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5 マイペース

 俺は急に現れた女性と向かい合っていた。

 いきなり現れて挨拶をされたから、こっちも挨拶を返したら無言になった。


 どういうことだ?


「......」

「......」


 ......え?

 これって俺が何か話すべきなのだろうか?

 何を? 天気の話でもするべきか?


「......今日は良い──」

「よかった、言葉は通じるね」


 ええ......。

 今のは俺は悪くないよな。

 相手の間がおかしいだけだよな。

 

「ん? なんか言った?」

「あ、いえ」

「そう」

「......あの、あなたは──」

「ギャアアア!!!」


 今度はお前か! 人が喋ろうとしている時に言葉を被せてくるなよ! 頼むから!


「うるさい」


────ドシュッ


「ギョッ」


 コブリン(仮)に怒りを向けてたら、女性からもっと恐ろしい物理的な怒り()が飛んでった。

 これは、怒らせたらやばそうだな。

 

「ん? なんか言った?」


 女性は、両手に持った弓を背中に背負う動作をしながら、落ち着いた様子で言った。


「ちょっと......落ち着きたいです」


 正直、目の前の出来事に追いつけてない自分がいる。

 少しばかり落ち着いて考える時間が欲しい。


「......歩きながら話をしよう、ここはきけん」

「分かりました」


 俺の提案に、女性は特に考える様子もなく返事をした。

 

 ふと俺は、視線を奥にずらした。

 奥の方で、血を流して絶命している醜い緑の塊が目に入った。


 さっきまで俺の命を狙っていた生物なのにもかかわらず、その有様を見た俺はどこか身震いがした。

 





 俺は、今、この謎の若い女性と来た道を戻っていた。

 どうやら森の抜け道を知っているらしい。

 取りあえず、現状は何とかなりそうで良かった。

 てか、道逆だったのか。

 

 因みに、鬼ごっこ中で倒れたゴブリン(仮)は見当たらなかった。

 道中、不自然に森に駆け込む足跡があったから、恐らく仲間が死んだのを見て逃げたのだろうか。


 まあそんなことはいいや。

 取りあえず、今は知りたいことが沢山ある。

 今の所は特に女性に対して何か恐怖を感じることはない。

 しかし、もしかすると価値観の違いなど色々と未知な部分があるかも知れない、くれぐれも何か地雷を踏むことは無い用にしないとな。


「あの──」

「きみは強いね」

「......」


 もしかして、こっちの地雷を起動させようとしてる?

 逆パターン? 珍しいね。


 なんて言うか、ペースが掴みにくい人だ。 


「コブリンに追われていたのに、すごく冷静」

「......あの生物、コブリンって言うんですね」

「うん」


 名前も変わらずゴブリンそのまんまなんだ。

 やっぱりここは俗にいう異世界って所なんだろうか。


「生きる上で冷静さはとてもだいじ」

「は......はあ」

「そして、常に警戒を怠らないことも」

「......」


 警戒しているのが、ばれている?

 そんな言葉や態度に表れていたのか?


「......そんな身構えなくていい、私は敵じゃない。それに警戒を怠らないことは、生きる上でだいじ」

「......」

「信じてる?」

「......少し、頭が混乱してるんです」

「そう」


 少し話をしてみて、女性は無口な性格の人と言うことが分かった。


「不安?」


 ふと、女性が不思議そうに聞いてきた。


「あ......いえ、ちょっと色々と考えていたんです」

「......私は、リクって名乗った青年に頼まれて、きみを探しにきた」

「そうなんですか......」


 えっ? 今なんて。


 俺は、驚いた様子で勢いよく女性の方を向いた。


「ん、警戒がとけた。大丈夫?」


 そういうと、女性があまり崩さない状態ながらも、表情を和らげたような気がした。

 その瞬間、少し心が軽くなったような気がした。


 無口な人だなと思ったんだが、意外と人のことを見て色々と考えている人なんだろう。

 経験の差だろうか。


「......、大丈夫です」

「ん」

「それはそうと、陸空に頼まれたとはどういうことなんですか? 陸空のことを知ってるんですか?」

「............む」


 なんだ? 俺でも分かる。

 少し、女性が不機嫌になったように見えた。


「少し長くなるかも。......めんどくさい」

「......え」


 あれ、今めんどくさいって小声で呟やいていなかった?

 頼りになる人だと思ったけど、その反面に幼さが顔を出し始めている気もする。


「数時間前、わたしは街中で休憩していた。そしたら急に空から何かがおちてきた。轟音がきこえたのと同時に、大きな土煙が上がった。民家と衝突した。そして土煙が晴れたら街に大きなクレーターができていた。気になって見に行ったら、がれきの上に二人の男女がいた。年はきみと同じくらい」 


 落ちてきた? ってことはやっぱりあのクレーターは俺が落下してできた物なんだろうか。


 そして、恐らくその男女とは陸空と陽菜のことだろう。

 二人も無事この世界に来ていたのか、良かった。

 いや、良くないな。


「ふう......」

「?」

「休憩」

「......は、はあ」


 今度はペースに飲み込まれるなこれ。


「続き。しばらくしてたら、男の方が目を覚ました。なんか慌てていた。とりあえず一旦なだめていろいろと話を聞いた。それで、男性はリクって名乗ってた。で、そのリクが急にお願いしてきた。支離滅裂だったけど要するに人捜しだった。それで、仲間の何人かで辺りを探索することになって、わたしが見つけた。以上」

「なる......ほど、因みに陸空は何て言ってましたか?」

「上下黒服で、キノコみたいな髪型の男性って言ってた」

「キノコ......」


 キノコって......そんなに言い方だとダサいイメージしか湧かないじゃないか。

 まあ、髪型の名前を伝えたところでこの世界でそれが通じるとも限らないのか。


 そう考えると、その表現が一番的を得てているのだろうか。


「きみを見たとき一目で分かった、依頼の子だって」

「そんなに髪型が特徴的でした?」

「髪? いや、そんな奇抜な服を着ている人はめったにいない」

「服?」


 特に何の変哲も無い、世間がイメージする制服を着ているはずなんだが、ここでは、珍しいものなのだろうか。


「でも、少し残念」

「?」

「キノコってきいて面白い髪型を想像してたのに......全然違った。面白くない、キノコにするべき」

「そんなこと言われましても......」


 なんだ? この人、ちょっと可笑しいんじゃないか?


「あっ」


 ふと、女性が何かを思い出したかのように呟いた。

 何だろうか。


「そういえば、きみの名前はなに」

「名前ですか......? 晴琉です」

「ハルね」

「......」

「......」


 あれ、終わり? それだけなの?


「......なら貴方は──」

「わたしはティナ。よろしく、ね」

「......。分かりました」

「なんか言った?」

「い、え」

「そう」


 凄い、マイペースな方なんだろうな。

 なんか、空しくなってきた。


「ん、そろそろ森をぬける」

「わかりました」


 ようやくか。

 森を抜けた先には、一体どんな景色が待っているのだろうか。


 俺は、待ち受ける未知の景色に胸を高鳴らせていた。


メタルです


マイペースには気をつけよう。


編集記録

・今の所なし

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