婚約破棄すると言われて十年、まだ婚約破棄されていませんわ。
「クロムとの婚約?をえーっと、破棄、でいいんだっけ?する!」
「……えー。ですわ」
……。私の名前は『ファルカナ・クロム』。クロムで結構ですわ。そんな私ですが、実は元々は日本人だったのですわ。今は色々あり、お嬢様として蝶よ花よと育てられたのですが……。そんな私には、幼馴染がいるのですわ。
……。今、目の前で婚約破棄と言ってきた、『リーグ・ガ・リングレン』と言う少年ですわ。両親が亡くなる前に、一度行った晩餐会で出会ってから、ほぼ毎日のように私の家にやって来るのですわ。なぜ来るのでしょう?
「なぜするのですわ?」
「え?……えーっと、それは……」
「大した家でも無いのに付き合うのは不味いからですお坊ちゃま。両親が死んでから、どんどん没落しているからと言いなさい」(コソコソ
「えーっと、大した家じゃないからだって!」(ドヤァ
……あぁ、純真無垢ですわ……。こんな少年をお家の事情で婚約破棄させようとしている親がいるとかマジですわ?ちょっとドン引きですわね……。まぁそれを言われても仕方ない所はありますわ。事実、両親が死んでしまい残された財産とこの家だけで生活していますし。……メイドも後ろにいる一人だけ。仕方がありません。婚約破棄されるとしましょう。
「良いですわよ。レン」
「分かった!じゃあまた来るね!」
「……えぇ」
コイツ、意味をやっぱり分かってないですわね……。普通婚約破棄したら家に来ないものなんですわ?まぁ別に、来ちゃいけないってことは無いと思いますが……。それに、一緒にいると楽しいですし……。って、何を考えているのですわ私は!
「キーッ!」
「鷹かな?」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「今日も来たよ!」
「えぇ。そうですわね」
あれから一年が経ちましたわ。早い物で、私ももう十歳になるのですわ。レンも同じ年ですわ。そして、あれからレンはほぼ毎日、私の家に来ていますわ。そんなに遊び相手がいないのですわ?と聞いたら、
『別にいない訳じゃないよ?クロムと一緒にいたいだけ!』
って言われましたわ……。恋してしまいそうですわ。あまりの純粋さに……。あぁ、後ろのメイドはいい顔をしていませんわね。ですが、立場上仕方ないという感じで来ていますわ。そんなに嫌なら帰ればいいのに……。
「それで、今日はお茶持って来たんだ!」
「そうなんですの。メイド」
「はい。なんですかねお嬢様」(スタスタ
「レンの分の紅茶も持って来てくださいまし」
「了解っすよお嬢様~」(スタスタ
……。あぁ。後ろのこいつは、メイドですわ。それ以上でもそれ以下でもない、良く分からない存在ですわ。さてレンと後ろのメイドだけになってしまいましたわね。気まずいですわ……。
「えっとね、なんかわかんないけど、お父様が最近、クロムの家に来ちゃいけないって言うんだ……」
「まぁ。それは大変ですわね」
「うぅ……。どうしたらいいと思う?」
私に言われましても……。ですが、あえなくなると思うとちょっと寂しいですわね。それは。
「来たいのならご自由に。ですが、自分の意思を持った方がいいとは思いますわよ」
「そうだよね!うん!帰ったらお父様に言ってくる!」
……。ホント、純粋ですわねぇ……。私も、子供の頃はこれだけ純粋だったのでしょうか。なんだかノスタルジックな気持ちになりますわ。思えばこんな恋をしたいと思っていましたわね……。
「あぁ。後ろのメイドさん、貴方からの紅茶は飲みませんわ」
「……失礼しました」
「じゃあ僕が飲む!」
「あっ手を滑らせてしまったー」(ガシャーン
……。コイツホントクソ野郎ですわね……。普通目の前で毒殺とかしますわ?それやったら持ち込んだそちらが問題になる奴では?……。もみ消し?あぁそうですわね、貴方達は立場上、それが出来るんですわよね。
「お嬢様~お待たせしました~。毒ハーブティーでーす」(ガンッ
「お前は暗殺者かなんかですわ?!下げなさいこんな物!!」
「はーい」(ガシャーン
ったく、たまにこいつふざけてくるんですわよね……。まぁ、相手方に合わせた、と言った方がいいのかもですわ。その後は、まぁレンと一緒にお茶を飲んで、喋りながら楽しみましたわ。……明日も来てほしいですわね。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「……」
「お嬢様~。あの少年が来ないからって落ち込まなくていいじゃないですか~」
「……うるさいですわ……」
「あぁ。こりゃ完全にまいっちゃってる。じゃ、また今度声をかけに来るから。お嬢様」
……あの日以来、もう二年は家に来ていませんわ……。辛いですわ……。彼に会えない時間がこれほどまで辛いとは、思っていませんでしたわ……。何かあったんですわ……?
「……いえ、いつまでもクヨクヨしてらんないですわ!えぇい頑張れ私!」
とにかく今やるべきことは……。私の家の復活ですわ!今完全に没落貴族的な感じになっている以上、なんとしてでも評価をあげねばならんのですわ!それに、評価が上がれば、またレンとも……。
「って、何を考えているんですわ私は!?」
うぅ……。婚約破棄はいまだされていない様子ですが、それも時間の問題。今すぐにでも行動するべきなのですわ!
「そうと決まれば……メイド!」
「はいなんすかぁ~?」
「仕事をくださいまし!何でもしますわよ!」
「ん?今何でもするって言った?」
「えぇ。どんな手を使おうとも……この手でもう一度、私の家を再建させるのですわ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お嬢様~なんか客来てますよ~」
「あげてくださいまし。あぁ、それとこちらの仕事は終わりましたので、ギルドに持って行ってくださいまし」
「了解~。じゃあ後よろしくね~」
大体一年くらい経ちましたわ。あれから、私の家は少し評価が高くなりましたわ。……主に何でも屋系の評価ですが。ですが、何をしようが評価は評価。純然たる事実だけが重要になってくるのですわ。
しかし、客ですか……。アポ無しで来るとは、一体誰なのですわ?
「キミが……。クロム君、だったかな」
「レンのお父様……!」
な、何故大貴族のレンの父がこんなところに!?と言うか、もう既に座ってやがりますわこいつ……!
「良いところだな。何も無いからな」
「……それで、何用ですわ?」
「あぁ。婚約破棄してほしいと言う事だ」
「……そうですか。それはレンは知っているのですわ?」
「いや?私の独断だよ。だがね、キミよりいい女は幾らでもいるんだ。だから婚約破棄して、彼をもっといい女とくっつけるのさ」
……まぁ、そんな事だろうと思ってましたわ。ホント、クソ野郎ですわね……。しかも隣にいるメイド。コイツ武器持ってますわ。もし断れば……、どうなるかは分かりやすいですわね。仕方がありません。ここは言葉だけでもはいと言っておきますわ……。
「それなら仕方がありませんわ」
「本当に助かるよ。あぁそれと、これは手切れ金だ。受け取れ」(ガシャ
……ッ。どこまでも救いようのないクズですわね。金で愛が買えると思っているタイプの人間ですわ。しかし見ていやがれですわ……。泥を啜り生ゴミを食っても、その顔面に一発拳を叩きこんでやりますわよ……!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「メイド!大丈夫ですわ?!」
「私はいつでも大丈夫ですよ~。それより、家、燃やされちゃいましたね」
「……あいつら……!」
レンの父が来て半年、遂にやりやがりましたわあいつら!私の家に火を放ってきやがりました!こんな事していいと思ってるんですわ!?あぁ、家が!唯一両親から残された家が……!
「どうします?私らが声をあげても、もみ消されるだけですよ?」
「……命があるならそれで十分ですわ。それよりメイド。これからどうしましょう……」
資料も、何もかも燃えていきますわ……。私の二年半が、何もかも……。
「……私は……」
「お嬢様。大丈夫ですよ。家は私の実家を使えばいいですよ。家が無くても、お嬢様には知恵がありますし」
「……メイド……」
「それに、よく言うじゃないですか?ピンチはチャンスだって!」
……こいつに励まされるとは思ってませんでしたわ。しかし実際問題、これで事実上家が無くなったというのは確定しています……。ならば、やるしかありませんわね。アレを。元々両親が死んでから、いずれやる予定でしたが……。
「私は、今日から苗字を捨てますわ。私はクロム!それだけですわ!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
私はクロム。今年で十八になりますわ。メイドの実家に来た私は、あれから少しずつ、金と地位を積み上げていく事にしました。初めは相手にもされなかった私ですが、次第に貴族も無視できなくなる程、私の力は強くなっていきました。
「お嬢様~。今日の仕事ですけど~」
「ちょっといいですわ?」
「なんです~?」
「来年、レンの家で舞踏会が行われます。それに参加するよう命じられましたわ」
「……いよいよ結構ですか」
……。それは、あいつらも理解したようですわね。度々刺客を送り付けて来たようですが……。あいにく、メイドはなんかやたら強いので全部追い返してやりましたわ。何なら一部は私のところで働いてますわ。
「もう商業系に関わる奴らなら、お嬢様には一回顔を出さないとダメだってくらいの知名度ですもんねぇ~」
「えぇ。当然ですわ。……しかし、一つだけ懸念があります」
「なんですお嬢様~?」
「……レンは、私の事を覚えていらっしゃるでしょうか……」
……私、このパーティーが終わったら、レンに告白するつもりなんですわ。……やっぱり、私はレンの事が好きなんですわ。……でも、もう八年も顔を見合わせていない以上、……私の事など……。
「お嬢様!」
「なっ、なんですわメイド!?」
「お嬢様の悪いところはそうやって考えすぎなところだと思うんですよ。もっと気楽に考えましょ!」
「……メイド……」
「それに、もしかしたらあいつらから結婚してくれって言ってくるかもですし~」
……。コイツの気楽さには、幾度となく救われてきましたわ。名前は分かりませんが。
「……メイド。そうですわね!いつまでもうじうじしてるのは性に合いませんわ!えぇい私!頑張るんですわよぉ!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「やってきましたわね、メイド」
「そうですねぇお嬢様~」
レンの家の舞踏会にやってきましたわ。レンの家に来るのはそう言えば、初めてですわね。確か最初に会ったのは……。両親が死ぬ前、一度私の元家で晩餐会をしていた時でしたか?あの時は、まだ何も考えずに生きる事が出来ていましたわね……。
「……初めて彼に婚約破棄されたのは、大体十年も前の話でしたわね?」
「そうですねぇ~。もうお嬢様も、立派な女性ですねぇ~」
「恥ずかしいですわ。……メイドは年を取った感じがしないんですが」
「いや、私の事なんかどうでもいいじゃないですか~」
思えば十年前、レンが婚約破棄すると言ってきたあの日から。私の運命はこうなる定めだったのかもしれないですわ。アホな話ですわね。いつの間にか、惚れていたのは私の方だったんですから。さてと……。ドレスよし!メイクよし!メイドよし!
「行きますわよ舞踏会!」
「どこまでもお供しますよお嬢様!」
さて、とりあえずホールに入る前に……。
「あーおトイレに行きたいですわー」
「大変だー。お嬢様がトイレに行きたいそうだー」
「なんだお前ら……。まぁいい、粗相があってはいけないからな。トイレは向かって左だ。だが間違ってもそれ以上踏み込むんじゃないぞ」
「分かってますわー。生きますわよメイドー」
「了解ですー」
ひっでぇ芝居ですわ……。まぁ、この程度の三文芝居があいつらにはお似合いですわ。トイレに行くフリをして……。向かうのはレンの父、『リーグ・ガ・ヴィルシーン』の部屋ですわ。どこに部屋があるかくらい、もう知っていますわ……。
「ここですわ」
さて……。
「中々聞こえにくいですわね」(耳ピト
「まだだれも来てないですよ~」
……あっ、聞こえてきましたわ!
「あの女は来たか?」
「えぇ。警備兵からの伝言です」
「フン、所詮は元貴族。我々とよりを戻せると分かればすぐ飛びつく。エサをちらつかせた犬の方がまだ賢いぞ」
「まぁ仕方ないでしょう。所詮弱小貴族……、いえ、『元』貴族ですから」
「そうだな。それに、奴の両親を殺したように、あのバカ女も殺せばいいしな。この毒で……」
……。やはり、そう言う事でしたか……。晩餐会の後、露骨に具合が悪くなり、もしやとは思っていましたが……。
「おいなんだお前ら!」
「げっ」
「いったいそこで何「当身!」(ゴシャァ)ウッ」
警備兵がやってきやがりましたわ!メイドが処理してくれたので、今は逃げますわよ!
「なんの騒ぎだ!?」
「いえ、警備が何やら騒いだので……。きっと見間違いか何かでしょう」
「……そうか。まぁ良い。そんな事はどうでもな……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふぅ、何とか逃げ切りましたわね」
「そうですねぇ。それでどうします?あいつらぶっ殺します?」
「両親の仇なのは分かってますわ。ですが、それをしても何も解決しないんですわ」
「ですよねぇ。じゃどうします」
「……私は一度、婚約を破棄されています。ですがレンはまだ知らない可能性があります。それを使いますわよ」
「はぁ、最期は結局運任せですか……」
とりあえずホールに入りましたわ。料理?水?一切手を付けていませんわよ。さっき聞いた話が真実なら、食えば毒を貰います。私、くれる物は毒と死とゴミ以外は全部貰いますがね。さてそろそろやってくるはずですわ……。
「皆さん!今日はお集まりいただきありがとうございます。こちらは我が息子、リングレンです!」
「……」
……。あぁ。目から生気が無くなってますわ……。一体何をされたのですわレン……。貴方のそんな顔、見たくありませんでしたわ……。しかし、あの後ろにいるメイドがいませんわね。やはり予想は当たったようですわ。
「さて息子よ、今日は重大な発表があるんだろ?」
「……はい」
「ではその口から言ってもらおう!」
「……僕の……」
恐らく、婚約者の事でしょうね。仕掛けるなら今ですわね。メイド。
「了解。お嬢様」
「僕の、婚約者の話を……」
「ちょっと待ちなさいですわぁ!」
「……誰だ?」
皆が注目していますわ。そりゃ当然ですわよね。しかし、私にとってはそんなどうでもいい事より重要な事があるのですわよ。
「お久しぶりですわね、レン」
「……クロム?」
「なっ、おい息子!クロムは死んだと言っただろうが!」
あぁ。変わっていませんわね。本当に……。しかし私、死んだことにされていたんですわねぇ。そりゃ来ませんわ。レンは私さえ生きていれば、すぐにやって来そうなバイタリティーがありますし。もしくは監禁でもされていたのでしょうか?
「……で、でも目の前に……」
「えぇい兵士!あの女を取り押さえろ!」
無駄ですわ。その兵士とやらは既にこちらで買収済み。結構な金を使いましたが……。その程度の出費、問題ないですわ。全てはこの一瞬の為。
「レン。……本当に、久しぶりですわね」
「……クロム?クロムなの……!?」
「変わっていませんわね、その顔。とても可愛いですわ」
「えぇい何をしている!こうなれば……!」
「やめてよお父様!」(バッ
「えぇい退け息子!」
「だ、第一クロムが死んだって嘘をついたのは……お父様じゃないか!」
「やかましい!お前は私の言う事だけを聞けばいいんだ!」
「なんだアレは……」「クロムってなんか見た事あるくね?」「なんかいきなり怒り出したぞあいつ」「引くわー」(ザワザワ
あーあ。こんなに人がいる前で本性を見せやがりましたわね……。まぁ別にどうでもいいですわ。こいつらがどうなろうが。重要なのはここからなんですから。
「さて……。本来であれば、腰を座らせ落ち着いて話すべきなのでしょうが……。私は今日、この場で婚約を破棄させていただきますわ」
「……はぁ?」
「えっどういう事?」
「元々は貴方達が私に婚約を申し出ていたのですわよ?それを今ここで破棄すると言う事ですわ」
「おいおい……」「こりゃ面白くなってきたなぁ!」「元貴族に婚約?妙だな……」(ガヤガヤ
「えぇい騙されるな!私たちがそんな女に婚約などするかぁ!」
そう。そこが重要なのですわ。婚約を破棄すると言う事は、すなわち一度は婚約していたと言う事になるんですわ。つまりどういう事になるかと言うとですわね……。
「第一それがどうした!婚約を破棄だと?!お前に権利があると思っているのか!こっちから婚約破棄するくらいだ!」
「えぇ。では……。リングレン様。……私と結婚してくださいまし」
「……はぁぁぁぁぁぁぁぁ?!!?!?!?!?!?」
「マジか!あの女マジか!」「そりゃ破棄されても結婚するかは聞けるよな」「どうなんだ息子様よぉ!」(ワイワイ
そう。あくまで今回の婚約破棄は……。あなた方が勝手に決めた事。私とレンの間では……一つも、何の破棄もしていないのですわよ。ですので、当然私が結婚を申しでても問題ない、ですわよね?レン自身が破棄したわけでは無いのですから。
「えぇい何を言うか!第一息子がそれを良いと言う訳が無い!だろ?息子よ!」
「……クロム……」
「私は、レン。あなたに聞いているのですわ。そこの父親でも、メイドでもありません。貴方にです」
「僕に……」
「おい早く言えよー!」「そうだそうだ!」「なんかこの酒不味いんだけど」(やいのやいの
……これで断られても、その時はその時ですわ。仕方が無かったと諦めましょう。今回の作戦、全ては……レンの意思にゆだねているのですから。
「早く結婚などしないと言え!さぁ言え!」
「お父様……いえ、父さん。僕は……。もう、貴方の言う事は聞きません」
「なっ、何を言い出すか!何もできない出来の悪いお前を!今まで育ててきたのは誰だと思っている?!この私だぞ!それを裏切る気か!?」
「……僕は……。僕は。クロムが死んだと聞かされてから、死人のように生きてきた。生きる意味なんか無いって思ってた。……でも、クロムは生きていた。先に裏切ったのは……父さん!貴方だ!」
「ぐっ!このクソガキィ!」
うーわ!実の息子に剣を向けやがりましたわ!最低!悪魔!ゲス外道!
「初めからこうしておけばよかった!お前のような出来の悪いガキなど!殺しておけばよかったのだぁ!」
「おい誰か止めろ!」「ヤベーぞご乱心だ!」「なんか毒入ってんだけどこの酒!」(どんちゃん騒ぎ
「はい。そこまでっすよ~っと」(バギィッ
あっ、メイドが来ましたわ。ようやくと言うか、ギリギリでしたわね。まぁ仕方ないところはありますわ。かなり無茶を命じましたからね……。奴らが不正に取引を行っている証拠を持ってくるようにと。と言うか今、片手で剣を粉砕しませんでしたわ?
「なっ、なんだお前は!」
「ただのメイドっすよぉ~。それより~……。これ、アンタの裏発注書の写しっすよ?」
「……何っ?!なぜそれをお前が持っている!」
「まぁそうっすねぇ~。アンタんところのご自慢のメイドを置いてたらしいっすけど~。ちょっと弱かったすかねぇ~ッ!」
あっ、あの時毒を盛ろうとしたメイドですわ。ボロ雑巾みたいになってますわ……。ちょっとやりすぎでは?
「も……。申し訳……」
「ま、こんなところですねぇ~ッ!後はこれをバラまけば……。アンタの悪事はぜーんぶ表沙汰!もうもみ消せないっすよ」
「こ、このクソ共が!殺す!殺してやるぅ!」
あっ、暴れ回りましたわよ!やめなさいみっともない!こうなればメイドに命じて止めさせ……。
「父さん。もうやめよう」
「……レン」
「クソガキィ!今さらなんだお前は!」
「僕はもう……。それ以上、父さんのひどい所を見たくない」
「黙れ!私の傀儡になっていれば今頃幸せに暮らせていただろうが、もう知った事か!まずはお前から死ねぇ!」(ブンッ
「……ごめん。父さん」(バキィッ
あっ、鳩尾に鋭いパンチ……。ありゃモロに入りましたわね。
「き、貴様……ッ」(バタッ
「……。僕はもう、父さんの傀儡じゃないよ」
……これで一件落着ですかね?やるべきことはやりましたし……。まぁここまで無様に負けると言うのはちょっと想定外ですが。あっそうだ。一つやってない事がありましたわ。
「ウググ……ッ!はっ!何をする貴様!」
「持っていてくださいまし、メイド」
「了解です!オラ顔向けろ!」
「私は貴方に、家に火を付けられたあの日から……」
「やめろ!私を誰だと思っている?!私はあの名家のリーグ・ガ家だぞ!?それを殴っていいと持っているのか!?」
「貴方に対して……こうしたいと……!」
「おい止めろリングレン!私の息子だろ!?」
「まぁ父さん……。これもケジメだよ」
「おい誰か止めろ!早く!」
「えー?」「いやもう取り潰しでしょこんな家」「みっともないぞー!」
「やっ、やめてくれぇーッ!!!!」
「ずっと思ってきたんですわぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「ふぅ。これで終わりですわ。貴方の全ては」
「……あへあへあへ」
「はいお開きお開き!さっさと帰って寝ましょ!」
「良いもん見れたなー」「早速帰って記事にしなきゃ……(使命感)」「クソ、毒入ってたぞ!あのバカが入れたんだな!解毒剤持ってなけりゃ死んでたぞ!」「マジで?ん、そういやそう言う感じの毒、確か十年前に……」(ガヤガヤ
……これで終わりましたわね……。ようやく。さて帰りますか……。
「待ってよクロム!」
「あ、レン……。申し訳ありませんでしたわ。色々」
「……十年ぶりに会ったんだよ?」
……。そりゃ、色々積もる話はありますわ……。でも、今の私にはそれをする事などできないのですわ。もう私には貴方と付き合う事など……。
「あー。お嬢様、私がコレバラまいちゃうんで、お嬢様はちょっと待っててくださいね!」
「あっメイド!ちょっと?!」
……。い、行ってしまいましたわ……。どうするんですわ、この空気感。
「……クロム」
「……なんですわ。レン」
「……ずっと、会いたかった」
「……私も、ですわ」
「ねぇ。クロム」
「なんですわ」
「……さっきの結婚の返事。してなかったよね?」
「そう言えば、そうでしたわね」
「……じゃあ、今言うよ。僕は……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
結局。あの後リーグ・ガ家は没落しましたわ~。ザマーミロですわね。私の両親を殺害したと言う事実、毒を混ぜた料理を食べさせたという事件性、そして何より、レンが被害者であったと言う事が重要でしたわ。
ちなみに私の事は全然何も書かれていませんわ。拍子抜けと言えばそうですわ。捕まる事も覚悟の上でしたし。あぁ、結局、ヴィルシーンは無人島に島流しされましたわ。奴に仕えていた奴らも、皆捕まりましたわね。特に罪が重かったのはメイドでしたわ~。あいつ、何人も殺してたそうですわ。……コワ。多分今頃ヤバい刑務所に入ってるんじゃないですわ?
「新聞読んでるの?」
「えぇ。見てくださいまし。貴方の言った事もちゃんと書かれていますわ」
「……よかった。今回はもみ消されなかった」
後で分かった事ですが、レンはあの後、私とお茶会を終えた後にすぐ父に文句を言いに行ったそうですわ。そしたら、奴は監禁と虐待でレンをボロクソにしたらしいですわ。その状態でも、私が生きていると言う理由だけで心を保ってたようですが……。あの日、家を燃やされたときに死んだと言われてたらしいですわ。……本当に、辛かったでしょう。
あの場に、記者を呼んでおいて正解でしたわ~。レンの事も全部事細かに書き記しましたからね。あいつらは新聞が売れれば何でも記事にしますからね。使えるなら全部使っておきますわよ。まぁ流石にここまで全部書くとは思っていませんでしたが。
「ま、それもこれも全部、終わった話ですわ!」
「ただいまー」
「そうだね。あっメイドさん。おかえりなさい」
……さてと。これから色々忙しくなりますわよ!ここからが正念場ですわ!
「ところで、結婚式はどこでする?僕としてはね……」
「はいストップ!……一番いいところがありますわよ」
「え?どこ?」
「……ほら、アソコですわ……」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「お嬢様結婚おめでとーっ!」
「あのお嬢様だったのかぁ」「通りで見た事があると思ったんだ俺は」「嘘つけ」(ガヤガヤ
「皆様!今日はお集まりいただきありがとうございますわ!せっかくの結婚式ですもの、楽しんで帰ってくださいましー!」
あれから一年。私たちはついに二十歳になりましたわ。長かったような、短かったような……。
「みんな楽しそうだね!」
「そうですわね。それより……。この場所にして、本当に後悔してないですわ?」
「……。ここに、クロムの両親が眠ってるんだよね?」
「……そうですわ」
私が結婚式場に選んだのは、私が住んでいた家の場所ですわ。……どうしても、ここで結婚したかったんですから。両親に、私の晴れ着姿を見せたかったのはあります。ですがそれ以上に……。
「それに。ここは、貴方との思い出の場所ですから!」
「……クロム……」
「……。やっぱり、ダメ、ですわ?」
「そんな事無いよ!……そうだよね。ここがクロムと、僕の思い出の場所だもんね!」
「えー皆様!僭越ながら今回メイドの私が司会をさせていただいている訳ですが!二人のキスを見たいかーっ!」
「見たいーっ!」「オラ早くキスがみてぇだ!」「ヒューヒュー!にくいねぇっ!」(やいのやいの
……あぁもう、台無しですわぁ。まぁ確かに、キスはしていませんでしたが……。
「オラーっ!誓いのキスしろーっ!」
「うるさいですわ!……今しますわよ」
こ、こういう時どんな顔をすればいいんですわ!?私一回もキスした事無いんですわよ!?あっ、ちょっ
「……ん」
「わぁ。バードキス」「キャッ!」
「い、今はこれでいいんですわよ!ね、レ」
「んっ!」
……ふぎゃぁっ!?いきなりキスしてきましたわよぉ!?み、皆が見てる前でこんな……あぁ。こんな……。
「ぷやぁっ!」
「レ、レン……」
「クロム!大好き!」
「……ッ!私もですわぁっ!」
「イエーィッ!ほら皆様!乾杯!」
「ヘッ!乾杯ー!」「お幸せになぁ!」「そういや苗字どうなるんだ?どっちも元貴族だろ?」(ワイワイ
……。これで良かったですわね。お父様……お母様……。
「ちなみに!ここに結婚式場を立てたのは私です!拍手!」
「へー」「そうなんだ」「ヘー」
さて……。
「レン。改めて。大好きですわ!」
「僕も!」
……。本当に辛くて、苦しかった二十年でしたわ。でも今、最高に幸せですわ!願わくば、この幸せがいつまでも……。続けば、良いですわね?