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死なないための作戦会議

 どうやら私は八歳で自国の王太子、サシュティス・ゴロッシュに見初められて婚約者になるようなのですが……。

 嫌ですわったら、嫌ですわ!

 何が悲しくって、自分を殺す相手と婚約など結ばなくてはいけないのですの?


「このまま、エグタリット国のサクス公爵家に居候しようかしら⁉」

 ハア~っと溜息と共に呟くと、カルセに「うちの両親は喜ぶけれど、フレーシアの家族は猛反対するだろう? まだ何も起きてないこの状況では。それにウォルトと兄妹になるけど、それはいいのか?」と冷静に諭してきましたわ。

 推しと兄妹なんて……そんなの、そんなのキュン死にしてしまいますわ~。

 それはそれで命が幾つあっても持ちそうにないので、涙を呑んで諦めましたの。


 私が不貞腐れていると「だったら兄妹ではなく、ウォルトの婚約者になれば?」と言われましたわ。

 な、なんてことを言うのかしら、この子は⁉

 兄妹でも無理なのに婚約者なんて……推しの婚約者……ひいいぃぃ~。

 いくら前世は二十歳の青年だったからといって、おませが過ぎるのではないかしら。

 因みに私はアラサーでしたが、それが何か?


 そもそもが転生を利用して推しの婚約者になろうなど、おこがましいのですわ。

 そんなこと、できるはずがないではないですか。

 ウォルトが自ら望んでくれるのならまだしも、私からお願いするのはファンにあるまじき行いですの。

 推しは遠くから、推しの幸せだけを願って愛でるものですのよ。

 決して無理矢理当事者になど、なってはいけませんわ。

 そう力説しますと「その心理はちょっとわからない」と言われてしまいましたわ。

 共感していただけなくて残念です。



 それからカルセとは手紙で、死亡フラグを回避のための策を色々と練りましたわ。

 まずはとにかく、王太子とは会わないように城に行くこと自体を避けたのですが、お父様とお出かけの際にどうしても城に書類を取りに行かなければならない事態になり、お父様の陰に隠れて辺りに用心しながら向かったのですが、どこでどう見つかったのかその一回で王太子にロックオンされましたわ。

 そして婚約の打診がきたのですが、お父様が首を横に振っているのをいいことに素知らぬ顔をしていましたの。

 ですが国王陛下が屋敷にまで来て、お父様に土下座でもする勢いで頭を何度も下げている姿を目の当たりにして、私自身が思わず了承してしまいましたわ。

 ううう~、おじさんの背中の哀愁に負けました。

 それに、あのままではいずれ王命にでもされそうな勢いでしたもの。


 カルセに報告するたびに「馬鹿なの? ねえ、馬鹿なの?」と言われましたわ。

 あんまりですわ~、ひどすぎますわ~。

 落ち込む私にカルセは「これが強制力というものなのかな?」と言いましたの。

 カルセの説明では、小説のこの世界ではたとえ違う行いをしていても、話を元に戻そうと説明のつかない力で強制的に、小説通りの話に戻される可能性があるということでしたわ。

 そしてカルセはストーリーから逃れられないのならばと、その先を考え始めました。


「要するに、悪役令嬢にならなければいいんだよね」

「それは大丈夫ですわ。わたくし王太子など好きにはなりませんから、いじめなんてしませんわ」

「でも、仮に君がいじめなくても冤罪を掛けられる危険性だってあるよね?」

「そんなこと言われても、困りますわ。冤罪など、かわしようがありませんの」

「……いっそのこと、聖女にでもなる?」

「どういうことですの?」


 つまり悪役令嬢である私は、ヒロインをいじめなくてもいじめたとされて排除されるらしいのです。

 ですからそれを回避するために、ヒーローやヒロインがなんと言おうと誰も認めないという状況を作ろうということですわ。

 それが聖女という言葉ですの。

 悪役令嬢と正反対の聖女のような立場になれば、冤罪を掛けられても逃げられる。

 まあ、この世界には魔法や魔物などはいませんし宗教も割と自由なので、聖女という存在はないのですが、本物の聖女になる必要などどこにもありませんの。

 聖女のような清らかさで、人々の心を掌握しろということですわ。



 そこで二人同時に気が付いたのは、私が十一の年の頃に謎の病がゴロッシュ国で蔓延したエピソードでしたわ。

 その病で今いる優秀な方々が、かなりの人数亡くなるのですわ。

 例えば王妃様や宰相、そして第一騎士団のカイサック団長や息子のデルクト様などがお亡くなりになりますの。

 この方たちが亡くなることで国は野心家で溢れ、王太子はいいように傀儡にされ、ヒロインを愛する気持ちを利用されて、口煩い悪役令嬢や実権を持つ令嬢の実家、タリト侯爵が煩わしくなり、彼らを冤罪にと持ち込み処刑してしまうのですわ。

 騙されている王太子はそれに気づかずに、ひとえにヒロインを愛するあまり、などと小説には書かれていましたが、違いますからね。

 愛を建前に傀儡にされたヒーローの狂気、異常性を表に出しただけですわよね。

 そんな彼らに、私たちは殺されてたまるものですか。


 私とカルセはそれを阻止するためにも、その病の特効薬を作ることに決めましたわ。

 小説の内容を思い出し、後に最も病が広がった村の薬剤師様が見付けた薬草を探しましたの。

 手柄を取るようで大変恐縮なのですが、私たちが動くことで一人でも多くの命が(私の命も含めて)救えるのですから、彼もきっと許してくださいますわよね。

 そうして、まずは亡くなるはずの優秀な方たちを、生かしてご覧にいれますわ。

 私とカルセの、国を超えての長い戦いが始まりましたの。



 私はとにかく完璧な淑女を演じましたわ。

 ハッキリ言って猛特訓ですわよ。

 さすがに悪役令嬢の体は優秀で、頑張れば結果はちゃんとついてきましたわ。

 周囲からもそれなりの評価を得られ始めましたの。



 そして小説通りに、謎の病はゴロッシュ国で蔓延しましたわ。

 その頃には完璧に出来上がった特効薬をカルセに送ってもらい、私は偶然見つけた体を装いましたの。

 私はそれで聖女の異名を付けられ、計画は成功しましたわ。

 ですがその頃から、王太子の様子が変わっていきました。

 不承不承ながらも努力していた王太子の責務を怠るようになり、ネチネチと嫌味を言い始め、ストーカーのように物陰から私を盗み見るようになりましたの。

 ハッキリ言って、気持ちが悪いですわ~!

 会うと言葉がきつくなっていくのと同時に、物陰から盗み見るのも増えて行きましたの。

 本当に歪んだ性癖の持ち主ですのね。

 私は鳥肌をたてながらも一切その行為には気付かないフリをしながら、どんなにひどい言葉を投げつけられても笑顔を絶やさないように努めましたわ。

 我慢できない時は心の中で推し(ウォルト)の笑顔を思い出し、どうにか冷静さを保ちましたの。

 その甲斐あって、その姿は周囲の者からの好感度に加え、同情と共に王太子に対する憤りも与えていったのですわ。

 元から王太子は我儘で公の場では隠してはいましたが、城に勤めている者は彼の癇癪を何度も見ておりましたから、当然の成り行きですわよね。


 正直、幼い頃の王太子は我儘ではありましたが、まだ子供らしい可愛いところもありましたのよ。

 あのまま成長すれば、王太子として民からの信頼を得ることもありましたでしょう。

 それでは、私たちは断罪されてしまいますわ。

 どうしたらいいのかと悩んだ日々もありましたが、どうやらとんだ杞憂に終わりましたわね。

 王太子は小説の通り、歪んだ人間へと成長されましたわ。



 そうしてあちらこちらで味方を増やしながら、私はカルセにヒロインの性格を変えることはできないかと相談しましたの。

 ミモザ・スワーキ男爵令嬢を、ヒロインの素朴で可愛らしい性格ではなく、周囲から距離を取られるような性格にはできませんかと。

 だって、彼女が周囲に好かれるほど愛らしい少女だから、私が何もしなくても悪役令嬢として嫌われてしまうのでしょう?

 それでしたら彼女の性格も変わってしまえば、一方的にあちらの意見が尊重されることはなくなるのではないかしらと考えましたのよ。

 するとカルセは「だったら元の性格である男好きを隠すことなく、表に出すように仕向けたらいいんじゃない」と言いましたの。

 え、男好き?


 カルセ曰く、あの小説のヒロインは元から男好きだったそうですの。

「そうでないと、婚約者のいる王太子を自分のものにするとかできないよね。それに小説の中でちらほら、他の男性の影が見え隠れしているでしょう。彼女の味方はほぼ男子生徒だった訳だし。それに小説の性格と全く違ってしまっては、強制力が働いてしまう可能性もあるので、元の性格を強調するぐらいの方がちょうどいい」

 さすがカルセ、そんなことまでしっかり把握してましたのね。

 ではミモザ様には男好きを隠さず、素直に歩んで行ってもらいましょう。


 ……で、どうするかというと、そこはカルセに一任するということになりましたわ。

 え、いいんですの?

 大丈夫ですの?

 カルセはとても嫌な笑みになり「ヒロインの初めてをもらうのもいいよね」と呟きましたの。

 なんだかよからぬことを考えているのは明白でしたが、死にたくないのでそこは全力でスルーいたしましたわ。

 だって私、聖人君子ではありませんもの。

 所詮、悪役令嬢。

 自分や大切な人を守るためには、平気で悪いことも致しますわよ。


 そうして暫くの間、カルセは姿を眩ませましたわ。

 ウォルトによれば、自分を見つめなおす旅に出ると言っていたとのこと。

 それを一切疑いもせず、頑張れと見送ったサクス公爵家の皆様が大好きですわ~。

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