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番外編(11) ルート3のおしまい(海野真夏視点)


「はぁ、はぁ」

 意識が飛びそうだ。

「ああぁ~もう、ダメ」

 あっという間に弱音をはく。

「何を言ってるんだい、まだ始めたばかりだろ?ほら、僕につかまって」

 冬馬さんが強引に手を引く。

「はぁ、はぁ、だってこんなに辛いなんて思わなかったんですよ」

「いってみたいって言ったのは君だよ?」

 冬馬さんはあきれたように言った。

「はぁ、はぁ、もういいです。帰りは絶対ケーブルカーで帰ります~」


 冬晴れの筑波山に登ってみたいと言い出したのは確かに私だった。日ごろの運動不足がたたっているらしい。登り始めてあっと言う間に息が切れ始める。冬馬さんに手を引かれてものろのろとしか進めない。ちびっこや、老夫婦までが、私たちを笑いながら追い越していく。

「冬馬さんはやけに元気ですねぇ。何を食べたらそんなに元気でいられるんですかぁ?」

 厭味混じりに言うと、

「真夏……かな?」

 と赤面ものの返事が帰ってきた。一人、かぁっと赤くなっていると、冬馬さんは、ああ間違えた真夏の作るご飯だった、と言って笑った。もう~。


 頂上でお弁当を広げた。けど、それどころではない私はばったりとベンチを占領して横たわる。

「真夏、先に食べちゃうよ?」

「どうぞどうぞ、先にやっちゃってください」

 私は手だけを上げて振って見せた。お弁当は二人で作った。お結びを私が、冬馬さんが卵焼きとウインナーを焼いてくれた。お結びの中味は梅とオカカとシャケだ。彩りを良くすると美味しそうに見えるとお弁当の本に書いてあったので、プチトマトと茹でたブロッコリーも入れた。


 木々の梢で小鳥がさえずっている。

「ああ~富士山麓でオウムなく」

 私の呟きに冬馬さんが吹き出した。

「富士山じゃなくて筑波山だし、山麓じゃなくて山頂だし、オウムじゃなくてシジュウカラだし、何一つ一致してないな」

 水筒のコップを片手に、冬馬さんが近づいてきた。

「一緒に食べようよ。一人じゃつまらない」

「喉が渇きました。私にもお茶ください」

 むくりと起きあがる。

 冬馬さんはコップからぐいっとお茶を飲み干すと、いきなり私に口づけた。いきなりな行動に唖然としつつ、ついごっくり飲み下す。

「な、なにをするんですか?イキナリ……」

「お茶が欲しいって言ったよね?」

「口移しでなんて言ってませんよ」

「疲れて死にそうな様子だったから、その方がいいかと……」

「疲れて死にかけてるんで、人工呼吸もお願いします」


 お結びを頬張りながら考え込む。3の平方根について……。

「ねぇ、冬馬さん、3の平方根の覚え方って、『人並におごれや』でしたよね」

「そう言うよね」

 何事かと冬馬さんが首を傾げる。

「おごれやって、人に振る舞えってことですかね、それとも奢り高ぶれってことですかね?」

「どっちでもいいんじゃない?ルート3を覚えられれば……」

 冬馬さんは苦笑しながら卵焼きを食べた。

「ルート3って終わりがないんですよね?」

「そうだね。ルート3の数字の並びは循環しない。だからルート3は無理数と呼ばれるんだ。今のところ出されているルート3の近似値は、確か一万桁まで行ってたと思うよ」

「一万桁ですか~」

 私は、帯のように細長い紙に永遠に続く数字を書き込んでいく想像をする。一万桁まで書き込んでも、それは厳密な意味でルート3ではないのだ。あくまでも近似値。

「何を考えてるの?」

「永遠を探せって言われても、なんだか漠然とし過ぎていて、広大過ぎて、水平線を掴むようで、地平線を追いかけるみたいで、捉えどころがないけど、ルート3のおしまいを探してこいって言われたら、何とかなりそうな気がしますね」

「一つ一つ数字が積み重なっているからかな?でも恐らくどっちも無理だよ?」

「無理って言ったら、そこで終わっちゃうじゃないですか~」

 私は頬を膨らませる。


 何事につけ、積み重ねること、それが大事なのだ。たぶん。


「ねぇ、帰りに温泉に入って行きましょうよ~」

「いいね~」

 青空に二羽の小鳥が、つかずはなれず楽しげに飛び回るのを見ながら、二人で微笑みあった。



(了)


最後までお付き合いいただきありがとうございました。 招夏

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