無明
目が覚めると暗い部屋にいた。
少しの思案の後、そこが自分の部屋であると気付く。
普段深夜に目が覚めることなどないため困惑した。
喉が渇いた。
今朝買った飲みかけの水を飲む。
冷えてなんかいない温い水が喉を通る。
夜というのは不思議だ。
日常では考えもしないことを考えてしまう。
自分の過去、現在、そして未来。
思えば、上手くいったことなんて数える程しかない、そんな人生だった。
好きな子に好きと言えず、志望校には受からず、就職先も待遇がいいなんて冗談でも言えない。
僕の人生は今飲んだ水と同じだ。
自然と温くはなれど、冷えていくことはない。
上手くいかない人生は、自然と上手くいくようになることはない。
そんなことを考えながら体を横にする。
そんなことを考えているからか、瞼は言うことを聞かない。
外に出よう。
寝られないのならいっそ、そう思った。
季節の変り目の空気が肌を刺す。
それが少し心地よかった。
今まで聞こえなかった音がする。
蟲やカエルの鳴き声、風の音、街の喧騒。
今まで見ていなかったものが目に入る。
月の輝き、空に浮かぶ星、遠くにあるコンビニ。
風に体を撫でられ、胃が震える。
部屋に戻ろう。
今なら寝られる気がする。