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護衛のその後と婚約解消

 フレーシアとデルクトが階段から落ちた後、学園から城に連絡がいったのだろう。

 私とミモザは城から来た近衛騎士により、そのまま城へと連行された。

 私は自室へと閉じ込められ、喚き散らしていたミモザはどうなったのか、わからない。

 騎士も侍女も何も言わないし、私もわざわざ聞く気にもなれなかった。


 正直、ミモザなどどうでもいい。

 それよりもフレーシアとデルクトだ。

 二人は無事だったのだろうか?

 階段から落ちてきた姿は、デルクトがフレーシアの頭を抱え込んでいた。

 それでも大量の血が、二人の上半身から流れていたのはわかった。

 デルクトは私の護衛を任せられるほど、屈強な体つきをしている。

 奴なら、たぶん大丈夫だろう。

 だが、フレーシアはただのか弱い女性だ。

 どんなに王太子妃教育が完璧でも、体を鍛えることなどしていない。

 動かしていたとしても、せいぜいダンスレッスンぐらいだろう。


 そこまで考えて、フレーシアのすました顔を思い浮かべる。

 だが、出会った時はどうだっただろうか?

 大人びた少女ではあったが、時折見せる屈託のない笑顔に私は見惚れていたはずだ。

 少々、鼻につく態度をとられても、屈服させればそれで良かった話なんだ。


 ……ああ、自分の愚かさが身に染みる。

 自分の罪を彼女に擦り付けた結果が、このような問題を起こすことになるなんて。

 フレーシアが軽傷だったら、私は責任をとってすぐに結婚することにしよう。

 そして、もしも王太子妃として損傷のある体になったとしたら、側妃にでもして一生面倒をみてやろう。

 そうすればフレーシアも私に感謝して、笑顔を見せることだろう。

 ふと、笑顔とは反対に彼女が王太子妃になれぬ体になったことを涙ながらに謝罪する姿を思い浮かべて、私はゾクゾクと身を震わせた。

 どちらに転んでも、今までとは違う彼女の表情が見られるかもしれないということに、私は自室に軟禁されている状態にもかかわらず、笑いが込み上げてくるのだった。



 数日後、私は父である国王陛下に玉座の間へと呼び出された。

 国王陛下が座る横には、我が国の外務大臣を務めるフレーシアの父、タリト侯爵が控えていた。

 他にも国の重鎮である高位貴族がずらりと並んでいる。

 皆、感情の読めない表情で私を見つめていた。


「――デルクト・カイサックが亡くなった」

「!」

 国王陛下の前まで歩みを進め、跪いた瞬間、陛下から信じられない言葉が発せられた。

 思わずデルクトの父である、第一騎士団のカイサック団長を見る。

 目が合ったはずなのに、彼は何も言わずに、ただ私を見つめていた。

 本当か嘘かもわからない。

 だが、ここで取り乱しては将来国王となる私の評価が下がってしまう。

 国王は常に冷静であれと教えられてきた身としては、追悼の言葉を口にするしかない。


「……そうですか。残念です。彼は立派に護衛の役目を果たしてくれました。学生の身とは思いますが、騎士の称号を彼に。将来の王妃を命懸けで守った栄誉を称えて」


 何も間違ったことなど言っていないはずなのに、張り詰めていたその場の空気が、一瞬にして胡散した。

 さすが王太子殿下だと称賛するのならば良いのだが、この雰囲気はどう考えても悪い方へと変わっている。

 ざわつく貴族の中から、カイサック団長が私を睨みつけている。

 私は慌てて口を開いた。

 何か言っていないと、団長が剣で切りつけてくるのではないかという恐怖に駆られたのだ。


「デルクトが命懸けで守ったフレーシアの状態は、如何でしょうか? 婚約者として彼女の無事な姿を確かめたいのです。そしてできることなら二人で感謝しながら、彼を偲びたいと考えます」

 フレーシアの父であるタリト侯爵に笑みを向ける。

 デルクトの死は私の責任ではない。

 あくまでフレーシアを守ろうとした彼の独断だ。

 だから二人で彼に感謝すれば問題ないだろうと同意を求めたのだ。

 すると侯爵は、国王陛下の側から離れて私の隣へと移動してきた。

 そうして、私と共に跪く。

 やっと味方を得たのだと、私は安堵した。

「侯爵……」と声をかけたと同時に、彼は国王陛下に向かって口を開いた。


「発言の許可をいただけますか?」

「申せ。どんなことでも聞き入れよう」

 何を話すかもわかっていないというのに、国王陛下は侯爵の発言を聞き入れると言った。

 驚いた私は侯爵を見るが、彼の表情は落ち着いている。

 ああ、たぶんデルクトの葬儀の費用や謝礼金の話でもしたいのかもしれない。

 今後カイサック団長と遺恨を残さないためにも、国王陛下の前で話をつけておきたいのだろう。

 そうだろうな。デルクトは、フレーシアを助けるために死んだのだから。

 私は話がこじれたらタリト侯爵の味方をしようと、彼の言葉を待った。


「我が娘、フレーシアはデルクト・カイサック殿のお陰で一命を取り留めました。感謝してもしきれません。ですが、今回の件で心身共に弱った娘では、これ以上サシュティス殿下の婚約者として過ごすことは不可能です。私も外務大臣という誉ある役職をいただいておりますが、此度の件で、私がどれほど娘に無理を強いてきたのか、身に染みてわかりました。私は娘と共に領地に戻りたいと考えます。私の外務大臣という職と娘の殿下の婚約者というお役目を、どうか返上させていただきたい」


 ――今、彼は何と言った?


 理解できなくて、思わず国王陛下の顔を見る。

 すると陛下は、狼狽える私を侮蔑のこもった瞳で見つめた。

 驚愕する私をよそに、国王陛下は頷いてタリト侯爵の申し出を受け入れた。

「聞き届けよう。……タリト侯爵、本当にすまなかった」

「御身のお側を離れること、申し訳なく……」

「それ以上、申すな。心労ばかりかけたな」


 そうして私が理解できぬまま、私とフレーシアの婚約は解消された。



 婚約解消と外務大臣という職を返上したタリト侯爵が、私に一言も発することなく、その場を立ち去る。

 私の存在などまるでないかのように過ぎ去る背中に、慌てて追い縋った。

「タリト侯爵、今のはなんだ⁉ 何故、私とフレーシアの婚約を解消しなければならない? それほど彼女の容態は悪いのか? それならば、側妃として側に置いてやる」

 恩情を与えると言う私に、侯爵は動きを止めた。

 振り返り何かを言う前に、国王陛下の怒声が鳴り響く。

「サシュティス、控えろ! これ以上、醜態をさらすな!」

「ち、父上……⁉」

 私の恩情を、醜態と叫ぶ国王陛下に私は唖然とする。

 場の空気も凍り付き、カイサック団長の怒気が私の肌へと突き刺さる。

 タリト侯爵は、振り向きもしない。

「し、しかし父上。フレーシアは大怪我を負ったのでしょう? その所為で王太子妃になれないのでしょう。ですが、だからと言って、ここで見捨てるのはあまりにも非人情的です。フレーシアは今まで私に相応しくあろうと頑張ってきたのです。せめて側妃としてでも、側に置いてやらないと可哀想ではないですか⁉」

「サシュティス!」

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