決着の結婚式 1
純白のドレスに身を包んで、アリシアは座っていた。
顔を隠すベールで、その表情は見えない。
ふんわりと波打つ金髪は半分編みこまれて、残りは艶やかに背中に流れていた。
今日は待ちに待ったフリーデリックとの結婚式だ。
花嫁の控室には、アリシア以外誰もいない。
アリシアが人払いを頼んだからだ。時間になったらジーンが呼びに来ることになっている。
アリシアは窓の外を見て、太陽の高さを確かめた。
雲一つないいい天気だが、真冬だ。暖炉の炎が揺れる室内は温かいが、外は相当寒いだろう。
アリシアは徐に立ち上がると、ドレスの上に分厚い外套を羽織った。くるぶしまでの長さの外套を羽織り、フードをかぶる。
そして、控室の扉をあけると、周囲に素早く視線を走らせ、誰もいないことを確認して、部屋から抜け出した。
物音を立てないように静かに、ステビアーナ城の外へ。
裏手に回り、今はあまり使われない旧道の方へ向かえば、木の陰に隠れるように一台の馬車が止まっていた。
アリシアが馬車の戸を叩くと、それは静かに開く。
「待っていたよ、アリシア」
素早く馬車に乗り込んだアリシアに微笑みかけたのは――ラジアンだった。
☆
「君から手紙をもらったときは嬉しかったよ。ようやく僕の心が通じたんだってね。君を助けることができるのは僕だけだ。フリーデリックなんて男じゃない」
ラジアンはうっとりとそうつぶやいて、アリシアの手を取った。
「君もわかっただろう? フリーデリックが好きなのはユミリーナ。君を愛してなんていなかったんだ。でも僕は違う。心から君を愛しているよ」
ラジアンはそっとアリシアの手の甲に口づけを落とす。
長かった。一目見たときからずっと手に入れたかった美しい姫君。
はじめて会ったとき、その紫色の綺麗な目に惹かれた。鮮やかな金髪に、小さな顔に、意志の強そうな、それでいてどこか脆そうにも見える綺麗な形をした眉に。汚してみたくなるような雪のような白い肌に。
閉じ込めて自分だけのものにしたいと思った女性ははじめてだった。
そして、こんなにも手に入れるのが大変だった女性もはじめてだ。
(やっと、手に入れた……)
自分だけの美しい姫君。
正直、政治的にはユミリーナも欲しかったが、アリシアが手に入るのならば惜しくない。
「君は本当に綺麗だ。一目見たときから君のことが忘れられなかった。こんなに遠回りをすることになったのは誤算だったけれど、それでも君がこうして僕の下に来てくれたんだから待ったかいがある」
「………」
アリシアは黙ってうつむいた。
その様子を、ラジアンはまだフリーデリックを引きずっているのだと解釈して、外套のフード越しに彼女の頭を撫でる。
「あんな男のことはさっさと忘れればいい。君を傷つけた男だ。そのかわり、僕が一生大事にしてあげるから」
アリシアはきゅっと唇をかんだ。
そんなアリシアを、ラジアンはそっと引き寄せようと手を伸ばす。
だが――
「――本当に、なんでこんなことに気づけなかったのかしら。自分の馬鹿さ加減に、涙が出そうですわ」
震える唇で、そうつぶやいたアリシアの声に、ラジアンの手がぴたりと止まる。
「その声――」
アリシアは馬車の中で外套を脱いだ。そして――
「さすがに声は覚えていてくださっているようですわね!」
繊細なレースのベールごとその下にかぶっていた、金髪のウィッグをはぎ取り、
「あなたなんて、大嫌い!」
ラジアンに向けて叩きつけたのは――、アリシアの変装をしていたユミリーナだった。







