4 こんにちは
※編集記録を後書きに移すことにしました。
再び目が合った。
にやけている。
醜悪な視線。
まるで俺を、獲物として......いやそれよりももっと稚拙な──おもちゃ?
俺は相手に何かをしたわけでもない、そして相手は俺に何か憎悪を持っているわけでもない。
楽しんでいるのだろうか? そんな幼さを感じる。
ただ幼さしか感じられない様子ながらも、これだけは言える。
俺を殺そうとしている?
「ギャアッ!」
「──っっ!」
声が聞こえた瞬間、俺は体を左にずらした。
そして直ぐに頭があった場所に石が通り過ぎた。
「......うっそだろ」
「ギャガッギャギャギャ!」
ゴブリン(仮)が怒ったような乱暴な声を上げた。
ふざけるな、怒りたいのはこっちだ。
改めて実感した。
俺は今命を狙われているらしい。
こんなにも稚拙で矮小な存在にだ。
恐ろしさが込み上げてくる。
誰かに命を狙われると言うのは初めての経験だった。
そして、それを塗りつぶすかのように冷静さも込み上げてきた。
俺は石を投げられる直前に、体を左にずらした。
これは視線が顔に向いたのと、さっき右に避けたからが理由だ。
しかし、ゴブリン(仮)は馬鹿正直にさっきと同じ真っ正面を狙ってきた。
恐らく、ゴブリン(仮)は余り賢くないのだろう。
もしくは、学習能力がない。
それとも、実は油断を誘うための賢い戦術だったりして──
「ギャア!ギャア!」
……その可能性は無さそうだな。
相手は俺を殺そうとしている。
文面から見ると、相手の存在を大きく見てしまうかもしれない。
が、実際に見える背丈は小さい。
例えるなら、幼稚園児。
リアルで石か何らかの凶器を持って幼稚園児に殺意を向けられた所で、高校生は足がすくむだろうか。
最初はすくむだろうな。
だが段々と現実が見えてくる。
断然身体能力はこちらが上、更に人によっては反撃できそうとも考えるのではないのだろうか。
改めてゴブリン(仮)を見つめる。
うん、小さいな。
──この場合正当防衛は働くのだろうか?
「ギャアァ?」
何かを感じたのか、ゴブリン(仮)が一瞬すくんだように見えた。
やっぱりだ。
余り大したことがなさそうだ。
......やれる?
ふと俺は、視線を地面に向けた。
近くに丁度、手頃な大きさの石が落ちている。
ゴブリン(仮)を見る。
何やら乱れているように見える。
ふと、俺は手を伸ばした。
冷たい感情。
手にひんやりした感覚が伝わる。
そして、質量が加わった。
「..................」
視線をあげる。
見るは上。
棒のような陰の上にある丸い陰。
正当防衛......。
心の中で復唱する。
手を肩の上まであげた。
「ふぅぅ......」
呼吸を整える。
ひどく冷静だった。
ただ、数秒数えた。
「っ!」
────ボテッ
石が落ちる音が弱く聞こえた。
────ザザザッッッ
そして、走る音が聞こえた。
気付くと俺の視界にはゴブリン(仮)はおらず、代わりに来た道を映していた。
「ギッ?? ギギャアアア!!!!」
後ろの方から何やら荒々しい叫び声が響いた。
うん──逃げます。
俺は逃げることを選択した。
危ねー、危うくやり返すところだった。
正当防衛で殺そうとする馬鹿がどこにいんだよ。
過剰防衛だろ。
「ギャガヤガギャギャギャアア!!!!」
言葉にならない声を上げながら追いかけてきている。
思ったより速いスピードだが、とはいえ俺に追いつくことはないだろう。
とりあえず、ゴブリン(仮)がいなくなるまで逃げることにしよう。
楽しい鬼ごっこが始まった。
捕まったら死だね。
洒落にならん。
「ギャアッッッ......ギャアアア」
しばらく走った。
ゴブリン(仮)が悲鳴を上げながら追いかけてくる。
そろそろ撒くことができるだろうか。
ちらっと後ろを見ると、情けなく舌を出しながら呼吸を荒げている。
明らかに限界そうだ。
早く諦めてしまえ。
「はっ......はっ......」
しかし、俺も少しきつくなってきた。
部活をやってない弊害が今出たな。
ゴブリン(仮)が思ったよりも体力が合って少し苦戦をしていた。
最初の内に無理をしてでも全速力で走って捲くべきだっただろうか。
体力勝負に持ち込んだのが失敗だった。
「ギャアア......ギャア......」
後ろからずっと情けない声が聞こえてくる。
何でそこまで執着するんだこのゴブリン(仮)は? 諦めることを知らないのか?
「ギャッ......ギャ......」
「ギャアアア!!!」
しつこいな。
こんなことになるなら、もうさっき石を投げれば良かったと思ってしまう自分がいる。
「ギャアアア!!!」
「ギュエエエエエエ!」
「ギャア............」
「てか、うるさいな!!」
余りにも騒がしいため、思わず後ろを振り返って怒鳴ってしまった。
「......は?」
今度は俺の口から情けない声が漏れた。
いや、不可抗力というかなんて言うか誰だって目を疑うだろう。
何か、ゴブリン(仮)が増えているんだけど。
1......2......3体いる。
あれ......? おかしいぞ。
「ゲエエ」
────ドサッ
あ、最初のゴブリン(仮)がダウンした。
いや、もう今はそんなことはどうでも良い!
「増えてるじゃねーか!!」
最悪だ。
さらに状況が悪化した。
何で、数増えているんだよ!
仲間でも呼んでいたのか?
何してくれてんだよまじで!
「くっっっそ野郎!」
埒が明かない。
この先逃げ続けてもまた、仲間が増えるかもしれない。
体力がきつい。
もう逃げ続けるのはきついか?
「もうやるしかないのか……?」
これ以上走っても不毛だなと感じた俺はゆっくりと足を止めた。
「ギャ?」
間抜けな声が聞こえてきた。
こっちは色々切羽詰まっているのに、どうしてそんな間抜けな様子でいられるのだろうか。
「ギャギャッギャ!!!!」
喜々とした声で叫んでいる。
何やら、俺が足を止めたのをみて手を叩いて喜んでいるみたいだ。
相手が諦めた、これで仕留められる、とでも考えているのだろうか。
──いや、違うだろうな
何も考えていなさそうだ。
ただただ、純粋な悪意。
悪意を振り撒くことしか知らない邪悪さ故だろう。
もう、仕方ない。
こうでもしないと俺の命が危ない。
「......ふう」
覚悟を決めようと、一瞬目を瞑った。
その時だった。
────シュンッッッ!
何やら、空気を切り裂くような音が聞こえた。
────ドシュッ
「ギッ」
そして、反応する間もなくその鋭い音が消えたのと同時に目を開いた頃には、ゴブリン(仮)が声にならない声をあげて地面に向かって倒れていた。
「はっ?」
突然の出来事に、何が起きてるか理解ができなかった。
「大丈夫?」
何やら女性の声が聞こえた。
清涼飲料水のような透き通りのある落ち着いた声。
俺は流れるがままに声のする方向を向いた。
「......!」
衝撃だった。
そこには、一人の若い薄緑髪の女性が立っていた。
ただ驚いたのはそこじゃない。
その女性は、まるで狩人を連想させるかのような衣服を身につけており、両手には大きな弓が握られていた。
コスプレイヤーじゃないよな......。
悪ふざけをしているようには見えない。
突然現れた怪しさ満載の女性に、どうすればいいのか悩んでいたどころ、女性が口を開いた。
「......こんにちは?」
............。
「っへ?」
「......」
「......ああっ! ......こんにちは」
「ん」
「......」
「......」
......え?
メタルです。
挨拶は大事ですね。
おはよう、こんにちは、こんばんは。
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