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そのひとめぼれ迷惑です  作者: 水無月
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2.善は急げと言いますが

善は急げと言いますし、恋にのぼせ上った人間というのは大概迷惑ですわねえ


なんてころころ伯爵令嬢は笑っていたけれどその意味を考えるとアリアにはまったく笑えなかった。

夜会が終わりクリストフが自由に動けるようになったらあなた身動きできなくなりますよ、と言われ心当たりしかないアリアは頭を抱えるしかなかった。

というわけで、とクリスティーナが用意した馬車に揺られ一路カストル帝国へ着の身着のまま無一文状態で向かっているというわけだ。

人生さすがに急降下過ぎないだろうか。

これもすべてあの皇太子のせいと思うと頭が痛いし、あんな後先考えない男が次期国王だなんて。

ええ、本当に。恋は盲目なんて言うけれど、それにしたって限度がないだろうか。


「ご安心なさって?あの男、元とあれで大差ありませんから」

「ええ……」


ガタゴトと揺れる馬車という密室の中で明かされた祖国のわりと大事なことについてこの軽さ。

そして告げられた言葉の意味を考えると、さして祖国愛というものがあるとも思えないアリアですら泣きたくなる。

暗にお前の国の次期国王、元からバカだぞと言われているようなものである。

そんなことは、と言いたくはあるがなにせ言っているのはアリアなどよりもよほど皇太子と交流のある婚約者様である。

説得力の重みが違う。


「庶民の私ですら国の将来が心配になってしまうのですけれど」

「そうでしょうね。だから帝国が裏で動き始めているのですもの」

「あの……差し支えなければで良いのですけれど、それはどちらの意味でなのでしょう」


そう告げればクリスティーナはにっこりと笑う。

なんだかあれこれ試されている気分だし、実際もろもろ推し量られているのだろう。

ここでこいつやっぱ使えない判定されたらお先真っ暗な気がしてならない。


「両方ですわね。友好国とはいえ所詮は他国、隙を見せるのが悪い。というものと、隣国が将来ごたごたされたらこちらまで飛び火して迷惑だからいまのうちに、と」

「その両方のためにクリスティーナ様は嫁がれる予定だったのですね」

「ええ。どちらを主とするかは私の判断で決めて良いとお兄様からも言われていましたし」


お兄様なんて気軽に言ってはいるが皇位継承権第2位の言葉だ。

実際はカストル帝国としての方針なのだろう。それを任されるだけの能力があると思われているのであればやはりクリスティーナという人も見た目通りの人などでは決してない。


「信じてというのは難しいことはわかりますが。私はあなたを本当に気に入っていますのよ?」

「はい。そちらは疑っておりません。実感はないのですが私の魔力の件を含めてもクリスティーナ様のかけられた労力は大きすぎますし」


なにせ皇太子ご執心の女を皇太子に何も言わず誘拐しているようなものだ。

いくら婚約破棄を突き付けられているとはいえ露呈したら間違いなく揉める。というか次期国王が騒ぐ。

双方の背景を考えると、やはり最悪は国際問題となるのではないだろうか。

この人がそんなリスクに気付かないわけがない。


「すみません、本当にそういう意味ではなくて。ただ今の今までの生活が根こそぎかわるなあって」

「そこは諦めてくださいとしか申し上げられませんわ。まあ大半はあのバカのせいですし」


いよいよ取り繕いをやめたらしい伯爵令嬢様の口からは婚約者のはずの男の呼称はバカとなっている。

そのバカ一応皇太子です、と言いたいが言ったところで何の意味もないだろう。

擁護する気はアリアにもないのだからなおさらだ。


「ちなみにお兄様などいかがですか、というのも本気です」

「それも本気なのですか!?」

「もちろん。地位もありますし顔もそれなりですし。あなたがお兄様と結婚してくださったらあなたは私の義姉となるのでしょう?」


嬉しそうに告げる言葉に首を傾げる。

確かにそうなのだが、関係性の呼称が変わるだけのことがそんなに大切なのだろうか。

そう考えるアリアにクリステイーナはと言えばほんの少しだけ寂しそうに微笑む。


「家柄的に身内以外は大々的には信用できないの。あなたが、というわけではなくね」

「それは……お寂しいですね」

「きっとそうなのでしょうね。これが私にとっては当たり前のことではあるけれど」


不敬と言われるだろうかと思いながら告げた言葉に返されたのはただ静かな肯定だった。

友人が欲しいと告げ、だけどそれだけでは安心できないから身内になってほしいというクリスティーナの言葉に国は違えど貴族という立場をほんの少しではあっても考えて。

そうしてため息が零れ落ちる。


「無理ですって……あの方本気で何も考えていなかったのかなあ」

「いなかったと思いますわよ」

「殺す気ですかね」

「あのままでは死んでいましたわね、きっと」


貴族社会での身の守り方も知らないまま宮廷闘争どまんなかなんて生身で飢えた獣の檻の中に入るようなものである。

皇太子が守ってくれるなんて言ったって限度があるだろうし、そこまで他人に命を預ける気にはなれない。


「先触れは飛ばしています。我が家について落ち着きましたらその辺についてもゆっくりと学んでいきましょうね」

「知恵は力、ですものね。よろしくお願いします」

「本当にあなたは頭が回る方ですわね」


よろしく、と差し出された手に困惑しながら握手を返せば嬉しそうにクリスティーナは笑っていた。

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