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宰相と重要人物たちの密談

「いやぁ、あれはもう無理だわ。どう転んでもあのクズ王太子では、国が潰れる」

「これ以上、フレーシアに苦行を強いないでくれ。私の娘は、修道女になった訳ではないのだぞ」

「言い得て妙だな。という訳で、宰相、君が一肌脱いでくれ」

「……………………」


 ゴロッシュ国の王都にあるタリト侯爵の屋敷で、おっさん四人が密談を交わす。

 第一騎士団カイサック団長、外務大臣タリト侯爵、南の国エグタリットの外務大臣サクス公爵、そして宰相の私マイクル・カスダットである。



 フレーシア様がミルドナ学園に入学してから一か月が経ったが、その間にもクズ王太子は目を背けたくなるような愚かな振る舞いを続けていた。

 いや、むしろフレーシア様が入学してからひどくなっている。

 サクス公爵が、タリト侯爵に視線を向けた。

「フレーシアは、何と言っている?」

「近いうちに衆人環視の中、自分は殿下に冤罪をかけられるだろうと。その際に婚約破棄を申し渡されるかもしれないと、言っていたな」

 タリト侯爵が淡々と答える言葉に、私は驚いて声を荒げる。

「まさか⁉ それはありえません。あんなクズでも、フレーシア様には本気で惚れています。婚約破棄など言うはずがない」

 冤罪という言葉にも衝撃を受けたが、それ以上に婚約破棄などという最悪の事態を言われて、私は必死に否定した。

「本気ではなくても自分が優位に立つためにとか、その場の雰囲気で口を滑らせるとかならあるかもしれないぞ。なんせ軽薄な人間だからな」

 冷静なカイサック団長の言葉に、私はグッと喉を詰まらせる。

 確かに彼の性格を考えると、その可能性はあるだろう。


「では、それについてフレーシアはどのように考えている?」

「もう、どうすることもできないだろうと諦めていた。自分がいる限り、殿下は死ぬまであのままだと言っていたな。ならば大事になる前に自分の存在を、殿下の中から消してしまうのも一つの手かもしれない。もしかしたら、それで考えが変わる可能性もあるのではないかと。フレーシアは王都を出るつもりでいるようだ」

「なっ⁉」

 サクス公爵の問いかけにタリト侯爵の答えは、想像もつかないものだった。

 どうして何の罪もないフレーシア様が、王都を出なければいけないのだ?

「私と……陛下が、殿下の婚約者などという地位を無理矢理押し付けた結果、フレーシア様から王都にいる権利を奪ってしまったのか……」

 後悔の念がぐるぐると私の頭の中を回る。

「いいじゃないか。ゴロッシュ国の王都より、我が国の王都の方が居心地は良いぞ。毎日、新鮮な海の幸が王都に並ぶ。フレーシアもきっと喜ぶ」

 ニパッと笑う南の国の外務大臣に、私たちは半眼になる。


 タリト侯爵が深い溜息を吐いた。

「いや、どうしてフレーシアがエグタリット国の王都に行く話になるんだい?」

「ウォルトが、大手を広げて待っているからに決まっているじゃないか。我がサクス公爵家も首を長くして待っているのだぞ。早くこちらの問題を片付けて、親子共々、移住して来い」

 ウォルトとは、サクス公爵の嫡男でフレーシア様より四つ年上の精悍な青年だ。

 彼は幼い頃より、フレーシア様を想っていた。

 彼なら傷付いた彼女を、しっかりと守ってくれるだろうと考えて、ハッとしてしまう。


「ま、待ってください。優秀なフレーシア様だけでなく、タリト侯爵までエグタリット国に移られたら、我が国はどうなりますか?」

「それは自業自得だろう。この国の上層部、全員に罪があるのだから。罪は償わなければならない」

 気さくな雰囲気を出していたサクス公爵が、スッと目を細める。

 ビクッと体が跳ねた。

 その威圧感に、さすがは元王族だと冷や汗が出る。



 サクス公爵は、エグタリット国の現国王の弟にあたる。

 臣籍降下して公爵の爵位を得て、外務大臣の任に就いている。

 そのサクス公爵が何故この場にいるのかというと、タリト侯爵とは外務上の付き合いで若い頃からの友人らしい。

 当然、子供同士も深い付き合いだ。

 サクス公爵の子息、ウォルト殿とフレーシア様もサシュティス殿下と知り合う前からの仲である。

 そんな彼らが淡い恋心を自覚する前に、私たちがフレーシア様を王太子の婚約者にと望んでしまったのだ。

 サクス公爵家にとったら、横取りされたのも同じなのかもしれない。

 だが、フレーシア様が幸せならば国内の問題だ。

 彼らも寂しく思いながらも、祝福してくれるはずだった。

 けれど、そんな皆の思惑が外れ、殿下はフレーシア様を冷遇し続けた。

 いくら本心では惚れていたといっても、あんな態度では誰も納得できるはずがなかった。

 サクス公爵が、フレーシア様を家族ごと囲い込む準備をしていたのにも頷ける。



「私は先ほど、言ったよね⁉ 君が一肌脱いでくれと。フレーシアが王都を出たいと言うのなら、それに協力するのが、何の関係もない彼女を今まで王家に縛り付けていた君たちの償いだ」

 高圧的な訳でもないのに、それでも頷くしか許されない雰囲気に、私はごくりと唾を飲み込む。

「まあまあ、サクス公爵。それでは宰相も可哀想だ。彼にも罪があるとはいえ、彼もまた王家の被害者でもあると、俺は思うぞ」

 カイサック団長がサクス公爵と私の間の仲介をしてくれる。

 実はカイサック団長もまた、サクス公爵とは旧知の仲である。

 前国王の時代に起こした戦争の後始末の際に出会ったらしいが、サクス公爵とは元王弟の立場で、どれほど自由に動き回っていたのだろうか?

 底が知れないと不安になるのは、私が内部で頭だけを働かせている人間だからだろうか?


「だが実際問題、あのクズ王太子が改心しない限りこの国に未来はないだろう。あれを傀儡にしようと魑魅魍魎が蠢いているじゃないか。一掃するにもフレーシアが言うように、何か大きな改変でも与えない限りあれは変わらない。それとも、もう一つの望みに賭けるか? あれはあれで、結構厄介だぞ」

 サクス公爵が魑魅魍魎と言うのは内乱後、数を減らした王族を手玉に取り、権力を我が物にしようとする者たちのことである。

 下位貴族に多く見受けられるが、当然高位貴族の中にもいて、上層部にもいる。

 決して一枚岩ではないのだ。

 現在はフレーシア様が上手くあしらってくれたり、タリト侯爵や私が睨みを利かせいるので、そのなりを顰めてはいるが、いつ動き出してもおかしくない状況ではある。

 殿下が今のようなクズのままだと、いずれは必ず起きる問題だ。

 そして最後の隠し玉。もう一つの望みも、簡単には出せない。というより出てはくれないだろう。


「王族が腐っていると、国も大変だなぁ。我が国も問題児は多いが、跡を継ぐ者がしっかりしているから、安心だ。うん、兄上に感謝だな」

「エグタリット国王は、曲者揃いの王族をまとめ上げる手腕の持ち主だからな。他国の私でも敬意を表する」

「だから早く我が国に来い。同じ侯爵の地位を保証する」

 私が唸っている間に、サクス公爵がまたタリト侯爵を勧誘している。

 もう、こればかりは仕方がないのかもしれない。

 タリト侯爵を諦めた私が項垂れていると、カイサック団長が「ふむ」と頷いた。

「俺も一緒に行っていいか?」

「もちろんだ。歓迎するよ」

「いい訳ないじゃないですかぁ~」

 カイサック団長まで移住の話に乗ってしまった。

 快く承諾するサクス公爵と悲鳴を上げる私。

 優秀な人間がボロボロと離れていく有様に、もうどうしていいかわからない。


「大丈夫だ。この国を見捨てる気はない。フレーシア嬢もそのつもりで離れると言っているのだろう。内部では守れないものも、外部からなら守れるかもしれない」

「そうだな。これからは外部から手助けしよう。宰相、時間はかかるかもしれないが、必ずこの国をよくするためにも、我々は共に手を取り合おう」

「こんなに優秀な彼らが我が国に来てくれるのなら、エグタリット国も手を貸すよ。彼にもそれとなく話をしよう」

 カイサック団長、タリト侯爵、サクス公爵がそれぞれ、笑顔で協力を約束してくれる。

 私は涙が零れそうになった。

 そうですか。この国を出ていくのは、最早決定事項なのですね……。

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