プロローグ 音を奪われた時計塔
ある国のある街のはずれにある小高い丘には立派な歴史ある時計塔が街を見下ろすように建っている。
四方の壁に備えつけられた大きな時計が正確な時を刻み続け、日の出た時間帯は長針が真上を向くと天辺に取り付けられた黄金の鐘が街全域に届くほど音を響かせ街の住人に長年時を知らせていた。
だが時代は変わり人々は正確な時を知るすべを身に着けた。
いつのまにか時を知らせる鐘の音は無用なものになり煩わしいものとなってしまった。
だから人々は時計塔から黄金の鐘を取り払った。時計塔から音を奪ってしまったのだ。
時を知らせることが出来なくなった時計塔はいつしか街の住民に忘れられた存在になった。
だがある時奇妙なうわさが街に流れることになった。
「酔狂な男があの時計塔に住み着いたらしい」
「俺は長い髪の女だって聞いたぞ」
「あんな辺鄙なところに住むやつなんているのかよ。あの塔以外なんにもないところだぞ」
「いや、羊飼いの坊主が車椅子を引いて時計塔に入ってく二人を見たって話だ」
噂は尾ひれがつき、歪み、人々の間にひろがっていった。
しかし誰一人としてあの時計塔に近づいて真相を確かめうようとする者はいなかった。
この話は音を奪われた時計塔に住む翁とお嬢の不思議な関係と日常を書いた物語である。
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次回更新日 2022/06/23 木曜日