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最強の道具屋はラストダンジョンまで出張します

作者: PON



「お、こんな所に『道具屋』があるぞ?!」


僕、『出張道具屋アルト』に声を掛けて来たのは世界でも七人しか居ないと言われている勇者一行だった。


ここは迷宮『深淵の洞窟』の入り口。

魔物が徘徊する『死の森』の奥にあるS級ダンジョンである。


勇者一行がこの迷宮に挑むと聞きつけて僕はダンジョンの入り口前に出張店舗である荷車を運び、彼らの来店を待っていた。


現れた勇者一行は序列6位の勇者バイスの仲間達だった。


これはラッキーだ...

勇者バイスはとある大貴族の子息と聞いた事がある。

きっと大金を持っているに違いない!


「いらっしゃいませ!勇者様!ダンジョンに挑む前にアイテムの準備をしては如何でしょうか?」


「ふんッ!良いだろう!この森で回復薬を消費してしまった所だしな...店主!何が売ってあるか見せてみろ!」


お、勇者バイス殿の購入意欲は相当だ...

これは沢山売るチャンスだな!と僕は思い、自信を持って商品達を見せた。


「こ、これは...」


勇者一行が商品の陳列を見て息を飲むのが聞こえた。


僕の店舗のラインナップはこれだ!!


・薬草(HPを30回復)

・毒消し薬(毒状態を回復)

・聖水(下級モンスターが寄り付かなくなる)

・転送魔法陣符(近くの街に転送)


「...」


勇者の仲間達が沈黙する。

どうだ!どうだ!凄い品ぞーーーー


「どれもクズアイテムじゃねぇぇぇぇかッ!!」


勇者バイスが雄叫びを上げた。


「な、なんですと...?!」


勇者バイスは僕の店舗のアイテムを指差しながら激怒している様子だ。

何故だ?分からない...


「こんなアイテム、初級冒険者が使うもんじゃねーかッ!俺は"勇者"だぞ!...時間の無駄だ!お前ら行くぞッ!」


「な、なにもご購入しませんか...?」


僕は慌てて引き止める。

こんな森の奥地まで来たのだ、手ぶらで帰ったらギルドからの評価がまた落ちてしまう...


勇者が僕の声に反応し足を止める。


「そんなクズアイテムいらねーよ!どうしても売りたいならお前が金を払え!...ゴミの引き取り金としてな!ハハハハハハッ!」


勇者とその仲間達は僕のアイテムを嘲笑(あざわら)いながらダンジョンへと消えて行った。


しかし普通の商人なら此処(ここ)で引き下がる所だろうが僕は諦めない。

そうだ...商売の基本は売り時だ!


きっと今彼らはアイテムが潤沢にあるのだろう。

そしてこのダンジョンに来たという事は、目的は最下層のボスモンスターの討伐。


彼らがアイテムを必要とするのはそこだ!!


僕は自分の閃きが恐ろしい...

居ても立っても居られず、僕もダンジョンへと進むのだった。






〜勇者一行 戦士ルークの視点〜


俺達、勇者一行はダンジョンへと歩みを進めた。


「なんだったの〜さっきの道具屋〜。こんな高難易度ダンジョンの前であんなゴミ売れるわけないのに〜ウケる〜」


魔法使いのリリーが先程の道具屋を馬鹿にしながら悪態を吐く。

しかし俺は一つ疑問に思う事があったのだが...

それよりも俺はバイスに聞く。


「薬草だけでも買っておいた方が良かったんじゃないか?回復アイテムも死の森で消費した事だし」


実際に死の森の魔物達は強かった。


勇者、戦士、魔法使い、僧侶、武闘家。


俺達五人が揃って居なければこのダンジョンまで辿り着く事は無かっただろう。


「おいおい、ルーク...本気か?薬草を持っていてもなんの足しにもならんぞ!」


「ではせめて、転送魔法陣符だけでも...」


バイスは不機嫌そうな顔で俺を見る。


「それこそ不要だ!あんな物、ダンジョンの難易度を見誤った初級冒険者か臆病者しか使わん!」


バイスは怒りの口調で俺に言った。


「心配し過ぎですよ戦士ルーク。我々には不要な物しかありませんでした」 


武闘家のジョナサンも笑いながら言う。


「それに私の回復魔法もあります。大丈夫でしょう...」


僧侶のダリアも余裕な表情で言った。

俺の心配し過ぎだろうか...


一抹の不安を抱えながらも俺はダンジョンの奥に進むのだった。


しかし...疑問だ。


あの商人はどうやって死の森を超えてきたのだ...?


そんな疑問が俺の頭の片隅に過ぎるのだった...











俺達はダンジョンの中層まで来ていた。

此処(ここ)までの魔物達は強敵揃いで、消耗が激しい。


「引き返そうバイス...」


俺はバイスに進言する。


「黙れ!このまま帰れるか!俺達より先に勇者アリシアが先行してるんだぞ!あの女はたった三ヶ月で序列2位まで行ったんだ!負けられるかッ!」


バイスはニ年以上勇者をしている。

しかし最近勇者になったアリシアに序列を抜かれ焦っていた。


故に勇者アリシアがここのダンジョンの攻略に乗り出したと聞きつけ、彼女を出し抜こうと俺達もやって来たのだ。


しかし、ここは明らかに俺達の実力に()ぐわない。


「そうですとも...まだ我々はやれます!」


「も、問題無いし〜」


「まだ私たちに神のご加護はあります...」


他の仲間達もそれに気づいているはずなのに、それでも進もうとする。

これでは全滅は必至(ひっし)だ。


しかし俺一人で引き返す訳もいかない。

とりあえずは彼らに同行し下層へ降りるしかないようだ...








〜道具屋 アルトの視点〜



ダンジョン最下層のボスの居る広間前まで降りて来たは良いけど、中々勇者達は現れない。


もしかしてボスを倒して出て行ったかな?と疑問に思うが恐らくそれは無い...かな?


道中に彼らを一度見て追い抜いたし、そこから追い抜かれた形跡も無い。


ーーーもしかしたら途中で全滅...?


いやいや、まさか勇者一行に限ってそんな...


僕は少しだけ不安を感じながら、とりあえず勇者バイス一行を待つ事にした。








どれくらい経っただろうか...もう諦めて帰ろうかと思った矢先に、ダンジョンの奥から声が聞こえた。


「だ、誰か助けてくれェェェェェェ!」


そこには勇者バイス一行が叫びながら走っているのが見えた。


どうやら彼らはこのダンジョンの魔物、クリスタルドラゴンに追いかけられているようだ。


これはチャンス!


「勇者バイス殿!薬草は...」


「邪魔だァァァァァァァァァァ!!」


勇者バイス殿は相当慌ててらっしゃるな。


彼は僕を通り過ぎ、広間の扉にもたれ掛かる。

勇者の呼吸はかなり乱れており、お疲れの様子だ...


「勇者バイス殿!薬草は疲労にも...」


「う、うるさい!ていうか何でこんな所に居るんだ!!」


勇者バイスは僕の胸倉を掴み声を荒げる。


「バイス殿のお役に立ちたくて此処(ここ)までの参じました...」


勇者バイスの仲間達も遅れながら、此処まで辿り着く。


「な、なんでアンタがここに...」


戦士の格好をした男が僕に言う。


「いや、だから...」


僕は戦士の彼に説明をしようとすると、


「話は後で良いからッ!ちょうど良かった!転送魔法陣符を持っていたでしょ?早く寄越しなさい!」


僧侶の女性が凄い剣幕で僕に言ってきた。


「そうよ!早く出しなさい!」


魔法使いの少女も言う。


これは千載一遇のチャンスだ!

これで人数分の転送魔法陣符が売れれば相当な利益になる!


「ええ!よろしいですよ!人数分ですか!?であればお会計は...」


僕がお会計をしようとすると、


「この状況が貴様には分からんのか?!超上級モンスターのクリスタルドラゴンが迫っているのだぞ!金など言っている場合か!早く転送しろ!皆死ぬぞ!」


武闘家風の男が僕の出張店舗から魔法陣符を取ろうとする。


「こ、困ります!お代は頂かないと...」


「う、うるさい!早くしろ!」


バイス殿も武闘家と一緒にアイテムを漁り出す。


そうか...クリスタルドラゴンが居るから慌ててるんだな!

勇者バイス殿を盗人(ぬすっと)にする訳にはいかない。


僕は決意し、迫り来るクリスタルドラゴンの前に立ちはだかる。


「アイツ何やってんだ?!死にたいのか?!」


バイス殿は僕を見ながら理解出来ないという眼差しを向けていた。


「大丈夫ですよ」


クリスタルドラゴンは僕と勇者一行に迫り、その硬いクリスタルで覆われた腕を振り下ろす。


勇者一行の悲鳴が後ろから聞こえたが気にしない。


僕はクリスタルドラゴンの振り下ろされた腕に掌を向ける...









〜勇者一行 戦士ルークの視点〜



まだ二十歳にもならない様な道具屋の少年がクリスタルドラゴンの前に立つ。


正気か...


あれは並の冒険者では歯が立たず、上位の勇者か国を上げて対処する存在だ。


そう思っていたのだが...俺は驚愕した。













クリスタルドラゴンの振り下ろした腕をあの道具屋はその細い腕で受け止めていた...


「皆様、少々お待ちください。お会計の邪魔を排除しますので...」


彼はそう言うと、クリスタルドラゴンの腕を受け止めた掌に少し力を込める動作をした。


「ギャァァァァァァァァァァ!!」


途端にクリスタルドラゴンの腕は砕け、のたうち回る。


「な、なにが...」


俺はそれ以上言葉が出ない。

後ろを振り向くとバイスや仲間達も唖然(あぜん)としていた。


「これでお会計が出来ますね...転送魔法陣符を四枚で4000Gに...」


この状況と釣り合わない笑顔で道具屋は会計をすすめる。


「ギャァァァスゥッ!!」


クリスタルドラゴンは叫び声を上げ、片腕になりながらも立ち上がり、再びこちらに向かってくる。


「マズい!今度こそ終わりだ!」


バイスは頭を抱えながら(うずくま)ってしまった。


「すいません...どうやら手加減したのが良くなかったですね」


再び道具屋の少年がクリスタルドラゴンの前に立つ。


「えいッ」


彼がクリスタルドラゴンの腹部に拳を放つ。


「グァッ...」


クリスタルドラゴンは小さな断末魔を上げると粉々に砕けてしまった。


この道具屋は単独でクリスタルドラゴンを討ったのだ。

しかも、(いと)も簡単に...

一体何者なのだろうか?


俺の頭の中はその事で一杯となってしまった。










〜道具屋 アルトの視点〜


「毎度ありがとうございます!」


クリスタルドラゴンを退けると勇者一行は僕に転送魔法陣符のお代を払ってくれた。


「お、お前何者なんだ?」


勇者バイス殿は何故か青褪(あおざ)めた顔で僕に聞く。


「出張道具屋アルトです!これからも御贔屓(ごひいき)に!」


きっと、僕のアイテムが役に立ったのだろう。

これからの事も考えて僕はバイス殿に自己紹介をする。

これもビジネスの基本だ!


「い、いや...そうじゃなくて...」


更にバイス殿が僕に何かを聞こうとすると...


ギィィィィ...ガゴン!


僕らの後ろから扉が開く音がした。



「あッ!アルトだ!やったァァァァァ!」


扉からは赤髪の少女"勇者アリシア"が現れた。


アリシアは僕に抱きつこうと飛びついてきた。

...が僕は華麗に避ける!


「避けないでよーアルトー」


僕の幼馴染アリシアは頬を膨らませ僕に抗議する。


「今は接客中。邪魔しないでくれる」


「ぶー」


アリシアは不満そうに僕に訴えて来た。

すると彼女の仲間達も扉から出て来る。


「勇者アリシア?!...いや、そんな事よりコイツお前の知り合いか...?この道具屋は何者なんだ?!」


バイス殿がアリシアに詰め寄る。


「あーバイスくん、居たんだ。うーんアルトは私の将来の旦那さん?」


「違います」


僕は訂正する。


「ぶー。アルトはね私の幼馴染!」


アリシアは不満気に答えた。


「答えになってねーよ!コイツのデタラメな強さはなんだ?!」


バイス殿の問いにアリシアは少し考える素振りを見せる。


「あー、それ。そりゃあそうだよ、アルトは先代勇者様の孫だもん...」


おい、バラすなよ。


そう僕はかつて世界を魔王から救った勇者の孫である。

これを知られると商売がやり辛くなる...


「なんだって!?先代って言ったら歴代最強の勇者じゃ...その血縁」


そう、僕のじーちゃんは勇者だった。

しかし、じーちゃんは僕を道具屋として育てた。


その理由はーーーー





「勇者なんかより道具屋になれ!」


じーちゃんとのやり取りを思い出す。


「じーちゃんはな、魔王を倒す前に一度回復薬が切れちまったんだ!そりゃあ苦労した!だからなお前には何処でも行ける最高の道具屋になってほしいんじゃ!」


その教育方針の下、僕は道具屋となった。


とりあえず何処にでも出張出来るように剣やら魔法やら体術やらは一通り仕込んでもらい、今ではじーちゃんより全然強い。


しかし肝心な道具屋については何も教えて貰えなかったな...おかげでギルドでは万年売り上げビリ。







「道理でこの強さ...」


バイス殿の仲間の戦士...ルークさんが僕に言う。


「どうか、弟子にして下さい!」


「えっ?!」


僕は驚いた。

弟子って...僕は道具屋だけど。


「無理ですよ!」


僕は慌てて拒否する。僕は道具屋な訳だし。


「な、ルーク裏切るのか?!」


「いや、もうお前達には着いて行けなくてな」



ルークさんはそう言うとバイス殿の仲間を抜けた。

最後に何か喚きながらバイス殿達は転送魔法陣符を使いダンジョンを去って行った。


僕はお得意様を一件逃してしまった...

これもアリシアのせいだ!


アリシアを向くと彼女は小さく舌をだして笑っていた。


どうやら僕の道具屋として一人前になるにはまだまだ長い道のりのようだ...





最後まで読んで頂きありがとうございます。


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― 新着の感想 ―
[一言] 実際RPGとかだと一番効果が低い回復アイテムってわりと使う。戦闘中は使わないけどボス戦前にHPを満タンまで回復させたりするのに使うな。お店でも安いから大量に買い込めるしね。
[良い点] ダンジョンの奥に道具屋があればなぁとはよく思ったものです。(実際あるゲームもあったりしますが) バイス一味が壊滅するようなことにならないのも良かったです。 面白かったです。
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