…。」
この言い方…
忘れてた…というよりかは、考えてもなかったように聞こえるのは俺だけか?
いや、俺だけじゃ…
「そうじゃのぉ。何が良いかのぉ。」
でもまぁ、考えてくれてるし、結界オーライだな、うん。
で、いったいどんな能力をくれるんだろう。
分かりやすくは、全属性魔法適正とかだよなぁ。
あとは、魔力無限とか…
他にも、七つの大罪をモチーフにした能力とか…
ん-、良い!
すごく良い!!
夢が多い!!!
「まずは、これはいるよぉ。」
ゴクッ…
な、なんだ?
一体何なんだ?
神様から出てきたのは…
「雪でこけない、滑らないスキルじゃよな。」
「雪で…。はっ…?はっ!?雪でこけない…。はっ?えっ!?嫌味?嫌味なのっ!?お前、雪でこけて死ぬんじゃねぇよっていう嫌味なの!?」
「そ、そんなことはないんじゃが…」
「違うなら動揺しないで!!お願いだから!!」
「…。」
「黙んなや!!」
「よし、じゃー、これで決まりじゃの。じゃー、向こうの世界に…
「待って。マジで待って!!弱い!!マジで弱いって!!何?雪でこけないスキルって…!!死んでもらえるのが雪でこけないスキルって…!!弱い…。弱すぎるって…!!」
「そうかのぉ。結構便利だと思うんじゃが…」
「便利だけど…。便利だけども。でも使える状況が…、っていうか、雪が降ってないとこでは使えない、死にスキルじゃん!!さすがに…、さすがにもう少し…、というか他のスキルに…
「他のスキルのぉ。そうじゃ!!こういうのはどうじゃ?」
なんでだろう。
全く期待できない俺がいる。
「どんなの…、ですか…?」
「それはのぉ、月一で探し物が見つかるスキルじゃ。どうじゃ?これじゃったら…
「あー、便利…、じゃねぇよ!!違うだろ!!絶対に違うだろ!!」
「なんでじゃ?すごく便利なスキルだと思うのじゃが…」
「便利だよ?確かに便利だよ?でも、違うって…!!スキルのベクトルがなんか違うんだって!!俺が求めてるスキルとは、なんか違うんだって!!」
「じゃー、お主が欲しいスキルとは、一体何な…
「あの~。まじでいいです?」
また天使の女の子が会話に入ってきた。
声がすごく刺々しい。
俺と神様は話を止め、女の子の方へ向く。
「アニメまで、あと5分しかないのです。早くしてほしいのです!!」
「アンタもぶれないなぁ。」
「アンタ…。いや、今はそんなのどうでもいいのです!アニメ、アニメが始めるのです!!もう始まるのです!!もう画面の前でスタンバっていたいのです!!だから早く、早くこのしょうもない話を終わらせてほしいのです!!!」
「いや、もとはと言えばじゃ、お主が…
「分かった。それはもう分かったなのです!!もう、私が悪かったのです!!だから早く終わらせて欲しいのです!!今すぐ、終わらせて欲しいのです!!」
天使の態度は…、謝ったやつの態度でも…、反省したやつの態度でもなかった。
「はぁ~。」
神様が深々とため息を吐き出す。
なんというか、神様が可哀相に思えた。
天使のミスで仕事が増え、俺への対応にも俺と天使から苦情が入る。
うんでも、俺の方も死活問題だから…
だから…、恨むなら天使の方でお願いします。
「よしじゃのぉ、こうしよう。」
「ん?」
「お主に…、何というのかぉ、ガイド!そうガイドをつけてやるのじゃ!!」
「ガイド…ですか…」
「そうじゃ。」
ガイド…って言葉からすると、向こうの知識にも詳しく、俺にアドバイスをくれる人ってことだよな。
それって…、変なスキルをもらうより、結構良いのでは?
というか、今まで出てきたものの中で一番マシなのでは?
「アリ…で。」
「そう…か。それは良かったのぉ。じゃー、もう向こうへ送るからのぉ。」
「あっ、はい。あの~、色々とありがとうございました。あと、生意気言ってすみませんでした。」
「いやまぁ、我が子同然の子じゃ。そう思えば、可愛いもん…
「決まったなら、早くしてもらっていいです?あと3分…、3分しかないのです!!ヤバい…!マジでやばいのです!!」
「…。」
「行くぞよ…」
神様が不憫だった。
そして神様がそう言った瞬間、足元に黄色く光る丸い紋様…、よくアニメとかで見る、魔法陣のようなものが現れた。
俺…、それと…
「えっ…?なんでです?なんで私のとこにも…」
天使の女の子の足元にも…
つまりは、俺のガイドというのはあの女の子だったのだろう。
「えっ…??」
「待って欲しいのです!!なんで、なんで私のとこにもなんです!!分かんないです!!意味分かんないです!!」
「…。お主は少し、外の世界でも見てくるんじゃ。」
「外…。嫌。嫌なのです!!私、外の世界…。向こうの世界のことなんて知らないのです!!」
「えっ…??」
今なんて…?
ガイド…、なのに知らない?
それって…
「えっ…??ちょっ…!!」
「それにアニメ!!アニメはどうするのですか!!今から始まるアニメはどう…
「はい、転移じゃ。」
「ちょっ…!!」
「まっ…!!」
こうして俺と天使は、異世界へ飛ばされたとさ。
「ふざけんな~~~~!!!!」
「私の、アニメ~~~!!!!!」