3 足跡
編集記録
・8/6 8:37 後書き
〜存在してしますか→〜存在していますが
「──あ」
また少し経った頃。
俺は道を発見した。
といってもそれは、草むらから僅かに顔を出した程度のものであり、整備等が施された様子は無い。
自然に生み出されたもの、獣道とでもいうのだろうか。
まあ、見るからにしょぼい道だった。
しかし、俺にとってはようやく何か道標になるようなものであり、大きな発見だった。
「......っし」
とりあえず、草むらのゴワゴワ感から早く抜け出したかったので、道の方へと足を運んだ。
足を踏み入れると、土は柔らかく、靴の底が僅かに沈む感触があった。
少し冷たく湿り気のある感触ではあったが、さっきの草むらと比べると快適さは雲泥の差であった。
とりあえず、俺はこの道に沿って歩みを進めていった。
「......なんだ?」
道に沿って歩いているとふと、不思議なものを見つけた。
一旦、足を止めじっくりと観察してみる。
「足......跡?」
進もうとしていた道の先に異様な数の足跡が残っていたのである。
しかも見たところ、動物の足跡ではなく人の足跡だったのだ。
これは、人が通る道だという証明になる為とても大きな心の支えになると思えた。
「......は」
しかし実際は、この足跡を見て、喜ぶのではなく複雑な感情に追い込まれていた。
残っている足跡がどう見ても、人間の子供の足跡だったのである。
しかも靴跡ではなく、五本指の形が見えるので恐らくこの足跡は裸足でつけられたものなのだ。
こんな森の中で子供が靴も履かずに動き回ることがあるのだろうか?
大人も同伴しているならまだ可能性は考えられたが、見た辺りに大人サイズの足跡は見当たらない。
考えすぎだろうか、田舎とかであればこれ位普通だったりするのだろうか?
いや、それでもだ。
流石にこれに関しては少々違和感を覚えてしまう。
猿の足跡なのだろうか?
でも、素人の目線から見てもこれは流石に人の足跡だろうとなんとなく分かる。
他に二足歩行の動物なんて居ただろうか?
......それとも、俺の知らない別の生物なのだろうか?
ただの足跡だ。
ただどうしても俺はこの足跡に対する不気味さに何処か引っかかっていた。
そして、この足跡について考えを巡らせている時だった。
「──ギギャア」
ふと、遠くの方からだった。
何かが、生き物の鳴き声が聞こえた。
聞いたことのない音。
鳴き声が途切れた後、耳の中では嫌になるほどの静寂が襲いかかった。
何だ? 猿だろうか? 猿ってこんな濁音で軋むような音が混じった鳴き声だっけか?
いや違うな、何だ? 違和感とかの以前に根本的な何かが違うような......。
「──ギギャャアアア!!」
「!?」
再び、謎の声が響き渡った。
それは、耳に不快感を残すほどの邪悪さがこもった奇怪な声だった。
「っ......」
思わず身震いした。
猿ではないナニカが近くにいる。
それも、動物などの範疇ではないもっとナニカ別な存在。
──ガサガサ ザザザザ
草むらを掻き分ける音、地面を踏みしめる音が徐々に近づいている。
音が大きくなるに比例して緊張感が高まっていく。
得体の知れないナニカが、明らかに俺に向かって来ている。
俺は息をひそめて、そのナニカに対し身構えた。
草むらが動いているのが見え始めた。
もう目の前まで近付いてきている。
もうすぐ、もうすぐ現れる……!
そして、緊張感が最高潮に達した頃だった。
「ギャアアッ!!」
草むらから、勢いよく転びそうな程の勢いでそのナニカは姿を現した。
「ギギ! ギアァ!!」
「............まじ......か」
ナニカを目に捉えた俺は思わず呆然とするしかなかった。
ナニカは二足歩行で尖った耳、口を開くと突き出るように主張する鋭利な歯が醜悪さを際立てており、何とも醜く小さな存在だった。
明らかに動物ではなく、未確認生物に分類されていそうな見た目だ。
しかしなんて言うかあれだ、草むらを突っ切ってきたからか、体に植物が絡まっており、情けない様子で手を動かして付着物をはらっている。
身構えていた割には、少し拍子抜けした。
しかし俺は、驚愕していた。
未確認生物とかじゃないもっと別な内容だ。
体の色が緑色と言えば伝わるだろうか。
申し訳程度に薄汚れた茶色の布きれを身に付けた矮小な存在は、ある生物を連想させた。
「......ゴ......ゴブリン?」
それは──ゲームやファンタジーの架空の生物だった。
そしてゴブリンが頭に浮かんだことにより一つの仮説が生まれる。
明らかに非現実的で可笑しな現状。
謎の場所での目覚め。
そして目の前のファンタジーな生き物。
とある、創作小説で見たことがある。
今とそっくりな場面を。
普通の人だったらだったら、有り得ないと笑うような説となるが、もしかして有り得るのだろうか。
ここって......もしかして──
「異世界......」
────ゴソッ
そう呟いた時だった。
何かを拾い上げる音が聞こえた。
その音で一旦現実世界へと引き戻される。
音の発生源は、あの矮小な存在からだ。
仮にゴブリン(仮)とでも呼ぼうか。
よく見ると、手に握りこぶし程度の石が握られている。
さっきの音は石を拾った音なのだろう。
「ギャギャ......」
ゴブリン(仮)は気味が悪いほどの笑顔を浮かべ、こちらを見つめてきた。
目が合った。
その瞬間、首から背筋にかけてぞくりとした悪寒が這い上がった。
向けられたことのない視線。
あの生物は俺に対して何を考えた?
世界から音が一瞬消えたような気がした。
無音の世界に徐々に心臓の鼓動の音のみが生まれていく。
「ギャアッ!」
────シュンッッッッ
そして──新たに冷たい音が生まれた。
「ぶっっ......!」
俺は咄嗟に大きく体を右にずらした。
考えるよりも先に身体が動いていた。
────ゴトッッ
何かが落ちる音が聞こえた。
「っっっっはぁ......!」
理性が戻る。
後ろを振り向く。
確認する。
石が落ちていた。
なるほど。
そうか、俺は今、石を投げられたのか。
どうやら、俺は今、石を投げられたらしい。
俺は──
「ギェギャアア!!」
俺がその場に立ち尽くしている間に、ゴブリン(仮)は無邪気に子供らしく地団駄を踏んでいた。
俺とは反対に何も考えていない、幼稚で馬鹿みたいにだ。
もしかして悔しがっているのだろうか? 石が当たらなくて──俺に?
石の方をちらっと見たが、当たれば確実に怪我をする大きさだ。
当たり所によっては重傷、もしくは死ぬ可能性も考えられる。
ゴブリン(仮)は地団駄をしばらく踏んだ後、なにやら地面を見て何かを探し始めた。
まさか──
────ゴソッ
聞いたことのある音がまた、聞こえてきた。
どうも、メタルです。
ゴブリンは創作物によって様々な姿が存在していますが、この作品では人型として扱おうと思います。