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ミナミヘ ススメ  作者: 楠本 茶茶(クスモト サティ)
第2章 代表
19/36

19節 謀略

19節 謀略


 先ほどのミナミの思いは、結果としてムダになった。

ミナミがばぁばにもサラドンが定着している可能性を告げたとき、ススメはこう言ったのである。

「そうか、やっぱりな…」

「気付いてたの」

「気付いたというより、そうなる方が自然だろ? 今までの流れからしてさ」

「…だね」

「バチャンで良いかな… 呼び方は」

「ややこしくない? ばぁばと」

「すぐ慣れるさ。それにたぶんオレとミナミ以外は、もうそう呼んでるんじゃないかな?」

「そっか… それもそうね」

「名前は《あおば》だからな」

「どっちみちバチャンだね… ふふふふ」

「おう、そうだっ!」

「どしたの、ススメ」

「ミナミ、どう思う? 例の作戦のサラドンさ、バチャンに分身作ってもらうってのは」

ミナミはしばらく黙り込んだ。


「なるほど、適任かもね」

「うん… こどもたちのサラドンより考えもしっかりしてるんじゃないか? それに肚が座ってる」

「いいと思うわ… アタシ今から交渉してくる」

「そうだ、セイラも連れていけば?」

「そうね、そうする」

「場合によってはバチャンとラチャンの一部ずつの連合軍になったりしてね」

「サラドンみんなって言うかもね」

「いいよ、ミナミ… 任せる。みんなの思いは一つだ」


 午後になって、ばぁばとアンナが動き出した。

 

 結局最後まで「ばぁば」と書き続けるつもりだが、せめて「椎原しいばら 青葉あおば」という本名だけは紹介しておこう。旧姓は櫻木さくらぎ… そのせいか結婚しても植物とは縁が切れず、趣味はプランターでのハーブや作物の栽培、他にフルートやピッコロ、クラリネットなどに管楽器の演奏をたしなんだりもする。

 

 あのあとミナミは子供たち全員を連れてばぁばの部屋に行き、作戦第一号の支度にかかった。結局のところ、おそらくD-アミノ酸が不足していたせいか、バチャンはまだ十分に成長していないことがわかってきた。そこでタチャン、ラチャン、ナチャンからも一部の細胞を供出してバチャンを支援することにしたのだ。

 実際のところ、バチャンはラチャンから分離したサラドンだった。そのホシ(犯人)はもちろんセイラである。普段は穏やかで好ましいばぁばであるが、ごくたまに、ひょいとスイッチが入ったときにはネチネチと叱言が続くことがあり、あるときたまりかねたセイラがラチャンをけしかけたのである。

「ほら、昼寝中の今がチャンスだよ。あんなにしつこく怒らないように言い聞かせてきてね」

そう語り掛けてラチャンの一部をアゴに載せたことがあったのだ。まあ、それはナイショ話である。


 そう、ばぁばとアンナが向かったのは、代表鷺坂の部屋だった。ノック2回。

「失礼します、こんにちは。南戸 進の義母ははの椎原 青葉です。ススメの使いで参りました」

少し待つと

「どうぞ、おはいりください」

鷺坂の声がした。


 のっけからばぁばは低姿勢だった。

「なんかもう… みなさんのウワサですと、先日はススメがなにやら身の程もわきまえずに御迷惑を掛けましたそうで、申し訳ありませんでした」

「ああ、そんなことですか… わざわざ… いや、残念ですが、もう済んだことです」

「それが… ススメもあれから反省してましてね、今日は子供たちがフルーツアイスシェイクを作ってまあまあ上手にできたら、どうしても鷺坂さんにお届けしてこいと、こういうわけでして…」

「いやいや、それには及びませんよ」

「それが、あの年で本人も恥ずかしいんでしょうね。あとで直接話に行くから、今どうしてもアイスシェイクを置いて来いと…聞かないんですよ… 無礼のほどは、ああいう人間なのでお許しくださいまし」


 代表として、こう下手で出られてそう悪い気はしなかったらしい。

「そうですか… 確かに誰しも過ちはあるものですから… ちょっとひど過ぎましたけどね。」

「まあ、大変ご迷惑を御掛けしました鷺坂さん、この年寄りとこの子に免じて、今回だけは勘弁してやってください。あ、これはススメに頼まれたワケじゃなくて、義理の、ですが母としての願いです。お願いします。あとで本人が来ますから、しっかり叱ってやってください」

「しかし… 正直言って代表団解任のところですが…」

ちょっとアンナを見遣り、言葉を続けるか迷っているようだった。


「そのへんも、また本人が話に参りますので、言い聞かせてやってください。15時くらいでよろしいですか」

「仕方ない… お母さんの顔を立てましょう」

「ありがとうございます。では…わたしたちはこれで… 失礼いたしました」

「ふむ」

「くれぐれも… お頼み申し上げます」


 ばぁばが出て行ったあと、鷺坂はフルーツアイスシェイクの紙容器を持った。冷えているせいか、表面が濡れていた。洗面所にぶちまけようとして… ちょっと考えた。

味の感想とか、どんなフルーツだったか、感想を求められたら面倒だな…

一口飲んだ。

パイナップルの酸味が意外にうまかった


 くそ、面倒くさい。こんなことがなけりゃ、

「解任する、もうオレの前に来るな」

の一言で済んだのに。反面ほっとしたのも確かである。ここはみんなに度量どりょうの広さを見せておくべきだ。現地で解任など責任問題だし、防衛省や政府への聞こえも悪い。つい、大きな声のひとりごとがでた。

「まあ、仕方ないか…」


 糖尿病を警戒する鷺坂は、もう一口飲んで残りを洗面所にぶちまけ、水を流した。

D-アミノ酸とサラドンを配合した特製フルーツアイスシェイクは跡形もなく流れていった。


20分ほどして…

音もなく洗面所の排水口に這い登ってきたゼリー状の塊があった。


 15時になる5分間に、ススメがやってきた。きちんとした身形でしゃっちょこばって鷺坂の部屋をノックした。

 中からはしばらくなにやら叱責とそれに対する謝罪のような音が聞こえてきた。およそ15分が過ぎたころ、赤くなってカチカチの表情をしたススメが深々とお辞儀をしたあと鷺坂の部屋を出て扉を閉めた。

やがて303の部屋に入ったススメは、カナタに向かって小さくガッツポーズをして見せた。


 つまり… ススメの代表解任は回避できただけでなく、排水口に流されたサラドンの回収も無事に終わった。同時に鷺坂の体内にサラドンを侵入させる作戦も成功したことが判ったのである。

あとしばらくは… 次の作戦を準備しながらサラドンが鷺坂を乗っ取るのを見守る時間になる。


 数日おきにばぁばがアンナを連れて鷺坂の部屋を訪ねては、感謝の言葉とともにお土産みやげを置いてくる。お土産は必ず「飲食するできるお料理や酒」だった。鷺坂にD-アミノ酸を補給するものであることは言うまでもない。徐々に鷺坂の言動が変わり始めてはきたが、態度が今ひとつ曖昧あいまいなところが謎だった。ある日ばぁばはわらべ遊びにかこつけてアンナに鷺坂の手を握らせ、体内のサラドンと意思疎通を図った。


 ススメはそんな作戦の成功をこう表現して喜んだ。

「サラドン感染のウラばかりの接待準備がうまく行ってるってさ…  オ・モ・テ・ナ・シ」

アンナには最初その意味が解らなかったらしい。そりゃそうだろな、うん… り過ぎです。


 アンナには最初その意味が解らなかったらしい。こちらは鷺坂代表中のサラドンから聞いた言葉が意味する行為だ。

 このオジサンが「こんなにもご褒美を… この魅力には勝てませんな」って言うとね、

もう一人にヒトがなにかわからないことを言うの。

それを聞いたヒトがね、笑いながらやっぱりわからないコトバを話すんだよ。

それを聞いたさっきのヒトがね、こんどは「まあ良いんですよ、取っておいてください」なんて言うの。

するとこのオジサンが「はっはっは、うれしいにもつですが、ショトクゼイはかかりますかな?」なんて応えてね、

次のヒトが笑いながらなにか言って、次のヒトがたど

たどしく「おぬしもワルよ」ってバカ笑いしてたってさ。


 このことはアンナの「なんきょくにっき」にも記録されている。


 さぎさかだいひょうとておつないで、たいちょうのさらどんとこっそりおはなししたよ

 これひみつ

 ごほうびって、ちょこれーとのことかな

 みりょくっておこづかいのことかな

 しょとくぜいってなに? 

 ままにきいたら、げっきゅうからとられちゃうぶんだって

 わるっていって、なにがおもしろいんだろう

 おじさんて、わからないことばっかりだった。


 なんきょくなのにあざらしもぺんぎんさんもきてくれない。

 きょうもかぜがさむいだけだけど、だいぶなれてきたよ

 よるはおーろらがみれるといいな


要するに… 鷺坂はとっくの昔に某国に買収されていたのだった。

「なるほど… 乗り気じゃなかったワケだわ、こりゃ…」

ススメは呆れた。


 後日ごじつ詳細しょうさいがわかってきたとき、あまりといえばあまりのことに、

「原発建設の邪魔をしなけりゃ分割5万ドル、10年総額50万ドルのワイロ付きだってさ… 野球の年俸並みで、しかもインセンティブまでついてたよ… 代表が聞いて呆れるわ。任命したのは誰だ? 任命責任も問い詰めてやりたいわ」

とミナミにこぼした。


「なるほど、やっぱりか。ありがちな構図だね… 証拠は押さえたの?」

「そこが泣き所さ。現ナマに名前は書いてないからなぁ… メモはあっても東京のご自宅だ」

「自供だぁ自白だぁはしないよね… たぶん、普通は…」

「そう… サラドンの影響力がもっと強くなれば、あるいは、ね」

「でも某国が関与を認めるとは思えないわ。言いがかりだって否定されるのがオチよ」

「確たる証拠か… くそっ」

「そう、そしていよいよヤバくなれば、関係者が消される… のよ、きっと」

「…だな、間違いない」


それでも差し入れの甲斐あってか、鷺坂の言動は徐々に理想に近づいてきた。

そして、第二回目の某国との会見も近づいてきた。



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