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【書籍化】悪徳令嬢に転生したのに、まさかの求婚!?~手のひら返しの求婚はお断りします!~  作者: 狭山ひびき


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エルボリスの第二王子 3

「ラジアンのこと?」


 ギーニアスはきょとんとして、友人である隣国の王太子に視線を向けた。


「兄とは言っても、それほど親しくないし、ここ最近は公務のときでしか顔を合わせていないから、たいした話はできないかもしれないけど……」


 エルボリスのは三人の王子がいるが、どの王子も母親が違う。エルボリスは一夫多妻の国で、四人の妃がいるが、正妃が気難しい性格で、正妃の子であるラジアンとは親しく過ごした記憶がなく、また、ギーニアスも身分の低い母を持つ王子とラジアンに蔑まれていることを知っていたので、自ら近づくようなこともない。

 そのせいで、ラジアンのことはあまり詳しくない。互いに会話らしい会話はなく、人づてで話を聞くばかりなのだ。

 ギーニアスが騎士団に入団してからというもの、より疎遠になっている。


「さっき、アリシアのことを言っていただろう?」

「ああ、それは知っているよ。昔、父上から聞いたからね。ラジアンがアリシアという名の公爵令嬢を妻に迎えたいって言っているって」

「は? 妻?」

「うん。その時はまだ彼女は十四か十五くらいだったかな。どうも相手の了承は取っていなかったようで、父上にまずは相手の了承を得て婚約関係を結んでそれからだって諭したらしいけどね」

「当り前だ。ユミリーナと婚約する前ならアリシアは間違いなく十四だ。十四歳の娘を嫁にやれるか! しかも了承を得ていないなんて……」


 まるで実の兄か父のように怒るディアスに、ギーニアスは小さく笑った。


「仲いいんだね」

「もう一人の妹のようなものだからな」

「そうか。なら、なおさら面白くないだろうね。結局そのあと、ラジアンはユミリーナ王女と婚約したみたいだけどね。ただ、……本当に諦めたのかなって俺は思ってた」

「というと?」


 ギーニアスはプティングを口に運びながら、困ったように眉を下げた。


「昔から、ラジアンは執着心が強いんだ。一度執着した存在をそう簡単にあきらめるとは思えない。ましてや相手の気持ちも考えずに強引に結婚の話をまとめようとしていたくらいだぞ? あっさりユミリーナ王女と婚約して――ああ、ユミリーナ王女は愛らしい姫君だよ? だけど、ねえ、なんというか、本当にユミリーナ王女のことが好きになったから婚約したのかなって思ってたんだよね」


 もちろん、ギーニアスにも王族の結婚問題はそう簡単なものではないとはわかっている。ユミリーナは王女で、アリシアは身分が高いとはいえ公爵令嬢。両方を天秤にかけたとき、政治的に見ればユミリーナ王女を選ぶだろう。

 しかし、だからといって、ラジアンがアリシアを「諦めた」とは思えなかった。

 気に入っていればなおさらだ。


 ラジアンにとっては幸いなことに、エルボリスは一夫多妻制の国。ギーニアスは心のどこかで、ラジアンが強引にアリシアも手に入れるのではないかと思っていた。

 だから、フリーデリックの結婚相手がアリシアと聞いて驚いたのだ。あのラジアンは本当に身を引いたのかと。信じられない。


 ラジアンは目的のためには手段を選ばない男だ。

 その強引な性格が、国を治めるのには有効なのかどうか、政治的な手腕もなかなかなものらしい。性格はさておき、父が「次期国王」としてラジアンを買っているのは確か。

 そんな強引なラジアンだ。ユミリーナ王女と結婚した次の日にアリシアを連れ帰っても不思議ではないと思っていたのだが。


(まあ、相手の気持ちを考えずにつれてくる可能性が高かったから、フリーデリックと結婚するなら安心かな。あいつなら充分守れるだろうし)


 ギーニアスはプティングを食べ終わると、紅茶で喉を潤した。


「それで、ディアスはラジアンの何が聞きたいの?」


 ディアスは一瞬言葉に詰まったようだが、諦めたように口を開いた。


「どんな男かが知りたかった。それからどうやら、今の話が本当だとすると、ラジアン王子はアリシアを諦めたりなんかしていない。……ユミリーナに、自分ではなくフリーデリックをあてがい、アリシアを手に入れるつもりだ」

「は?」


 ギーニアスは目を丸くした。


「どういうこと?」

「父上が馬鹿な手紙をフリーデリックに送り付けたから、母上に頼んで締め上げて吐かせた。父上にユミリーナが実はフリーデリックを好いていると進言したのは、ラジアン王子だったらしい」

「ま、待って。ごめん、ついて行けない。いくらなんでもそれは……。自分で婚約しておいて婚約をなかったことにしようなんて、さすがに」

「それについては、思うところがあります」


 それまで黙って二人のやり取りを聞いていたジョシュアは、自分のプティングをすっかり食べ終えると、厚かましいことにお代わりまでしていたのだが、二個目のプティングを半分食べ終わったところで口をはさんだ。


「どうやらラジアン王子は、ユミリーナ王女と婚約したのちも、アリシア嬢に頻繁に手紙を送っていたようなんです。『つらいのなら助けてやる』という内容の手紙が何度も送られてきたと」

「助けてやる?」

「ええ。アリシア嬢はつい最近まで不名誉な濡れ衣を着せられていてあわや処刑までされかけたのですが――」

「ええ!?」

「まあ、そこはフリーデリックが颯爽と――いや、颯爽とではないですが、まあ何とか助けたので大丈夫です。ただ、気になりませんか? 陛下へユミリーナ王女とフリーデリックの結婚を勧めたのはアリシア嬢とフリーデリックが正式に婚約してから。もっと言えば――」


 ジョシュアは眼鏡を押し上げると、暗い笑みを浮かべた。


「ラジアン王子がアリシア嬢を『助ける』機会を失ってからです」


 ギーニアスは、絶句した。


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