1 日常の崩壊
初投稿ですが、よろしくお願いします。
編集記録
・今のところ無し
──本当は、普通のはずだった。
普通を、生きるはずだった。
外をぼんやりと眺めていた。
窓の隙間から微かに吹き込む緩い風が、制服の袖を静かに揺らしている。
「ここは、こうであるからして──」
意識の外で、ツンとした堅苦しい女性の声が耳に吹き込んできた。
カンカンと黒板を叩く掠れたチョークの音と共に、知識の乗った言葉の羅列が教室中を舞っている。
しかし、その音に意識が向くことは無く、知らずの内に音は上の空へ吸い込まれていった。
いつもの単調な授業。
俺には、極めて退屈な時間だった。
現在、自分は高校二年生。
ある程度、高校生活に慣れ、余裕という態度が段々と顔を出し始める時期であった。
「はい。では、ここのア、イ、ウ、エのどれを選択したのか聞いてみようと思います。今日の日付から......えー、晴琉さん、どうぞ」
ふと、聞き慣れた単語が、意識を強制的に引っ張り、俺の注意を惹いた。
そういえば、この先生は、こういう当て方をする人だったな。
「ウ、です」
「はいそうです。ここの問題はこのようにして──」
言葉を詰まらせずに、俺は回答した。
残念。
授業の内容は基本予習済みなんだ。
流石に勉強ができないのにぼーっとするわけにはいかないだろう。
ん?
怒られている様子が見たかったって?
ははっ、浅ましいな。
授業が終わり、学校のチャイムが響いた。
学校の空気が一変し、騒々しくなっていく。
それは、昼休みの訪れの合図とも言えた。
俺は、片手にお弁当を持って、とある場所へと向かった。
そこは、生い茂った木々が、幾重にも葉を重ね緑の屋根を作り、涼しさを生み出している場所だった。
今の気温には丁度いいここは、体育館裏。
滅多に人が来ない、穴場のスポットだ。
我ながら、良い場所を見つけたなと思う。
到着次第、いつも利用している切り株を探し、その周りの草むらの上にゆっくりと座り込んだ。
そして、切り株の上にお弁当の準備をしていると、そろそろかなというタイミングで声が聞こえてきた。
「おっす、きたぜ」
「やほー」
軽い挨拶をする男女の二人組がやってきた。
「来たか、陸空、陽菜」
俺は、慣れた口調でで挨拶を返した
この陽気な二人──陸空と陽菜は、幼稚園からの付き合いのある仲だ。
他クラスであるにも関わらず、学校生活では一番一緒に居る時間が長い気がする。
「はあ~、疲れたぜ」
陸空は、ため息交じりの声を吐きながら適当な所に座り込んだ。
「晴琉~、今日さあ、四時間目の授業に寝てたら急に先生に当てられて恥をかかせられちまったぜ。なんでこういう時ばっか当てるんだろうな」
「浅ましいな」
「──あ?」
「馬鹿だなあ、授業中に寝るとか私は考えられないなー」
陽菜は、綺麗な地面を探しながら、呆れを交えつつ言った。
「そのうち、嫌でも分かるようになるぜ」
「そんなこと無いよーだ」
軽い会話をしながら、二人はお弁当の準備を進めていく。
準備を終えた切り株の上には、並べ終えた二人のお弁当箱と自分のお弁当箱が並んだ。
二人と比べて一際大きい俺のお弁当が良く目立つ。
もちろん理由はある。
俺がお弁当の蓋をあげた瞬間、一気に周りに食欲を煽る香ばしい匂いが広まった。
そして、すぐさま陸空が俺のお弁当のおかずを箸で奪い取った。
「よっしゃ、もらったぜ!」
「さいあく」
「うは!あいかははふうへーは」
「口に食べ物を含んで喋るなよ」
「私も、もらっていい?」
「箸で掴んでから言うなよ!」
陽菜が、金髪の髪をかき上げ、俺のお弁当のおかず悪びれる様子もなく口に運ぶ。
そう、ご飯の時間になるとこの二人は、俺のお弁当箱からおかずを盗む極悪人へと変身するのだ。
そのため自分の分が無くならないようにするには、一際大きなお弁当箱を準備しなければならない。
ふざけんな、乞食め。
「はふは、みらひのりょーりひんだな」
陸空が、手を止めずに食べ物を頬ばりながら言った。
陸空の言う通り、俺の将来の夢は料理人になることを目指している。
父が有名なレストランを経営してるのもあって料理に関しての知識は意外とある方だと自負している。
そのせいもあってか、俺の作ったお弁当はかなり評判が良かった。
教室で食べていた頃、クラスの皆にお弁当のおかずをお強請りされたことがあったな。
あれは最悪だった。
それがあって、あの惨劇を繰り返さない様に今は外で食ってるんだよなあ。
まあこの二人はもう仕方ないと割り振っている。
「褒めても無駄、後でいつものジュースな」
「けっ」
とりあえずこの二人には、自販機とかのちょっとしたところで返してもらってる。
これは二人から提案されたことで、流石に乞食さんも無料で食べ続けたら罪悪感が湧くんだなってことを知った。
「うへー」
それにしても、もごもごしゃべっていても何言っているか分かるものなんだな。
長い付き合いのおかげってやつかな。
「私、これもらうね!」
「ああ」
「うひひーー!」
「?」
......まあ、別に嫌ではないんだよな。
自分が作ったものを褒められるってのは悪くないからな。
何やかんや嬉しいことでもある。
「毎度言うけどさ、俺の分も考えろよ」
「「ふぁい」」
はあ、分かってんだか......。
いつもの日常、いつもの時間が流れていく。
同じことを繰り返しているようで、どれもちょっと違う。
毎日、毎日、俺達は楽しい日々を送っていた。
学級委員を務め、皆の頼りになるような存在でありながらも、どこか足りない所がある漓空。
いつでも明るく陽気に過ごし、誰とでも楽しく接することが出来る陽菜。
それに対して俺は、余りはしゃぐタイプでもないし、できるのは料理ぐらいで、これといった特徴は無い。
けれど、二人とは何時も一緒だ。
不思議な物だよな。
本当に。
「何一人で笑ってんだよ? きもちわりー」
「なになに? もしかして、変なこと考えてるのー?」
二人がキョトンとしている
その、今の二人の顔は、どこか間抜けな感じがして面白い。
「ごめん、お前の顔見て笑った」
「っは? なんだよそれ!」
「あははっ! いつも、変な顔してるからだよ〜」
「はーー!? し、て、ね、え、からっ!」
二人はそう言って、睨み合った。
まあ、どちらも本気ではなく、睨み合った目は次第に緩み、しばらくして、パッと弾けるように笑い合った。
それを見てつられて自分も笑った。
やっぱり、二人といる時はずっと楽しいな。
世界が一段と明るくなったように思える。
こんな日常がずっと続けば良いな。
俺は、そう思えた。
「ん? なんだあれ」
ふと、漓空が間抜けな声を出しながら、ある方向に指を向けた。
そこは俺の後ろの方。
何か珍しい動物でも居たんだろうかと思って俺は後ろを振り返った。
──違った。
丸いナニカ。
白い光を発した丸いオーブのような浮遊物が存在を主張していた。
そして、一瞬の出来事だった。
直ぐにそのナニカは白く発光し、全体を包みこんだ。
「──ぇ?」
言葉を発することは疎か、考える時間も与えられぬまま、俺の意識は途絶えたのであった。
じゃりじゃりとした感触を背中に感じる。
自然の匂いが強く鼻に香る。
そして、やけに静かだ。
違和感を抱えながら、俺は意識を取り戻した。
「ん......」
無意識に息に唸るような声が混じった。
同時に俺は、ゆっくりと目を開く。
眩しい。
そして青い。
影の無い、純粋な空が広がっていた。
「......?」
目の前に広がった景色が、頭のどこかで引っかかった感じがした。
流れるように体をゆっくり起こし、辺りを見渡してみる。
視界には、木々が乱雑に倒れて散らばっている惨劇が映った。
地面に視線を移すと、ボコボコのクレーターの様に潰れている荒地が映った。
「......へ.......?」
理解ができなかった。
衝撃と困惑が混じってうまく声が出なかった。
「......ふぅ」
ふと、深呼吸をした。
そして、一旦目を瞑り落ち着いてからまた目を開いた。
景色は変わらない。
............。
ふと、手をつねってみた。
痛みがあった。
夢のような極めて奇怪な状況であるにも関わらず、どうやら俺の意識は覚醒しているらしい。
つまり、これは現実。
夢ではない。
その事実を理解して、俺はぽつりと呟いた。
「どこだここ?」
俺は気付いたら見知らぬ場所に居た。
メタルです。
人って非現実的な現象に出くわした場合、本当に体に痛みを加えて夢が現実が確かめるのでしょうか?こういうのって、夢が現実かどっちだろうと悩めるだけでもう現実確定だろと持論では思うんですよね。どうなんだろう?
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